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ほんのちょっとの旅路


 魔王はフェリシアの背の布袋の中にいる剣を見ながら思う。


 こいつの中に勇者がいるなら、フェリシアを選んだのは好みだからとか?


 魔王の私が手籠にできていないのに、勇者めっ。


「どうしたんですか? 魔王様」

とフェリシアが振り向いて問うてくる。


 魔王は思わず、心の中で思っていることを口から出してしまった。


「ということは、勇者はいつもお前の背に引っ付いたり、腰に張り付いたりしておるわけだな」

「おかしな言い方しないでくださいっ」


「……私は勇者を憎むっ」


 何故っ?

 唐突にっ?


 やっぱり魔王だな~という顔でフェリシアが見ていた。





 すぐに帰りたくない使者を連れ、フェリシアたちは岩の街を出発した。


「何処の地方も市場は活気があるわね」


 すぐに現れた次の街の市場では、テントが立ち並び、その下に、たくさんのスパイスや果実が並んでいた。


 フェリシアがそのカラフルさに目を奪われていると、城にいるときは、国の財政もチェックしていたサミュエルがすぐに金に換算しはじめる。


「フェリシア様っ。

 我が国では高値がつくスパイスも、ここでは格安で売られていますよっ」


「じゃあ、それたくさん買って国に帰ったら?」


「私ひとりが儲けてどうするんですか。

 ここと交易できればいいですねえ」

と意外に――


 いや、意外でもないか。


 崇高なことをサミュエルは言う。


「これは、なあに?」

 フェリシアは、大きな壺の中、水に浸かったたくさんの丸く白い物を眺める。


 お店の人が、

「これはアーティチョークですよ」

と教えてくれた。


「ああ、逆さに突っ込まれてるから、わからなかったわ」


 それは、レモン水に浸かったアーティチョークだった。


 アーティチョークは緑色の巨大なつぼみだ。

 ガクがとられて、逆さに突っ込まれている。


「この不思議な見た目のせいですかね?

 昔は、『世界の怪物のひとつ』と呼ばれていたらしいですよ。


 あちらに中にコメが詰められたものが売られてますよ」


 買いますか?

とサミュエルが訊いてくる。


 隣のテントで中がくり抜かれ、コメが詰められたアーティチョークと魚介類が詰められたアーティチョークを買って、みんなで昼食に食べた。


「大聖女さま、この街でゆっくりなさってください。

 ここは朝食自慢の街なんですよ」

と店主が笑って言ってくる。


「素敵ね。

 でも、もう少し進みたいから」

 

 フェリシアたちは次の街まで移動した。




 次の街で、バナナの葉にのった七色のおこわとかぼちゃの花のスープを買って夕食にみんなで食べていると、店主が言う。


「大聖女さま、この街でゆっくりなさってください。

 ここは昼食自慢の街なんですよ」


「……微妙にズレてる」




 さらに次の街でミント・マリーゴールドの香り漂うカカオの飲み物を木のカップに入れてもらって、朝食のあと、飲んでいると、店主に言われた。

 

「大聖女さま、この街でゆっくりなさってください。

 ここは夕食自慢の――」


「全部ずれてる!」

とフェリシアたちは叫び、トレラントの使者は笑っていた。




「フェリシア様。

 ありがとうございます。


 楽しい旅でした」


 いや、たいして進んでないんだけど。


「いい気分転換になりました。

 あなた様からの便りを待っているのは妹君だけではありません。


 王もあなた様のお帰りをずっと待っておられます」


 そんな。

 数時間も一緒にいなかったような妻なのに……。


 いい人だ、トレラント王。


「旅先から、我が王に便りでも出していただけると嬉しいです。

 大聖女にして、偉大なるトレラントの正妃、フェリシア様」


 フェリシアの前に跪き、深々と頭を下げたあと、使者は行こうとした。


 その背に向かい、フェリシアは言った。


「あなたは立派なトレラントの使者です。

 すぐにその頑張りが報われなくとも――」


 とりあえず、帰ったら、ウィリカとララサンダーにやられそうだな、と思いながらも、ウィリカは使者をそう励ます。


 これ以上帰りが遅くなると、余計まずくなる気がするからだ。


「あなたのその頑張りをいつか何処かで誰かが見てますよ」


「フェリシア様っ」

と使者は感激して去っていったが。


 魔王は急いで国に馬を走らせていくその姿を見送りながら言った。


「いつか何処かで誰かが――

 って他力本願だな」


「なんか神頼みみたいですね」

 魔族なのに、ファルコがそう呟く。






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