蟻
境内に続く長い階段を登っている。
四月だと言うのに、初夏のような暑さに汗が背中をツーっと流れるのを感じる。
空は快晴で、知らないこの街に歓迎されてるような気持ちになる。
きっと、古い神社なのだろう。
階段は一段ごとに高さがあり、小さな子どもであれば、手をついて登らなければならないほどだ。
ごつごつとした岩の隙間からは雑草や苔が窮屈そうに生えている。
その間をチラチラと黒が見え隠れする。
蟻が葉っぱのかけらや、白い粒、何かしら大事なものを抱えて、右から左へとせわしなく運んでいく。
彼らは、こちらを見ている私のことなど気にも留めない。
誤って踏んでしまったら人生が終わってしまうとも知らずに。
よくよく考えてみれば、最近私は蟻を見ていなかった。
冬だったからだろうか。
いや、そもそもこんな自然に囲まれたのも久しぶりだ。
最近はコンクリートの地面に囲まれた街頭の木ばかり見ていた。
だから全てがこんなに鮮やかなのか。
木々の影が風で揺れている。
柔らかい光に育てられた葉っぱはまだみずみずしい緑だ。
どこからともなくホーホケキョという声がする。
雑草も可愛らしい白い花を咲かせている。
私は何も見えてなかった。
空は青く、蟻は黒く、風はもう初夏の香りをはらんでいる。