あそこが人生の分かれ道でしたね
「お疲れ様です~。
こんなところまで来てたんですね」
サミュエルが肩になにかを担いできたと思ったら、絵柄の入った陶器の丸いデキャンタだった。
「はい」
とデキャンタと揃いの柄のカップでワインをみんなにくれる。
「ありがとう。
気が利くわね」
ちょうど喉が乾いてたのよ、とフェリシアは言った。
「そうじゃないかと思って、デキャンタごと井戸水で冷やしてもらったんですよ。
あ、これ、もしかして、ベッドの上に敷くつもりですか?」
と川辺に集めた綿毛を見てサミュエルが言う。
「そうそう。
ああでも、魔王様のマントの上にはこれ以上収まらないわ。
なにか袋がいるわね」
「あとでとってきますよ。
……っていうか、魔王様のマントを綿毛入れにしてもいいんですか?」
無礼極まりないですね、と何故か魔王サイドに立って言ったあと、サミュエルは、
「そういえば、ここにも袋がありますよ」
と言いながら、手にしていた清潔そうな白い布袋から白いパンのようなものを出してきた。
みんなに配る。
白くて薄くて、ふかっとした平らなパンみたいなものに、甘辛く煮た子牛の肉が挟まれている。
「美味しいっ」
「うむ。
美味いな」
「聖女様たちにって」
とサミュエルは、さっきの岩の塔を指差す。
「……ここまでしてもらったら、他にもいろいろしてあげないといけない気になるわね」
「餌付けされてますね。
餌付けできるんですね、聖女様って」
とサミュエルが言い、魔王が、
「そういえば、我らの最初の出会いもピザ屋だったな」
と言う。
「旅に出て、まず、魔王様に餌付けされたんでしたね」
「……いいのですか、聖女様がそれで。
あ、聖女様じゃなくて、勇者様でしたっけ?」
と言うサミュエルに、
「勇者はアーローじゃない?
かなり勇者っぽくなってたわよ。
魔王を求めて旅をしている間に、仲間を作り、強くなり――。
あれこそ、勇者のあるべき姿よね。
……あの分かれ道で、ピザを選んだ私と、魔王を追って行ったアーロー」
運命が分かれたわよね、とフェリシアは言うが、
「でも、魔王様に出会ったの、フェリシア様の方ですけどね」
とサミュエルは言った。
「回り道が正解ってこともあるのかもね。
魔王様は倒せそうにないけど」
「なにを言う、あの剣で、とすっとやれば、今すぐにでも私を倒せるぞっ!」
「倒されたいのですか……」
と楽しく揉めているころ、ウィリカがトレラントに向かい、出発していた。




