プロローグ 争いの火種
地球に模した『ザンベル』が宇宙に無数ある、この世界。
――平和に見えたが、争いの火種が起きていた。
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アビ暦2055年11月2日。
汎用宇宙艦ゲルラージにシロヴィンの新型機を乗せ、ガンネ隊が所有している基地に向かっていた。
「いよいよ明日から先輩専用の機体、運用が開始しますね」
食堂から窓越し宇宙を見ていたキャンベルに、今年配属されたばかりの軍人、ドーマが話しかける。
「……ええ、そうね」
キャンベルは振り向かずに、そう答える。
「一昨日のこと、まだ気にかけているんですか……まあ、いつ相手が動くか分かりませんが」
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一昨日の昼間に遡る。
本国の基地で物資の補給後、ゲルラージで隊員の皆と昼を食べようとした時だ。
『ガンネイド大佐、応答してください!』
アスベリーゼの軍本部から、無線が入る。
「そんなに慌てて、どうしたんだ」
ヘアマイクでガンネイドが返す。
『正体不明の電波ジャックを受けています、繋いでみてくれませんか!』
ガンネイドはレーダー画面を切り替えると、そこにはワイベラス州国家の襲撃軍大佐のベルベディが映っていた。
『全ザンベルに告ぐ!我々は力でもって、世界を1つの集合体にするよう目指すのだ!』
「要は戦争を起こそうってか」
副隊長のニッケラ中佐がそう呟く。
その後の演説では、1週間の間に行動を開始する、中立国を先に攻撃すると言っていた。
「……ガンネイド大佐」
キャンベルがガンネイドに話しかける。
「ああ、専用のシロヴィンを配備したい、だな」
「はい。万が一の為に」
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「そう言えば、そろそろネネントアームの宇宙区域に入りますね」
ドーマの言葉に、キャンベルは我に返る。
ネネントアーム国は中立国の1つでアスベリーゼから近く、友好国だ。
目線に、惑星が見えてくる。
(……ん?)
遠目だが、キャンベルは違和感を感じた。
宇宙艦に、トイルアーマー3機が迫っているのである。
「ドーマ!ネルベイに頼んで、シロヴィンを起動させて!」
「えっ……ちょっと先輩!」
ドーマの静止を振り切って、キャンベルは走り出した。
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「大佐!失礼します!」
キャンベルは司令塔に入っていく。
「ちょうど良かったぞ、キャンベル」
ガンネイドがそう言う。
「ネネントアームの首相艦から、SOSの信号をキャッチしました」
通信士のリンが言う。
「シロヴィンで出る気、だな」
ガンネイドの言葉に、キャンベルは頷く。
「でも一度も稼働させていないシロヴィンで、行けますか」
ニッケラが横から言う。
「稼働させてないとは言え、目の前の友好国の艦を見逃す訳には行きません」
「……キャンベルの意見を尊重する。これは私の指示、だ」
2人に言われて、ニッケラは静かに頷くしか無かった。
『こちら、ネルベイ。シロヴィンの起動完了。いつでも出撃出来ます』
「今すぐ行きます!」
キャンベルは司令塔を後にした。
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キャンベルが戦服に着替えシロヴィンに乗り、最終確認をしていると
『キャンベル、ちょっといいか』
とネルベイが言う。
「何かしら」
『機体の損傷は気にするな。後で俺が直してやるから、目の前の事に集中してくれ』
その言葉に安堵すると共に、ネルベイがうちの国の人で良かったと思う。
「いつもありがと。そろそろ出るわ!」
『あいよ!』
最終確認を終え、操縦レバーに手をかける。
「スタンバイ!」
目の前の、扉が開いていく。
「ガンネ隊キャンベル、行きます!」
エンジン出力を上げていく。
『スリー、ツー、ワン!出撃!』
その声を聞き届けて、キャンベルは勢いよく飛び出していった。
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ネネントアームの首相艦とトイルアーマーの3機に向けて、キャンベルは高速で降りていく。
(流石、速さと機動力をアップした機体。いつものヤツよりは、扱いやすい)
トイルアーマーは、やはりワイベラスの主要機である人型の『ドペル』だ。
1つだけ、若干色が違う。それが指示機だろう。
キャンベルはゲルラージに無線を入れる。
「こちらキャンベル。攻撃範囲突入、発砲開始します」
『了解。ご武運を』
リンが応答する。
キャンベルは右に回旋しつつ
「まずは1機」
と、指示機の後ろに着いているドペルに、標準を合わせる。
「発射!」
ビームが放たれ、見事に命中した。
指示機のドペルが、こちらに向かってくる。
武器の回復が通常より早いとはいえ、上手く回らないと3機は撃破出来ない。
そう思っていると、相手がライフルを撃ってくる。
(長い機体じゃ、完全に避けられない……だったら!)
左方向に全力で舵を取り、斜めになりながらドペルのすれすれを通る。
翼が撃つのを止めたドペルの手に当たり、ライフルが宇宙間に投げ出された。
(……少し嫌な感触をしたけど、これくらいならまだ戦える)
そのままの体勢で、もう1機をビームで落とす。
体勢を立て直そうとした瞬間、無線から聞き慣れない声がした。
『操縦者の名は何と言う。シロヴィン1機でここまでの操縦、敵ながら感服した』
周波数の乱れを利用して、こちらに話しかけたのであろう。
「あなたこそ、誰なんです!戦闘中なのに、話しかけるのは不躾でしょう!」
相手の戦士は、『フッ』と笑った。
『それは無礼な事をした……儂と貴女、いずれ名は分かるであろうな。ここは身を引く!』
そう言って、彼は宇宙の果てへと行ってしまった。
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「首相艦の護衛、お疲れ様でした」
ニッケラが言う。
「……はい」
キャンベルは静かに、返す。
「何か気になった事でも?」
ニッケラに言われ、先程相手に話しかけられた事を思い出す。
……が、余計なことは口に出さない方が良いだろう。
「シロヴィンが、相手のドペルに当たってしまいました。後でネルベイに修繕の方をよろしくお願いします」
そう、キャンベルは伝えた。
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『……強襲失敗、でしたか』
ギリシの部下であるヨデルが、そう言う。
「ただ失敗に終わっただけではないぞ」
戦闘していたシロヴィンは、汎用機をカスタムしたものだろうと伝える。
『分かりました。映像を元に、解析班で特定をしてみます』
「ああ、頼む」
そこで無線が切れた。
「あの女兵士……今日の事は忘れんぞ」
TAW0005 ドペル
ワイベラス州国家のメイントイルアーマー。
汎用性が高く、ライフル・ビーム兵器・大砲など様々な武装を持つことが出来る。