フェリシアの返信
「二人で結託したんですかね?」
と書状を覗き込みながら、サミュエルが訊いてくる。
「そんなことないみたいよ。
『旅の珍しい衣装とか寄越してください。
ララサンダーに負けたくない』と書いてあるわ」
「……早く帰るように言ってください」
「帰るかしらね」
と小首をかしげ、フェリシアは言う。
「そうだ、サミュエル。
ウィリカと結婚してあげて」
いきなり振り返ってそんなことを言うフェリシアにサミュエルは眉をひそめた。
「何故ですか。
死んでも嫌です」
「帰ってきて、私と結婚しましょうとか言ったら帰ってくるんじゃないの?」
嫌ですっ、とサミュエルは主張する。
「二人で景色の良いところで、お茶でもしましょうとか」
「言いながら、書かないでくださいっ」
とサミュエルに使者がくれた紙を取り上げられた。
旅の途中なので、書くものがなかったりしたらいけないと思ったのか。
使者は返信用の紙とペンを持たされていた。
「ごめんなさい。
返事ちょっと待ってね」
そう言ったが、使者はガタガタ震えはじめる。
「……もう書かれるのですか?」
書いてはいけませんか?
「しばらく熟考なさっては――」
「そうですよっ」
とサミュエルが余計な相槌を入れてくる。
いや、あなたがウィリカを早く帰らせろと言ったんでしょうに、とフェリシアが思ったとき、使者が声を張り上げた。
「王妃様っ。
私、国に帰りたくありませんっ。
雇ってくださいっ」
――ええっ?
魔王が後ろで言う。
「どうしたのだ。
トレラントの王というのは、噂と違い、できた男なのだろう?
何故、そのような王が治める国に帰りたがらぬのだ」
「わ、私、ウィリカ様に使いを頼まれ、ここまで来たのですが。
城を出るとき、ララサンダー様に睨まれました。
おそらく、ウィリカ様の手紙を届けたことで、裏切り者扱いされたのだと思います」
でも、私の立場で断るとかできるわけないじゃないですかっ、と使者は主張する。
「恐ろしい……。
ララサンダー様に睨まれたら、公爵家の地下に連れて行かれてしまうという噂なのにっ。
一度入って、出てきたものはいないというあの地下にっ」
どうなってるんだ、ララサンダーの実家は……。
「その人、一応、ただの侍女なんですよね?」
とサミュエルが確認するように問うてくる。
使者はフェリシアの前に跪き、言った。
「我が偉大なるトレラントの王妃にして、勇者。
そして、大聖女でもある、フェリシア様っ、どうかお慈悲をっ!」
「……肩書きモリモリですね」
と呟くサミュエルに、
「一個あげましょうか?」
と言って、結構です、と言われる。
いや、どれも自分で希望して名乗った覚えはないのだが……。




