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何処にも入れぬではないか


 フェリシアは気づいた。


 水をたっぷり含んだ苔玉の家。


 その玄関扉の両端に、この場所に似つかわしくない枯れ枝がぶら下がっていることに。


「これは……?」


 その細い枝を見上げてフェリシアが訊くと、中に入っていた老婆が戻ってきて答えてくれた。


「ああ、それはこの町に昔から伝わる縁起物なんですよ、大聖女様」


 特に名乗ってもいないのに、老婆にも大聖女扱いされる。


「この辺りの家は、みんなぶら下げています。

 この町のものはなんでも、水を含んでいるので、なにを置いてもすぐ湿気てくるのですが。


 この枝だけは何故か枯れたままです。


 珍しいこともあり、各家が玄関に飾っていますよ」


 そう老婆は微笑むと、みんなすぐに入ってくると思ってか、そのまま奥に行ってしまった。


「魔王さまが入れないとは……」

とファルコが言い、


「この縁起物、魔除けなんですかね?」

とフェリシアが呟く。


 そんな三人の目の前をスライムの男の子は普通にとことこ入っていった。


 ……彼は魔ではないのだろうか。


 まあ、彼が正体をあらわしたところで。


 なんか、ぬめっとして、ぽよっとして、移動してってるだけだからな。


 そうフェリシアが思ったとき、魔王が町を振り返りながら言った。


「この魔除け、何処の家にもあるのか」


 そういえば、どの家にもこの枯れ枝がぶら下がっているように見える。


「……では、何処にも入れないではないか」

と魔王は呟く。


「と、ともかく、不審がられていけないので、とりあえず、私、中に入りますね」


 なにかお手伝いしましょうか? と声をかけながらフェリシアが入っていくと、


「ありがとうございます、大聖女様。

 大聖女様にこのようなことを頼んでは申し訳ないのですが。


 勝手口を出たところに、ハーブが干してありますので。

 お持ちいただければ、美味しいハーブティーが入れられますが。


 息子が高いところの方が風が通るからと、カゴに入れて吊るしてくれたんですけど、手が届かなくて」

と老婆はキッチンから振り返り、微笑む。


 わかりました、とフェリシアは勝手口の扉を開けてみたる


 軒下の高いところに、ずらりとカゴが吊るしてある。


 女性にしては大きいフェリシアだが、背伸びしないと届かない感じだ。


 これはおばあさんは届かないな、と思う。


 なにもかも湿気てしまうから、できるだけ、風の通るところに置いているのか。


 ――砂漠にいると、水が貴重だけど。


 こういうところだと、今度は、乾いた風が欲しくなるものなのね。


 それにしても、魔王様はどうしたらいいんだろうなあ。


 ファルコは入れるのかな?


 まあ、魔王様ほど、強大なチカラはないから、と思ったとき、軒下に吊るしてあるハーブの入ったカゴのひとつを誰かがとってくれた。


「あ、ありがとうございます」

と背伸びしていたフェリシアが振り向くと、魔王が立っていた。


 裏に回ってきたらしい。


「これひとつでいいか?」

と中の老婆に訊きながら、魔王は、ひょいと勝手口をまたいだ。


「……入れたな」


「入れましたね」


「魔除けのない裏からは入れるのか。

 意味ないじゃないか」

と魔王自ら言っていた。


 まあ確かに。


 今、この世界で、もっとも『魔』な魔王が除けられないのなら、魔除けの意味はないかもな、とフェリシアも思う。





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