おもてなしとは――
「どうぞ、とりあえず、こちらへ」
とにこやかに神殿に通されたあと、ひそひそと神官たちが話しているのが聞こえてきた。
「なんでしょうね?
……とって食おうとしてるとか?」
フェリシアはがそう言うと、聖女と魔王を? という顔をファルコがする。
「やはり、あの部屋が一番格式高いです」
「だが、あそこは……」
「でも、大聖女様たちをその辺のお部屋にお通しして、もてなすわけにはっ」
いや、我々、その辺で立ち呑みしたのでも充分楽しいですが。
「あの……」
とフェリシアが声をかけようとしたとき、もっともお年寄りっぽい神官が苦渋の決断っ、という顔をしたあとで、
「どうぞ、こちらへ」
と神殿の奥に向かい、招いてくれた。
……いや、この先になにがあるんですか。
「わあ、素晴らしい眺めですね」
「……私はちょっと怖いんですけど」
とサミュエルが言う。
神殿の奥からは高い山に続く道があったが。
……道しかなかった。
そこそこの広さがあるので、落ちはしないし。
平地でこの広さを歩けと言われたら、むしろ広すぎると感じるだろうが。
右も左も崖な道はちょっと怖い。
下のカラフルな街を見下ろしながら、フェリシアはサミュエルに言った。
「ドラゴンで飛ぶのは平気なのに?」
「それも、別に平気じゃないんですけど。
昔、ウィリカ様に高いところにある道から笑いながら突き飛ばされたのを思い出しまして」
「……それは妹が失礼したわ」
「今頃、ララサンダー様とやらもウィリカ様に突き落とされているかもしれませんね」
どっちもどっちな感じかしたので、やり返されてるかもしれないな、と思いながら、神官たちの後をついていく。
その山は木々に覆われていた。
まっすぐ真ん中を道が通っていて、その先に、白い神殿のようなものが見える。
「美しいですね」
とフェリシアが思わずもらすと、
「ありがとうございます。
いにしえからある神殿なのです」
と先導してくれている若い神官が誇らしげに言った。
ここまでの道が凄いから、案内するのを躊躇したのかなと思う。
……それにしても、どうして、みんな高い建物を作りたがったり、高い所に建物を作りたかったりするんだ。
もてなされると、どうしても、高い場所に上がるようになる。
「魔王様、大丈夫ですか?」
振り返り、フェリシアは訊いてみた。
「下を見なければ平気だと言ったろう。
あと、浮いていれば平気だ。
高いところにいようと、低いところにいようと、おのれの力で制御できているわけだからな」
よく見ると、魔王の足は地面からちょっぴり浮いていた。
……まあ、それで魔王様の気が済むのなら、と思いながら、フェリシアは神殿に向かって歩いた。




