嫌な予感がするんだが……
「こっちの方だと思うんですが」
「なんか息苦しくない?」
「空気が薄いんじゃないですか?」
「待ってっ。
ドラゴンも苦しそうなんだけどっ」
下りてっ。
何処か下りて、ドラゴンッとみんなで地上遥か上空で揉めていた。
「あっ、あそこに山がっ」
「下りましょう、あそこまでっ」
ドラゴン、頑張ってっ、と声をかけつつ、なんとか雲に裾野を覆われた山に下りた。
地面に下りたファルコは、
「いや~、やっぱり、大地を踏みしめると安心しますね~」
と言っていたのだが。
「……いや、
この下、地面あります?」
と下を見て言い出す。
「えっ?」
自分たちがいるところには確かに地面があるのだが。
少し先に見える雲の隙間からなにか光っているものが見える。
覗いてみると、灯りをつけた船が航行しているのが見えた。
「海の上?」
「湖の上かも」
「……この山、もしかして、空中に浮いてる?」
そうやって、みんなが下を見て、叫んでいる間、スライムだけが上を見ていたらしく、
「王様のお城っ」
と叫んだ。
フェリシアたちが顔を上げると、山の上を指差している。
「ほんとだ」
お城が山の上にある……。
そう言いながら、フェリシアの胸は妙にざわついていた。
「なんだろう。
見覚えがあるんだが……」
と横で魔王も言っている。
夜空に浮かぶ山。
そのてっぺんにある城のような物。
サミュエルが目を細めて城にある高い塔を見ながら言った。
「あそこにラスボスとやらがいるのではないですか?
だって、莫迦となんとかは高いところに上がりたがるといいますもんね」
「……そうねえ。
ちょっと上がってみましょうか?」
ふたたび、ドラゴンに乗り、山の上まで上がってみる。
城を見下ろした。
石造りの古い城だ。
人の気配は感じないが。
魔物の気配も感じない。
ドラゴンはその城の前庭に着地した。
ガッシリとした塀と門があったのだが、ドラゴンは上からなので意味はなかった。
「いっそ、最上階に空から乗り込んだらいいんじゃないですか?」
「そんな乱暴な。
誰の城かもわからないのに」
サミュエルとフェリシアがそんな話をしている間に、ファルコがもう城の大きな木の扉を叩きに行っていた。
「こんばんは。
誰かいませんかー?」
怖い物なしだな、獣人。
躊躇しないんだな。
まあ、獣人より恐ろしいもの、この平和な世の中にそうそうないからな。
と思ったのだが、なぜか魔王様は突進していかなかった。
あなたこそ、怖い物などないのでは?
如何にその辺からその辺の魔王だとしても、と思うフェリシアの横で、
「……なんだか嫌な予感がする」
と魔王は眉をひそめ、城の最上階を見上げている。
「開けてはならぬ扉が開きそうな気がして――」
そう言う魔王に、
「それは怖いですね」
と言ったフェリシアは、ドラゴンに命じた。
「最上階へ言ってくれる?」
「いや、ちょっと待てっ」
今、怖いですねと言ったではないか、と魔王は言うが。
これ以上、なにも調べようがないし。
来たばかりの今、この瞬間が一番体力があるはずだ。
ドラゴンにフェリシアが飛び乗ると、慌ててみんなも乗ってきた。
いや、魔王様はこのくらいの距離は浮けるのでは?
と思いながら、ともかく、いっしょに飛び上がる。
「フェリシア様は考えなしに突進されますね~」
と今、考えなしに突進するなあ、と思ったファルコに言われてしまう。
大体、あの怪しい像の目が見ている場所に行ってみよう。
そう思い立った瞬間に来てしまう、ここにいる全員が考えなしなのに違いない。
「ここね」
小さな窓しかない、塔の最上階。
フェリシアは薄暗いそこに向かい、呼びかける。
「誰かいらっしゃいますかー?
こんばんはー」
だが、返事はない。
「ちょっと失礼しますね」
そう言いながら、背中から肉切りの剣ではなく、勇者の剣を取り出す。
何故だろう。
わかった。
ここには誰もいないし、なにもいない。
フェリシアは勇者の剣を窓に向かい、投げつけた。
ガシャンッと窓が割れる。
「勇者の剣って、そうやって使う物だったんですか?」
とファルコが訊いてくる。
「いや、知らないけど……。
知らないけど。
勇者の剣は魔王を倒すもの……」
ソウダ 魔王ヲ 倒スモノ
割れた窓を開け、フェリシアたちは部屋の中に飛び込んだ。




