第10話 見ていた影
キャンベルと兵士は、ネネントアームのメイン格納庫へ入る。
中には、通常の戦闘機よりもやや大きめの機体が置いてある。
「……これはカンブロと呼ばれる、我がネネントアーム国のメイン戦闘機です」
「流石、メインと言われる機体ですね。武装もしっかりしています」
兵士はカンブロの武器の部分に触れる。
「それでも、貴女方のシロヴィンには及びませんが……」
キャンベルは顔を横に振る。
「私に機体を提供していただくのは、本当に感謝の念しかありません。貴重な戦力を―――……」
そう言いかけた時だ。
キャンベルは前々から感じている嫌な気を察知し、直ぐ様格納庫の外を見渡す。
「少佐、何かありましたか」
兵士がそう言うと、キャンベルは振り向いて人差し指を立てて口元に当てる。
再び周りを見渡すと、作業をしている兵士の中にこちらを見ている人を見つけた。
キャンベルは片手に拳銃を隠しながら、その方向へ歩いていく。
『彼』はこちらが来ているのを察知したのか、その場を立ち去ろうとする。
それを見たキャンベルは、すかさず拳銃を上げ迫る。
「そこの貴方、止まりなさい!!」
キャンベルが大声で言うと、彼は立ち止まる。
「流石は特例で少佐まで登り詰めた御方、ですな」
そう彼が言うと、振り向き様に握っていた拳銃を蹴り上げる。
(……っ!?)
キャンベルは一瞬驚きつつも、腰に付けていた護衛用のナイフを取り出そうとする。
……が、それよりも先に相手の肘が鳩尾に当たるのが分かった。
「ぐっ……」
キャンベルは反動で、鳩尾に手を当てながらその場にしゃがみこむ。
意識が遠退く中、周りに人が集まるのが気配で分かる。
(……私と、した……事が……)
そして、目の前が真っ暗になった。
▫▫▫
同じ頃、解析班に電報の入電がくる。
一人の解析員が、電報を見る。
「『現地組より、至急連絡頼む』……か。すいません、班長!」
解析員は、班長を呼び出す。
「どうした、メルイ」
「これを見てもらいたくて」
先程の電報を班長に見せる。
「分かった、私から連絡をしよう。引き続き頼む」
「はい、分かりました」
班長は奥の部屋にまた戻ると、無線を入れる。
『はい、こちら現地組でございます』
「済まない、電報の件で連絡をしたのだが」
無線の向うで少しの間の後
『ドゼイガンの操縦者は、例のシロヴィンに乗っている女性兵士でした。さらに接近しようと思いましたが、完全に気付かれました。これ以上の潜入は厳しいかと』
と、返答があった。
「情報の入手と、気付かれた潜入班員は無事か」
『写真と個人データの取得済みで、班員は無事に戻りました。今私達は、基地を離れております』
班長は「ふう」と、溜め息を漏らす。
「……事情は分かった。ギリシ大尉に報告しておく。データを送って欲しいのと、現地組はそのままこちらへと戻ってきてくれ」
『分かりました』
そこで班長は無線を切る。
それと同時にタブレットの方に、情報が送られてきた。
ファイルを開くと、ドゼイガンと兵士2人が写っている防犯カメラの画像と『アスベリーゼ王国 宇宙偵察軍 個人データ』のデジタル模写が添付されている。
「……彼女の名は『キャンベル・バイ』、か」
▪▪▪
キャンベルは、意識を戻した。
ベッドの上に横たわっているようだ。
「気が付きましたか、少佐」
ベッドの横に居た、ニッケラが声をかける。
「……はい」
キャンベルが返すと、ニッケラは安堵の表情を見せた。
彼は一旦部屋の外に居る兵士に一言告げると、再び席に座る。
そして、キャンベルに耳打ちをする。
「少佐を狙ったのは、敵のスパイの可能性があります。後を追おうとした兵士の証言に、『ワイベラスの戦闘機を見た』、と言っていましたので」
キャンベルは「やっぱりね」と呟く。
探られているとは薄々感じていたが、これでハッキリ狙いを付けられていると分かった。
「……少佐の働きが、相手にとって気に掛かるからでしょうか」
「そうかも知れない。相手が私達を襲う辻褄も合うわ」
そう考えると居ても立ってもいられない―――
キャンベルは身体を起こす。
「少佐、まだ動かれない方が」
ニッケラはそう言うが、キャンベルは首を横に振る。
「このまま動かないのも、性に合わないわ。グレン王国の奪回作戦は、私が指揮を執らないと」
「ですが……」
その時扉を叩く音が聞こえ、『入っても良いか』とガンネイドの声がした。
「はい、構いませんが」
ニッケラが言うと、ガンネイドは中へと入る。
「ニッケラ、艦隊の準備指示を任せても良いか」
「……はい、承知しました」
ニッケラが出ていくのを見届けると、ガンネイドはベットの横にあるイスに腰掛ける。
「気分はどうだね、少佐」
「とりあえずは、執務に影響はありません」
それを聞いたガンネイドは、笑みを浮かべる。
「そこは貴女らしい、な。……それとだ」
懐から、1つの紙を取り出す。
「こちらの方で、最初の戦でドペルを率いていた人物の特定を進めていた。その報告をと思っていてな」
「眼には眼を、歯には歯を……ですか」
キャンベルはその紙を見る。
そこには、ワイベラス州国家強襲軍 第一編成部隊大尉 ギリシ・シーランド』と書かれており、彼の写真も載っている。
「どうやら、グレン王国を襲った時の軍隊に彼が出ていたらしい。貴女が見た色のドペルに乗っていたかつ、降伏文書を持ちかけたという話を聞いてね」
写真は、基地棟の玄関に設置していたカメラから切り取った物だと言う。
キャンベルは顔を上げ、ガンネイドの方を見る。
「大佐、少し気に掛かる事がありまして」
最初の戦の時に、彼がこちらに話しかけた事を伝える。
「……そうか。相手はこの時から、貴女を探る事を考えていたのかも知れんな」
「はい」
ガンネイドは溜め息を付きながら、「この事は2人だけの話にしておこう。混乱を招くといけないからな」と伝える。
「……そう、ですね」
それを聞いたガンネイドは、立ち上がり
「準備指示は、こちらで済ませておく。呼びに来るまで、もう少し休んでいてくれ」
と言った。
「分かりました」
ガンネイドはキャンベルの肩に手を少し置き、部屋を出ていった。




