第8話 闇夜の一戦
―――11月9日、丁度日付が変わったであろう深夜帯。
「ヨデル少尉、そろそろ敵陣営です。ドペルの準備も全部出来ています」
部下の兵士が話しかける。
「分かった、出ましょう」
ヨデルが返すと、兵士は頷く。
今回、ギリシ大尉とは別行動だ。
こちらの艦隊は、ネネントアームの基地を狙うことになっている。
(大尉の足手まといにはならないよう、に)
そうヨデルは準備しながら考える。
……そして、今回の指示機である赤茶色のドペルに乗り込む。
「準備、よし」
最終確認を終え、発進コンベアに乗る。
「ヨデル、出ます!」
そう言って、ヨデルは闇の中へ飛び出していった。
▫▫▫
突然のサイレンで、キャンベルは飛び起きた。
「何かあったんでしょうか」
眼鏡をかけながら、リンが言う。
「……」
キャンベルは部屋を出て、基地方面を見る。
格納庫方面にドペルが迫っている。
これは明らかに、基地よりもアーマーの方を狙っていると察した。
キャンベルは、窓を開けて足を掛ける。
「少佐、何をするつもりで……っ!?」
「私が敵を阻止するしかないわ!」
リンの制止を振り切り、キャンベルは2階から飛び降りる。
そして、そのままドゼイガンのある格納庫へと走っていった。
▪▪▪
『少尉、そろそろ格納庫が見えてきます』
前方を移動している、兵士からだ。
「各機、敵に気を付けながら攻撃せよ!」
『『了解!』』
林を抜け、基地の方に出た。
巡回していたであろう、大型戦車がこちらに攻撃を仕向ける。
戦車を相手にしつつ格納庫にも仕掛けようとしたその時、発砲音が聞こえたかと思うと前にいた1機が爆破されたのだ。
(……何!?)
ヨデルはレーダーを確認すると、相手はやや離れた所に居るドゼイガンから放たれた弾だ。
「あんな旧式に……っ、誰か迎え撃て!!」
『わ、分かりました!』
もう1機が、ドゼイガンの方にライフルを放つ。
巨大砲で防ぎながら、こちらに向かったかと思うとスギニットで前のドペルの腹を突き刺した。
ドペルはそのまま、機能停止で跪く。
「作戦は一旦中止、こいつを倒すぞ!」
周りの機体がライフルを撃ち込みながら、ヨデルはサーベルに持ち直してドゼイガンに向かって走る。
しかし、巨大砲をライフルの盾にしているせいか、なかなか相手が落とされない。
(次の砲撃まで、決着を……!)
うだうだしている暇はない、そう思いヨデルはサーベルを振り上げる。
「沈め……っ!」
サーベルを振り下ろすと、相手はスギニットで受け止める。
そのまま押し込もうとした時、弾を片方の手で巨大砲へと入れるのが見えた。
「まさか、ゼロ距離で!?」
ヨデルが危機を感じ離れた時、ドペル1機が前へ出る。
『少尉、ここは私が助太刀を!』
「やめろ……っ!お前、死ぬぞっ……!!!」
そうヨデルが伝えたが、遅かった。
2発目が前に居たドペルに向かって放たれ、目の前でまた爆破されたのだ。
(……ちくしょう……っ!)
ヨデルは涙目になりながら、残りのドペルと迎え撃とうとした時
『少尉、大尉から伝言です』
と、戦艦からの無線が来たのだ。
「……ど、どうした」
声をやや震わせながら、ヨデルは聞く。
『大尉の作戦は、無事に成功したとの事です。こちらは即時撤退しろ、だそうで』
ヨデルは、操縦バーを握りしめる。
今ここで仲間の敵討ちをしたいが、それだと本来の目的を大きく外れてしまう。
「……分かった、撤退する。大尉には『こちら破壊2、機能停止1。相手はドゼイガンだ』と伝えてくれ」
『了解しました』
「……く、そっ……!!」
ヨデルはそう呟いた。
▫▫▫
「……はっ、はっ……なんとかやったわね」
相手が撤退するのを見つつ、キャンベルは呟く。
『少佐、大丈夫でしょうか!』
戦車に乗っていた、ネネントアームの兵士が言う。
「……ええ、なんとかね」
キャンベルがそう返す。
(でも、どうしてアーマーを狙ったのかしら……?)
襲撃隊にしては、ドペルの機体数が少なすぎるのも気にかかるが―――
『キャンベル少佐、聞こえますでしょうか』
スレイドの補佐である、ミィル大尉が無線で話しかける。
「ええ、どうかしましたか」
『グレン王国から、敵陣営に襲撃されたと報告を貰いました。こちらの攻撃と関連性が高いと思われます』
「……なるほど、ね」
その言葉で、大体は察した。
ガンネ隊の主要機やニベア試作機の撃破を狙いつつ、それと同時に他の同盟国を叩こうとしたのだ。
(流石に、グレン王国の事を悠長にし過ぎたわね……)
こればっかりは、自分の判断ミスである。
……そして、ここから巻き返さなければならない。
「ミィル大尉、これから緊急会議を行います。なるべく、人を集めてください」
『分かりました』
▪▪▪
「少尉、大丈夫ですか。だいぶ相手に押されましたから」
戦艦へ戻ると、先程の部下が話しかけた。
「こちらの指示の不手際で、更に3機も無駄にしてしまった。それが気掛かりだが……」
その会話をしていると、戦艦のレーダー管理をしている同期が声をかける。
「ヨデル、ギリシ大尉が通話をしたいと言っている。艦長室へ行ってくれないか」
「ああ、分かった」
向かう途中、ヨデルは胃がキリキリと痛むのを感じる。
いくら信頼されているとは言え、相手機の撃破には至らない上にこちらの戦力が削られたのは怒るだろう……そう、思ったからだ。
艦長室に入り、ヨデルはパソコンを使いギリシへと通話を繋げる。
すぐに繋がり、『ヨデル、ご苦労だった』とギリシが言う。
「……大尉、申し訳ありませんでした」
と、ヨデルは頭を下げる。
『なに、気にするほどでもない。重要なのはこちらの方だからな』
「……は、はい」
ギリシは、『ふぅ』と一呼吸を置き
『相手はドゼイガン1機なのは、確かだな?』
と聞く。
「はい、レーダーと目視……共にドゼイガンで間違いはありません」
ギリシは顎に手を当てる。
『ドゼイガンはしばらく稼働していないと、聞いている筈だが……誰が操縦をしていたのだろうか』
「それに関しては、私もそう思いました。解析班の現地組にスパイ調査をさせるよう、頼みますか」
ギリシは頷く。
『それなら、後で頼んでくれないか』
「……はい、分かりました」
ギリシはこちらを向く。
『最後に1つだけ言っておく。……誰にでも失敗は付き物、糧にして生きていけ。それを忘れるな』
その言葉に、ヨデルは頭を下げた。




