第7話 不遇な機体
保守軍の1回目の会議が始まった。
「……まずは、戦争の火蓋が落とされたという、例の襲撃から護っていただいたガンネ隊の皆様に感謝しないといけないな」
ネネントアーム国国防軍中将であり、保守軍の司令部トップであるスレイドが言う。
「そのお言葉、光栄です」
キャンベルがそう返す。
「それで、だ。今の状況はどうなっている」
スレイドが言うと、一人の軍人が立つ。
「只今、連携国との間で武装の強化と補給を進めております……が」
「何かあったのです?」
キャンベルはすかさず聞く。
「ここから、1番遠いグレン王国の配置が間に合っていない……と、報告を得ています」
グレン王国―――
『果ての中立国』として名高いが、そこが遅れているのは確かに気になる所だ。
「王国と近い連携国の基地でも、輸送に3日も掛かっています。狙われるのも時間の問題か、と」
(……確かにあそこは、敵の基地の方が近い。彼の言う通りかもしれないわね)
資料に目を通しつつ、キャンベルはそう思う。
「高速艦がある国はありますか。今はそれを使って整えるしかありません」
キャンベルは言うと、彼は
「この後、連絡してみます」
と言った。
▪▪▪
会議は終わり、キャンベルは国防軍のアーマーがある格納庫へと向かった。
シロヴィンは街中の戦闘には向かない。
それをスレイドに話すと、国防軍が所持している旧式の機体を使っても良いと言われ、その確認に来たのだ。
「貴女がキャンベル少佐ですね」
一人の男性が呼びかける。
「ええ、そうですが。貴方は?」
「整備室の室長、モーリンスです。機体の説明に、と」
モーリンスは紙を渡す。
そこには、機体の基本情報が書いてある。
「『TAN00011 ドゼイガン』……巨大バズーカ砲のアーマー、か」
パラパラと紙を見ながら、キャンベルは呟く。
「後方射撃のアーマーでしたが、1回の戦闘で5発しか砲撃が出来ないのがネックでして、今は後継機のデミルガンに席を譲ってからは出番が減っています」
デミルガンは合同演習で見たことがある。
「デミルガンの後方援護は、とても頼りになります。ただ……」
キャンベルは気になる事を聞く。
「弾数は無限だと記憶していますが、ドゼイガンは何故5発制限なのです?」
モーリンスは頭を掻く。
「巨大砲故、冷却性能がかなり劣るんです」
次の砲撃可能まで6分掛かり、5発まで撃つとオーバーヒート寸前で数時間の冷却時間を要するとの事だ。
「確かに、それは無理がある……」
武装の項目を見ると、50cmブースター砲とスギニットという接近戦用のサーベルしか装備をしていない。
(冷却時間に狙われる事は、一応考えているのね)
と、資料を読みながらキャンベルは思う。
「実物、見てみますか」
モーリンスの言葉に、キャンベルは頷く。
モーリンスは、格納庫の扉を開ける。
そこにはややずんぐりした機体に、巨大なバズーカ砲が横に置いてある。
「機動性に欠けるところもありますが、今の時代でも後方援護には使える機体ですよ」
モーリンスの話を聞きながら、キャンベルはドゼイガンの方へ歩き手を機体に合わせる。
(……この機体、冷たいわ)
この冷たさは、起動していない証拠だ。
ずっと、この格納庫に居たのか―――
「……泣いていらっしゃるの、ですか?少佐」
モーリンスに言われ、キャンベルは手の甲で目を擦る。
「御免なさいね。なんだか、この機体が不遇だなと思ってしまって」
モーリンスは溜め息をつく。
「不遇なのは分かります。この1機だけ、予備としてそのまま置かれていましたから……でも」
彼は機体を見上げる。
「少佐が動かしてくれるなら、この機体も嬉しいと思ってくれるはずです」
▫▫▫
―――数時間後。
「少佐ー?」
ドーマがキャンベルの様子を見に来た。
ずっと、ドゼイガンの確認をしていたからだ。
「……」
キャンベルは無言で機械の方を見ている。
それを見たドーマは、呆れつつ大声で言う。
「しょーーさーーっ!夕食のお時間ですー!」
「……えっ?なんて言った?」
キャンベルは顔を下に向き、そう返す。
「だぁーかーらー!夕食のお時間だと……っ!」
「……分かった。もう少しで確認終わるわ」
ドーマは頭を抱える。
「少佐の『もう少し』って事は、まだ時間が掛かるな……」
「なに、文句でもー?」
「はいはい、分かりましたよ!ガンネイド大佐に言っておきますからね」
とドーマは言い残し、そのまま出ていってしまった。
それと入れ替わりで、モーリンスが入る。
「少佐、わざわざご自身で整備をされるなんて……本来であれば、整備室の私らがやるべきなのに」
その声に、またキャンベルは顔を出す。
「自分が乗る機体は、自分で整備する。それが私のポリシーですから。あ、そう言えばお聞きしたい事があって―――…」
▫▫▫
ドーマは、ガンネイドに先程の事を話した。
ガンネイドは「フッ」と笑う。
「やはり、機体整備だけは人一倍する彼女らしいな」
とガンネイドは呟く。
「こう言うのは失礼かも知れませんが、どうして少佐は整備を自分でする事を重要視してるんです?一応僕自身も少佐に倣って、整備をしていますが……」
そうドーマが聞く。
「……それは、だな。彼女の意志さ」
「意志、ですか?」
ガンネイドは座っていた椅子から、立ち上がる。
「『破損を直す事以外は、自分の手を使って機体を整備する。その過程で深く性能を知る事が出来る分、操作技術も自然と高くなる』……それが口癖であり、意志だ。私もその考えには同意見でね」
「……機体の熟知も兼ねていた、ですか。そんな事も知らないで、僕は少佐に失礼な事を言いました。後で謝らないといけないですね」
ドーマが返すと、ガンネイドは頷いた。




