世の中、知らない方がいいこともある
「この下、こんな感じになっております」
若い神官が金属の盆に載った模型のようなものを持ってきた。
それは木のおもちゃのようにも見えたが。
三角に尖ったものの上に四角い床のようなものが載っているところを表しているようだった。
神官はそれを渡し、さっと去っていった。
長くこちらに来ていると、バランスが狂って傾くからだろう。
怖すぎだ……。
魔王が、
「知らない方がいいこともあるな」
と言うが。
「魔王様は浮いてるんだから、関係ないじゃないですか」
とフェリシアは言った。
怖がりな魔王は、この話を聞く前から、そもそもちょっぴり床から浮いていてた。
そうか、そのせいか、とフェリシアは気づく。
外で誰かが傾き具合を見ているのだろう。
フェリシアと魔王のところに、さっきから神官がひとり立っている。
一見、給仕のためのようだが。
その実、全体の重さのバランスをとっているのだろう。
こんなガタイのいい魔導師がいるのに、なんで、ここも軽いんだ? と思っているに違いない。
「ご、豪華じゃなくていいんですよ。
格式高くなくていいです。
みなさんと近くでお話しできる方がいいです。
あ、でも、離れていても楽しかったですけどね」
帰り際、下の普通の神殿で、フェリシアは神官たちにそう言った。
「尊いお言葉、ありがとうございます」
全員がフェリシア一行の前に跪いていた。
「大聖女様、我が街にお立ち寄りいただいた記念にこれを――」
長老な神官に命じられ、若い神官が恭しく古い巻物のようなもの持ち、進み出てくる。
「先程、詳細な地図を必要とされていると聞きまして」
サミュエルが宴会の途中でその話を誰かにしたようだった。
地図か。
そんなものなくとも、私はひとっ飛びできるのだが。
……まあ、チカラが溜まればの話だが、と思いながら、魔王は聞いていた。
「それは、ありとあらゆる近道の載っている地図です。
他の機能もあるらしいのですが、我々ではわからなくて。
大聖女様御一行ならおわかりになるかもしれません」
フェリシアが広げてみた地図をほほう、と覗いた魔王は引き攣った。
ほんとうに、ありとあらゆる近道が載っているっ!
迷路の街への近道はいいが、トレラントもっ。
カタリヤもっ。
それらは遠回りになる道を描けっ。
んっ?
これは……?
「なんだ?
この目のマーク。
あちこちあるな」
それに気を取られ、地図を隠したいと思ったのに、みんなと一緒に凝視してしまう。
フェリシアが声を上げた。
「これ、あの岩の街の川沿いでは?」
目……とフェリシアが呟く。
「そういえば、あの石像。
目がなかったですよね?」
あれのことだったりして――。
そうフェリシアは言った。




