大聖女のチカラの鑑定
「お義姉様が大聖女なら、この水晶玉が光るはずですわっ」
そうウィリカは主張する。
……光るはずないだろ、偽物なんだから、と全員が思っていた。
「光らないなら、私が大聖女だと言うことですわっ」
「……なんでだ。
お前の妹は莫迦なのか」
と魔王に言われ、
申し訳ございません……となんとなくフェリシアは謝る。
魔王はランベルトが、ははは、と笑いながら、
「光るわけないだろう」
と言うのを聞いて、
なんだかちょっと、もやっとするなと思っていた。
見た目だけは完璧大聖女なフェリシアだが。
そんなご大層なものではないことは、自分たちが一番よくわかっている。
だが、フェリシアがこんな小物に莫迦にされるのは、なんだか嫌だな、と思っていた。
「さあ、お義姉さまっ。
早く手をおかざしになってっ。
ああ、これでようやく私が大聖女になれますわっ」
うきうきとした調子で言うウィリカを見ながら、あのドラゴン、意外におとなしいが、こいつをパクッと咥えて、何処かに捨ててきてくれないかな、と魔王は思っていた。
フェリシアは、義妹のそういう感じにはなれているようで、はいはい、と苦笑いして従っている。
サミュエルが近くにあったテーブルの上に水晶玉を置いた。
フェリシアが水晶玉に近づく。
私が大聖女でないとなったら、ウィリカが私が大聖女だから、大聖女の服を作るとか言って、騒ぎそうだな。
そう思いながら、フェリシアは水晶玉に近づいていた。
まあ、城下の仕立て屋が儲かっていいか、と思いながら、一応、集中するために息を吸う。
水晶玉に書いてある文言を読んだ。
いや、呪文ではなく、ただの注意書きなのだが、古代の言語はサミュエル以外わからないので。
神秘的な音律の言葉だと聞こえるだろう。
荘厳な雰囲気が漂い、近くで見ていた衛士たちも畏まる。
フェリシアは水晶玉にその細い手をかざした。
カッ、と光が走る。
みな、その眩しさに目をしばたたいた。
水晶玉はそのチカラを受け止め切れなかったかのように、真っ二つになって割れた。
……黒くなって。
「……真っ黒になりましたわ、お義姉様」
「ほんとね……」
「す、素晴らしいチカラですっ。
さすがフェリシア様っ」
とサミュエルが上手くまとめようとする。
「あ、じゃあ、私はこの辺で――。
ドラゴン、行くわよっ」
ドラゴンが首を下げ、フェリシアを咥えて乗せようとする。
もうドラゴン、飼い慣らしてる……という目で魔王が見ていた。
「逃げましたわ。
水晶玉を割って……」
ウィリカは慌てて飛び立っていったフェリシア一行を見送る。
中庭の四角い空からドラゴンの姿はすぐに消えていた。
まったく、とランベルトが呆れたようにウィリカに言う。
「大聖女かどうか確かめるなどと。
フェリシアが大聖女のはずないではないか。
フェリシアはクラリッサさまの娘だぞ。
女神に決まっておる」
「……お義父さま」
と呆れたあとで、ウィリカは言った。
「それにしては、真っ黒でしたわ、水晶玉」




