ウィリカ、トレラントに乗り込む
「カタリヤのウィリカ姫がご到着されました」
いきなり、そんな報告を受け、
なんだってっ!?
とトレラントの城の者たちは驚く。
そんな知らせは聞いていなかったからだ。
だが、そのすぐあとに別の知らせが入った。
「ただ今、カタリヤの使いの者が到着しまして。
カタリヤからウィリカ姫がフェリシア様のことでお詫びに来られるそうです」
先触れの者を追い抜くなっ、と重臣たちは思った。
憂い顔の麗しきトレラント王、クレモンドが言う。
「詫び?
詫びるのはこちらの方だ。
我が国に輿入れしなければ、荷物の中に伝説の剣が入っていて、勇者となり。
魔王と戦う運命に身を投じる必要もなかったのに――」
まあ、ともかく、そのウィリカ姫とお会いしよう、とクレモンドは立ち上がった。
城に到着したウィリカは、すぐに王との謁見を許された。
が――。
「早い、早いですよ、ウィリカ様っ。
普通、知らせが届き、返事があり、相手方の準備が整ってから出立するものですっ」
「あなたが遅いんじゃないの?」
宮殿の広間で早馬の使者とウィリカは揉めていた。
いきなりだったので、ウィリカたちが休む部屋も用意できていないからだ。
「私、飲まず食わずで来ましたよっ!?」
「私たちも飲まず食わずで来たわよっ」
もちろん、外には、飲まず食わずで走らされた馬や人が倒れている。
「だから、そういうことをするなと言ってるんですっ」
「ちょっとあなた、ただの使者のくせに偉そうよっ。
私が王家の血を引いてないからって、莫迦にしてるのねっ」
……引いてないんだ、と周りに控えていたトレラントの使用人たちは思っていた。
「これがお姉様だったら、そんな態度とらないくせにっ。
みんな、私のことを莫迦にしてるのよっ」
「そもそも、フェリシア様なら、こんな莫迦なことはなさいませんっ」
短期間だが、フェリシアに支えていたトレラントの侍女や女中たちは、うんうん、と頷く。
そのとき、高貴な顔つきの侍女が現れ、ウィリカに苦言を呈した。
「ウィリカ姫、もう少しお静かに願います」
敬愛する王に見そめられようと思い、侍女をやっている公爵令嬢、ララサンダーだ。
一目見ただけで、ウィリカは彼女を敵認定した。
意外に鋭いウィリカは、すぐにその正体に気づいたのだ。
なので、侍女のくせに、と罵ることなく、ウィリカは言った。
「ふうん。
さてはあなたが、王様に急接近している、公爵令嬢の侍女ね」
サミュエルの代わりに付いて来ていたダニエルが、
わかっているのなら、無礼な真似はおやめくださいっ、と青くなっていた。
みなの前で、王に接近しようとしていることを暴露され、ララサンダーはカッと頭に血が昇ったようだった。
だが、ウィリカは容赦ない。
「あなた、まさか、自分がフェリシアお姉様と張り合えるレベルの人間だと思っているの?
ずいぶんとお幸せな夢を見てらっしゃるのね」
とウィリカは笑う。
「ちょっとやそっと美しくても、品が良くても、お姉さまには遠く及びませんわっ。
おねえさまと同レベルなのは私くらいのものなのですからっ」
……あなたも幸せな夢を見てらっしゃいますね、とその場の全員が思っていた。




