では、これにてっ!
「魔王様~」
ドラゴンに乗るフェリシアとファルコは魔王を見た。
「すまぬ。
助けようとしたことが裏目に……」
フェリシアが水晶玉に手をかざした瞬間、魔王の方からチカラが流れ込んでくるのを感じた。
おそらく、水晶玉を光らせてくれようとしたのだろうが。
強い魔力が流れ込んだせいか。
水晶玉は真っ黒になって真っ二つになってしまった。
「いえいえ。
感謝はしております、魔王様。
助けようとしてくださったわけですから」
とフェリシアは言ったが、ファルコは、
「でも、きっと今頃、フェリシア様の妹君が噂を広めてますよ。
フェリシア様は黒い聖女だと――」
と言う。
一応、聖女とついているのに、一気に悪者感が増してきたな、とフェリシアは思う。
まあ、ここのところ、魔王様や魔族といて。
『魔』って悪いものなのか? と思うようにはなっていたのだが。
「そうですよ。
こういうチャンスは逃さない人ですから」
もうひとつ声が割り込んでくる。
ついにスライムがしゃべったのかと思ったが、ドラゴンの尻尾にサミュエルがぶら下がっていた。
「なんでついて来てるのっ?」
近くにいたフェリシアとファルコが今にも落ちそうなサミュエルを引っ張り上げる。
「いや、すみません。
あの城にいるのに、疲れてしまって。
そもそも私は、前の王様やクラリッサ様に憧れて、幼き折に、城勤めを志願しましたのに。
今や、関係ない者どもに城は奪われ――
もはや、あそこにいる必要はないような気がしてきまして」
雇ってください、フェリシア様、とサミュエルが懇願してくる。
上目遣いにこちらを見て言った。
「……雇わなければ、そこの魔導師様の秘密をしゃべりますよ。
アルバトロス様は魔王様だったのですね」
聞いてたのか……と思いながら、フェリシアは言った。
「いや、別に脅されなくても雇うけど。
でも、あなたがいないと、カタリヤの城は回らないんじゃないの?」
「ちょっと反省すればいいんです。
フェリシア様を追い出し、私をこき使い。
ほんと、ロクなことしませんから。
それに、必要なら、何処かから、また誰か雇ってきますよ」
そうねえ、とフェリシアも頷く。
「ところで、このドラゴン、なんでフェリシア様に懐いてるんですか?」
と訊くサミュエルに、ファルコが、
「きっと大聖女様のドラゴンだったんですよ」
と晴れやかに笑ったが。
フェリシアは、
……いや、封印されてたドラゴンだよね。
魔王の寝室に、
と思っていた。
その頃、天翔るドラゴンを見上げている老人と孫がいた。
「おじいちゃん、あれ、ドラゴン?」
「むっ。
あれは、わしが小さいときに見た、呪われしドラゴンではないかっ。
常に災厄とともにあるという!」
「そうなんだー。
でも、なんだか楽しそうだよ」
ドラゴンは機嫌良くフェリシアたちを乗せ、天気のよい空をゆったりと飛行していた。




