空からなにかがっ!
水晶玉からサミュエルの声が飛び出してきた。
「お逃げくださいっ、フェリシア様っ」
「え? 逃げる?
なにから?」
水晶玉は途切れ途切れにメッセージを伝えてくる。
充分にチカラが溜まっていなかったのか、映像は見えない。
「……早く……来ますっ。
……空から……っ」
空から?
だが、そこで水晶玉の通信は切れてしまった。
「……なにが空から?」
とフェリシアが呟くと、ファルコが言う。
「なにか恐ろしいもののようでしたね」
一生に水晶玉を覗き込んでいたおばあさんが怯えて言った。
「……まさか。
魔王が空からっ?」
いや、その人はすでに、ここにいます……。
あと、魔王様なら、たぶん、歩いてきます、とフェリシアは思っていた。
「でも、なにかの非常事態なのは確かよね?
それで、王から水晶玉を借りて連絡してきたんでしょうから」
借りてか、奪ってかは知らないが。
サミュエルのことだから――。
スライムの男の子は、動かなくなった水晶玉をきゅっきゅっとその辺の布で磨いている。
すると、突然、また、
「金印……
駄目でしたっ……」
と小さく声が聞こえてきた。
あ、繋がった、と思ったが、すぐに消えてしまう。
「金印――
あの金印か。
あれが使えなくて、
空からなにがやってくるので逃げろという話?」
そんなフェリシアの言葉に、ファルコが困ったように窓から空を見た。
「なんだかわかりませんが、その伝説の勇者の剣でどうにかなりませんか?」
おばあさんが、ひえっと驚く。
「そ、それは伝説の勇者の剣だったのですかっ。
肉を削ぐ剣かと思っていましたっ」
……片方は確かに。
「では、あなたは勇者様っ。
大聖女様かと思っておりましたっ。
申し訳ございませんっ」
とおばあさんは平伏しそうになる。
どっちも違うんですけど、と思っていたが、いろいろ言うと、ややこしくなるので、フェリシアは、
「実は今、勇者にこの剣を託しに行く旅の途中なのです」
と明かした。
まあ、嘘は言っていない。
ただ、勇者に剣を渡して、魔王を倒されたら、困るのだが。
いつか、ほんとうに勇者に出会えて剣を渡せても、そのまま、そっとしまっておいて欲しい。
「では、魔王が来ても、その剣で倒せるのですね?」
おそるおそると言った感じにおばあさんが確認してくる。
魔王は深く頷き言った。
「トスッと突かれただけで、消滅してしまうであろう」
ファルコが、
……なんでそんな恐ろしい剣と一緒に旅してるんですか、という顔で魔王を見る。
フェリシアはまだなにも空に飛来していないことを確認し、立ち上がった。
「ここにいたら、迷惑がかかるかもしれないわ、逃げましょう」
「お待ちくださいっ。
外に出ては危ないのではっ」
とおばあさんは止めてくれるが、そういうわけにもいかない。
可愛いこの町がなにかに襲われては申し訳ないからだ。
そのとき、スライムが磨き続けていたせいか、水晶玉がまた光った。
フェリシアが慌てて訊く。
「サミュエル!
そっちは大丈夫なのっ?」
「我々は大丈夫ですっ。
ザコですからっ」
とサミュエルは不思議なことを言う。
「王様たちも大丈夫ですっ」
と続けてサミュエルが言うと、後ろからランベルトが、
「待てっ。
それだとわしらもザコになるだろうがっ!」
と文句を言っていた。




