第9話 緊急会議とその裏側
「……皆、急にお呼び立てして申し訳ありません」
襲撃後、会議室に集まったスレイドやシロン、その他数人の軍部兵士に対してキャンベルがそう言う。
「寧ろキャンベル少佐の働きが無ければ、もっと大変な事になっていました」
そうシロンが返す。
「そう言ってくれると助かります。……で、今の現状はどうなっていますか、ミィル大尉」
ミィルは机の上に宇宙地図を広げる。
「今のところ、コミル基地が襲撃により機能停止……そして、グレン王国が敵陣営により半降伏状態になっています」
そうミィルが言いつつ、地図に赤丸を付ける。
(半降伏とは、占領した相手に国機能を相手に明け渡す前の状態である)
「コミル基地は、昨日の会議で言っていた近い基地の事を指しますね。補給線を断つつもりで襲った感じ……ですか」
一人の兵士が言うと、キャンベルは頷く。
「……まだ、王国側が完全降伏をしていないだけマシですな」
もう一人の兵士が言う。
「まだ完全降伏じゃ無いとはいえ、機能を明け渡すのは時間の問題ね。その前に奪回したいわ」
「この状況、どうしますか」
スレイドがキャンベルに聞く。
「2部隊編成で、第1部隊はグレン王国の奪回を、第2部隊はコミル基地の機能回復に向けて動いてもらいます」
第1部隊はガンネ隊を先導に多国籍軍を、第2部隊は技術士官をメインとする部隊だ。
今日の午後には出発をすると言う事で、会議は閉じた。
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その日の朝、ネルベイを筆頭とするアスベリーゼの整備隊数人がシロヴィンの予備と追加武器を持って基地へと着いた。
「おーし、お前ら!少佐のシロヴィンを改修するぞ!」
「「はい!」」
ネルベイも取り掛かろうとした時、モーリンスが声をかけた。
「お久しぶりです、ネルベイさん」
「ああ、4月の合同演習の顔合わせ以来ですな」
モーリンスは頷きつつ、ネルベイに耳打ちをする。
「ちょっと見てもらいたい映像があるんですけど、いいですか」
ネルベイはその言葉に疑問を持ちつつ、「分かった」と答える。
「ジン、ちょっと出るから頼むぞ」
「……あ、はい。分かりました」
部下のジンに一言声をかけ、ネルベイとモーリンスは外へ出た。
「俺を呼び出して、どうかしたんですか」
基地の整備室本部棟へ向かいつつ、ネルベイがモーリンスに聞く。
「……まず、晩の事は聞いていますか」
「ああ、ガンネ隊から報告を受けている。こちらのアーマーが狙われた、と」
モーリンスは「なら話は早いですね」と言いつつ、更に説明をする。
「昨日、少佐から陸戦を想定してこちらの旧式アーマーであるドゼイガンを使用すると話がありました。……で、晩の襲撃で実際に少佐が出たんですよ。その動きを見てもらいたくて」
どうやら、自分自身が少佐の行動データを収集していると聞いたらしくその話が出たとの事だ。
(見てもらいたい程だから……かなりの成果をだした可能性があるな)
モーリンスの話を聞きつつ、ネルベイはそう思う。
そして棟の一室へ二人は入ると、プレイヤーが置いてある。
「これは基地本部棟に設置してある、カメラからの映像です」
とモーリンスは言いつつ、動画を再生する。
そこには、ドゼイガンとドペルの戦闘がぼんやりながらも映っている。
「大砲を盾代わりにしているな。本来の使い方ではないはずだが」
ネルベイがそう呟く。
「その通りで。……ただ面白いことに、私に少佐が質問したんですよ」
モーリンスの言葉に、ネルベイは彼の方を見る。
「彼女が、質問を?」
ネルベイは言うと、モーリンスは頷く。
「ええ。少佐は、『ドゼイガンが使う大砲は、ライフル程度なら耐えられるか』と聞いたんです。一応こちらの説明とすれば、一ヶ所に集中しなければ耐えられると答えました。最初この動画を観たときは、ネルベイさんのような事を思いましたよ」
再び動画に目を通し、ネルベイは顎に手を当てる。
(機体性能をやたらと注視する方だとは思っていたが……初めての機体でも、ここまで対応出来るのは流石だな)
▫▫▫
ネルベイは格納庫に戻った。
「お疲れ様です、ネルベイさん。少佐専用シロヴィンの解析データを回収しましたけど、ご覧になりますか」
ジンがそう言う。
「……ああ、頼む」
ネルベイはそう返すと、ジンはタブレットを渡す。
そのタブレットに、ネルベイは目を通す。
エンジン出力と砲台の項目が、『自動』から『手動』に切り換えられている。
この二つは専用機のみ使える特殊な操作を踏まないと、変えれない。
キャンベル本人にも資料と口頭では伝えている。
(汎用のシロヴィンでは自動に固定されている)
さらに細かい所を見ると、エンジン出力はレバー操作の微調整で機体の回転を向上させており、砲台に関しては攻撃レパートリーを幾つか行っている事が分かった。
「敢えて手動にして、自分の思うように機体を操る……か」
そう呟くと、後ろから声が聞こえた。
「整備隊の皆、お疲れ様」
ネルベイが振り向くと、そこにはキャンベルの姿があった。
「態々ありがとうね、ネルベイ」
「何を今更ですよ、少佐」
キャンベルは改修しているシロヴィンを見る。
「今取り付けているのは、ガロバン (補給戦艦) に積んであったミサイルかしら。シロヴィンに積めるギリギリはこれしか無かった感じね」
ネルベイは「フッ」と笑った。
「流石だな、少佐。見た目で直ぐに何処に積んであった武器だと分かるのは」
「これでもずーっと間近で、色々見てきたのよ。笑わないでよね」
「これは失敬。……少佐の言う通り、再利用として残してある武器の中ではコレが使える物だ。後はエンジン出力の補佐ブースターを付けるぞ」
その説明をしつつ、ネルベイは思い出した事をキャンベルに聞く。
「そう言えば、今日の午後には連携国の奪回に出ると聞いたぞ。シロヴィンの改修に時間が掛かってしまうが……」
「ああ、それならね。ネネントアームの戦闘機を使用してもいいと話が出ていてね。もし宇宙や空中戦になっても大丈夫よ」
「……そうか、なら良かった」
「キャンベル少佐、戦闘機のご用意が出来ました。確認をしてもらってもよろしいですか?」
兵士の一人が声をかけた。
「分かりました、行きます。……それじゃあ、後はよろしくね」
「はいよ」
キャンベルは、兵士と共に格納庫から出た。
それを見届けたネルベイは、シロヴィンの元へと歩いていった。




