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二つの旅

 


「で、お前はこれからどうするのだ?」


 そう魔王に問われ、温かい紅茶を飲みながら、フェリシアは言った。


「何処かにいるのだろう。

 ホンモノの勇者を探す旅に出ようかと」


 ――この剣を押し付けるためにっ。


 ここにホンモノの魔王様がいたのだ。


 ホンモノの勇者も何処かにいるだろう。


 そうフェリシアは思っていた。


「そうか。

 ならば、私も行こうか」


 えっ? とフェリシアは魔王を見る。


「乗り掛かった船だ。

 私を倒そうというやつの顔を見てみたいしな」


 魔王が仲間になった。


「いや、待ってください」


 ストップ、とフェリシアは手を上げる。


「魔王様が仲間になったら、勇者は誰を倒せばいいんですか?」


 魔王は腕組みして考えていた。


 深い思索に耽っているような美しい顔だったが。


「……そうだな。


 なにかこう――

 ラスボス感のあるナニカとか?」

という考えなくても出てくるような適当な答えが返ってきた。


 そのナニカはなんなんですか、と思いながら、フェリシアは、

「すみませーん、お勘定~」

と獣人たちが泉で洗った金を手に、店員を呼ぶのを眺めていた。



 その頃、もう一つの旅の一行はもうかなり進んでいた。


 姫を探すアーロー一行だ。


 クエストの森で成果を挙げ、この辺りでは、ちょっと有名になりはじめていた。


 酒場で呑んでいるアーローたちに、他の客たちが話しかける。


「あんたら、伝説の剣を背負った勇者を探してるんだって?」


「ええ。

 まあ、勇者と言いますか……」

とアーローが答えようとしたとき、ジョッキ片手に気のいいおじさんが言った。


「そんなもの探さなくても、俺の目には、あんたが伝説の勇者に見えるよ」


 確かにっ、とアーローの仲間たちが笑う。


「あんたなら、今すぐにでも、魔王を倒せそうだ」


 そんなことはありません、とアーローは言うが。


 姫を守ると心に決め、鍛え上げた立派な体躯。


 知的な瞳。


 ちょっと口下手なところが誠実そうで。


 しかも、半端ないオーラがあったので、誰もが彼を信頼し、魅了されていた。


「そもそも、魔王の森というのは、ここから遠いのでは?」


 あのとき、反対側の道を行けばすぐだったのだが、生真面目なアーローは魔王のところに行くには、ぐるっと旅をしていかねばならないと思っていた。


 それでこそ、自分も強くなれるのだと思っていたからだ。


「それに、私たちの旅は、魔王を倒すためではなく、伝説の勇者を探すためのものなのです。

 その後どうするかは勇者様が決めることですから」


「お前はまるで好きな女のことを語るように、勇者のことを話すなあ」

と近くにいたおじさんが微笑ましげに目を細めた。


 照れたアーローは急いで話題を変える。


「ところで、魔王は、一体、どのような悪事を働いているのでしょう?」


 ほんとうにみなが困っているのなら、旅を急がねばと思い、アーローは訊いた。


「うちのカミさんの実家の方は湖が魔王に侵食されて大変らしいぜ」


「それはどの辺りですか?」

とアーローは身を乗り出す。



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