岩の町とトレラント
「私、トレラントに行ってみようと思うの。
ほら、お義姉さまがいなくなって、王様も寂しくしてらっしゃるでしょう?」
そんなことを言い出したウィリカに、
「は?」
とランベルトは訊き返す。
「相手国の迷惑になります」
と止めてくれるサミュエルはもういなかった。
……アーローもいない。
フェリシアがいなくなってから、この城、どんどん人がいなくなるな、と思っていた。
水晶玉も何処だかわからない水底を映すだけで、心の癒しである愛らしい少年とも話せない。
……いや、話すというか、あの子は水晶玉を持ってニコニコしているだけなんだが。
なんかもう面倒くさいな。
確かに。
差し出したはずのフェリシアがいなくなったわけだから、ウィリカをお詫びを兼ねて、ご機嫌伺いに行かせてもいいか。
それでトレラントの王がウィリカを気に入れば、そのままトレラントに留まればいいし。
気に入らないようなら、ただ挨拶に行ったということで戻ってくればいい。
言ってる間、静かだしな。
「わかった。
行ってこい。
サミュエルをついて行かせたいところだが、いないから、くれぐれも粗相のないように」
「わかりましたわっ」
とウィリカはノリノリで支度をはじめた。
「今すぐ新しいドレスとアクセサリーと靴をたくさん用意してっ」
……静かにはなるが、金はかかりそうだ、と思いながら、ランベルトは、
「おい、トレラントへの貢ぎ物を見繕ってくれ」
とサミュエルほど気の利かない若い男、ダニエルに命じる。
はっ、というダニエルはちょっぴり気が弱く、自分がウィリカについて行かされるのではと思い、震えていた。
いや、申し訳ないが、その通りだ、と思いながら、ランベルトはサミュエルの部下であるダニエルを見下ろした。
苔の町を出たフェリシアたちは岩の町にたどり着いていた。
建物もすべて岩山で、塔のようなそれが乱立している。
岩の塔には小さな穴がたくさん空いてるのだが、その穴のあちこちにオレンジ色の灯りが灯っていて綺麗だった。
「これはこれは大聖女様御一行でらっしゃいますね。
お噂はかねがね」
と町の役人たちに歓待される。
……何処からお噂がかねがねなんだ。
人の噂って、ドラゴンの飛行より速いな、とフェリシアは妙な感心をする。
「あの穴には人が住んでいるのですか?」
暗がりにそびえる塔を見上げ、フェリシアが問うと、役人は微笑み、
「ハトも住んでいます」
と言う。
「では、ハトの住処なのですね」
へえ~、とフェリシアは頷いたが、
「人も住んでいます」
と役人は当然のように言った。
ハトも人も一緒か。
下手したら、ハトの方が広い部屋かもしれないな。
フェリシアは夜が更けたからか、大きな穴に入っていくハトたちを眺めていた。




