姉を追い出してみたものの
「お義姉さまが伝説の勇者となって旅立ったってどういうことっ?
しかも、アーローが追っていっただなんてっ」
城で報告を受けた妹のウィリカは怒り狂っていた。
「アーローが戻ってきたら、私の愛人にしてあげようと思っていたのに。
アーローが崇拝していたお姉さまはもういないのだから」
ああ、どうしようっ、とウィリカは苦悩する。
「きっと王様はお義姉さまでは気に入らず、伝説の勇者だということにして、追い払ったに違いないわっ。
そして、姉の代わりに私を寄越せという気なのよっ。
そもそも、トレラントの王様は、私が目当てだったんだわっ」
「いや~、どうなんですかね~?」
と城の事務官が言う。
若き事務官、サミュエルは隠居した父の跡を継いだのだが、前王のときから、代々城の事務処理を一手に引き受けていたので、今の王様も逆らえなかった。
「それだったら、最初からウィリカ様を指名してくると思いますよ」
「私に最初に声をかけたら、恐れ多いと思ったんじゃないの?
だって、お姉さまより私の方が何倍も優れていて、美しいものっ」
いや~、と言ったのは、サミュエルだけではなかった。
ウィリカの父である王も共に唸る。
「あら、お義父さまっ。
私の方がお義姉さまより美しいでしょうっ?」
「まあ、王妃はお前推しだから、お前をいいところに嫁がせてやりたいとは思っていたよ。
だからこそ、フェリシアを貶めたり、国から追い出したりしたんじゃないか」
お前では、フェリシアには太刀打ちならんから、と言われてしまう。
「さすがはクラリッサさまの娘だ」
クラリッサは王が追い出した妻、前王の妃だ。
「ずっと憧れていたクラリッサさまと結婚したはいいが、相手にされなくて、修道院に追いやったこと、後悔されてるんですか?」
と言うサミュエルに、
「……お前、ほんとうにズバッと言うな」
と王は言う。
「優秀じゃなかったら、即絞首刑だぞ。
それでフェリシアさま……
フェリシアは、今、何処に?」
「アーローが追っていたので、いずれわかるでしょう」
と苦い顔でサミュエルは言う。
「おのれ、アーローめっ。
傷心のフェリシアさまに取り入るつもりだなっ」
くそっ、今すぐこんな城捨てて、私も追っていってやるっ、とサミュエルは叫んだ。
「いや、待てっ。
私たちを見捨てるなっ」
と王はサミュエルに追い縋る。
「そうよっ。
あなたがいてくれないと、この城は回らないのよっ。
だから、私が結婚してあげるって言ったじゃないっ」
「……結構です。
私に仕事をこのままさせたいのなら、絶対にそれだけは勘弁だと申しましたよね?」
脅しつけるような部下の三白眼の目に、王たちはこくこくと慌てて頷く。
「ああ、フェリシアさまっ。
今、何処でどのようにされているのかっ」
心配でならないっとサミュエルは苦悩する。