迷路の町の真ん中で――
より古い方へ古い方へ歩いて行ったフェリシアたちは、少し日干しレンガの崩れたエリアにたどり着いた。
四方を古いエリアに囲まれたそこは、砂漠の町とも思えぬ緑に囲まれ、井戸に水が湧いていた。
ヒゲの老人が井戸の向こうの通路から現れて言う。
「よくぞここまでたどり着いた。
カタリヤの使いよ」
だが、そこにたどり着いていたのは魔王だった。
このエリアに来るまで紆余曲折あった。
途中、サミュエルたちがこの町の王の兵士に出くわし、
「何処に行かれるのです?
ご案内しましょうか?」
と言われ、誤魔化すために、美味い店に連れて行ってもらい、
今、ここに入る寸前、フェリシアはおばあさんに道を尋ねられ、
ファルコは駆け出していったスライムを追って出て行った。
「カタリヤの使いよ」
……なんだろう。
この老人の前に跪かねばならない感じだ。
魔王は空気を読んだ。
膝を折り、誰なんだかわからない、暑いのにローブをまとった老人に向かい、頭を垂れた。
ファルコや魔王の森の面々が見たら、発狂しそうな状況だった。
老人が魔王の肩に平たい抜き身の剣を置く。
「そなたに、この黄金の印の所持者の称号を与えよう」
朗々とした声が狭い井戸のエリアの周囲を囲む高い壁に反響したとき、なんかこれはこれで悪くないかも、と思ってしまった。
「カタリヤからの使者よ。
名は――」
「アルバトロスにございます」
名前、つけてもらっておいてよかった、とアルバトロスは思った。
「アルバトロス、良い名だ」
「大聖女、フェリシア様につけていただきました」
「いやいや、あなた、自分でつけたんですよ」
とフェリシアがいたら言っていたことだろうが。
「世界を見通す大聖女に名をつけてもらうとは。
そなたは、よほど、徳のある人物なのだろうな」
世界を見通す大聖女様は、今、老婆とともに迷子になっているようだが――。
というか、大聖女じゃなく、後宮を追い出された王妃のようなんだが。
「そなたにこの金印を授けよう」
「ありがたき幸せ――」
魔王、アルバトロスは布袋に入った金印を押しいただいた。




