このままだと鞭打ちの刑にっ!
喉をうるおしたドラゴンは心地よい風に吹かれながら、寝てしまった。
「……どうするんですか、これ」
とサミュエルが言う。
「このままだと、フェリシア様が鞭打ちの刑になってしまいます」
男二人はまあいいだろう、と切って捨てていた。
魔王だし、魔族だし。
それに、スライムは子どもだから、こちらはたぶん、大丈夫だろうし、と思ったようだった。
「私は大丈夫よ。
きっとなにか、上手いこと、どうにかなるわ」
だが、サミュエルはフェリシアを横目に見て言う。
「あなたはいつもそうおっしゃいますが。
なにかがどうにもならなかったから、そんな勇者の剣や肉切りの剣を背に背負って、魔王様と流浪の旅に出ることになったのでは?」
……まあ、そういわれればそうなのだが。
私は、この旅、別に苦痛じゃないので、まあいいかな、とフェリシアは思っていた。
そのとき、馬に乗った男がすごい勢いでやってきた。
湖のほとりで馬から飛び降りようとして、こちらを見、わっ、と驚く。
寝ているドラゴンに気づいたらしい。
馬も慌てたように、その場でぐるぐると回る。
乗り手から指令が出ないので、逃げたいが逃げられないのだろう。
「あ、大丈夫よ。
今は寝てるから」
とフェリシアは男と馬に向かい言った。
「……でも、どちらかと言えば、起こして欲しいけど」
とんでもないっ、とその身軽な格好をした筋肉質な男が言う。
「あっ、そうだっ、すみませんっ。
こうして話している暇はないのでした」
馬から飛び降りた男は、急いで水を皮袋に汲もうとする。
彼に向かい、サミュエルが言った。
「待て。
私はカタリアの王の使い」
……なんか、使いの方が王や王女より、威厳があるな、と思いながら、フェリシアは聞いていた。
「お前はもしや、肉の配達人か」
そういえば、男の乗っていた馬には、大きな包みが二つ、縛り付けてある。
「はい。
ですので、急いでおります」
肉はすぐに腐るので、馬車や馬を飛ばしてスピード勝負で配達をする。
なので、急ぎの手紙なども一緒に届ける仕事をしていた。
「この鈴を苔の町の神殿まで届けて欲しいのだが」
サミュエルはフェリシアたちの腰にある鈴を指差し言った。
この男が何処まで行くのか知らないが、肉屋同士の広いネットワークを使えば、何処までも高速で荷物が届くはずだった。
「承りました。
苔の町なら、十日後には着くと思いますが」
「肉屋のネットワークを持ってして、十日かっ。
ドラゴン、どれだけ飛んだのだっ」
とサミュエルはドラゴンに怒り出すが、ドラゴンは気持ち良さげに寝ている。
「やっぱり、ドラゴンを起こして、機嫌をとって。
苔の町まで、飛んでもらうしかないんじゃない?」
「どうやってドラゴンの機嫌をとるんですか」
とサミュエルが言い、ファルコが、
「肉をやるとか?」
と馬に縛り付けてある肉を見て、馬を見て、配達人を見た。
「どの肉もあげませんよっ」
おのれが食われる前に配達人は逃げようとする。
「いや、肉食かどうかもわかんないし」
とフェリシアは苦笑いした。
配達人は、寝ているドラゴンを恐々見ながら言う。
「あの、そのドラゴンは伝説の魔王のドラゴンでは?」
「……その『伝説の』は何処にかかるのだ?」
と魔王が訊き返す。
とりあえず、彼のドラゴンではないようだ。
まあ、そうだろう。
出会ってからずっとドラゴンに舐めた態度をとられている。




