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なにもかも向こうからやってくる

 

 黒く艶やかな長い髪が印象的な鼻筋の通った美しい男。


 発する気配がただものではなく。


 着ている装束がこの上なく、魔王っぽい。


「あの、あなたは……」


「私はこの森を統べる魔王。

 お前は誰だ。


 人間の姫よ。

 ずいぶんと勇ましい格好をしておるが」


「何故、姫だと?」


「王族が使う石鹸の香りがする――。

 私はそこからそこまでのこの森を()べる魔王」


「……狭くないですか?」


「ここは、あやかしの森。

 人間の地図では狭くとも、実際には広いのだ」


 森の中の空間は、捻じ曲がっているようだった。


「お前が勇者か」

とフェリシアの背にある剣を見ながら、魔王様は言う。


「勇者っていうか。

 花嫁道具の中に伝説の剣が入っていて――」


 はっ、誰かに押し付けようと思っていたとか、魔王様に人間が舐められるだろうかと持ったフェリシアは、しどろもどろと言い訳をする。


「そ、それでその。


 政略結婚だったんですけど。

 そんな物騒な嫁はいらん。


 出ていけと言われまして。

 嫁入り先にも実家にも帰れず、することもないので、魔王様でも倒しに行こうかと」


「そんな暇だから倒しに来たとか言われて、倒れされる方の身にもなれ」


「倒れされるんですか?」


「その伝説の剣で一突きにすれば死ぬだろう」


 そんなこと、わたしに教えてもいいのですか。


「そうなんですか。

 でもあのー。


 途中で、怪しい予言者の人に出逢いまして。

 ほんとうは、あっちの道から行けと言われたんです。


 でも、そのあと、こっちに美味いピザの店があるというので、それを食べてから出発しようと思ってたんですが」


 何故、今出会うのですか、という目で魔王を見る。


「こっちから行って、ぐるっと回っていったら、徐々に仲間が増えたり、強くなったりして、あなたを打ち倒せるのでは?」


「いや、そいつで、グサーッとやれば、今でも倒せる」


 あっさりと、と魔王様はそう言う。


「でもあの、私、人間もグサーッとやったことないので、魔王様をやるのは無理かと」


「人間をグサーッとやったことある姫は問題だぞ。

 それにしても、仮にも何処かの姫なら、警備の者とかが密やかに追ってきたりしているのではないか?」


「いや~、そんなこともないと思うんですが」


 魔王は空中にビジョンを出した。


 近くの村の様子が映っている。


「ふむ。

 これじゃないか?


 この辺りの者の服装とはちょっと違う男だが。

 体格もいい。


 ただものではないような」


 さすが魔王、よそ者の気配を感じ取ったらしい。


「まあ、私の従者の中で、一番のいい男と評判のアーローではないですか。


 ……あら、冒険者の立ち寄る酒場に私を探して立ち寄って。


 アーローはとても気のいい人ですから、すぐにお仲間ができたようですね。


 あら、私は魔王を倒しに行ったはずだから、クエストの森を抜けて行こう――」


 その映像と口元を読みながらフェリシアは言う。

 読唇術はフェリシアの特技のひとつだ。


「これでは、アーローの方が勇者ですわね」


「では、せっかくなので、そいつが来るまで倒されないでおいてやるか。

 ところで、お前、その伝説の剣は花嫁道具に入っていたと申しておったが」


「そうなんですよ。

 もしかしたら、あの王様を好きな誰かが伝説の剣を入れて追い払ったのかもしれませんね」


「……何処から手に入れてきたんだ、そいつは」


 古道具屋か? と言う。


「まあ、立ち話もなんだ。

 することがないのなら、来い」


「え? いいんですか?」


 魔王は麗しい瞳でフェリシアを見下ろして言う。


「私を倒すことができるのは、おそらく、そのラスボスを倒す剣だけだ。

 お前がそれを持って、私の側にいるのなら、私は安全だろう。


 ……ああ、チク、とも刺すなよ。

 消滅してしまうから」


「そ、そんな恐ろしいもの私、持っていられません。

 よろけて、トスッとかやってしまったらどうするのですか」


 魔王様持っててくださいっ、とフェリシアは背中から剣を抜いて差し出す。


「抜き身かっ」


「だって、伝説の剣はありましたが。

 伝説の鞘はなかったんです」


 その剣先を避けて遠目に見ながら魔王は言う。


「そもそも、持っててくださいってなんだ。

 お前は私を倒しに来たのではないのか。


 ……というか、自分を滅ぼすものを自分が持ってるのも怖いだろう」


「いえいえ。

 絶対、ご自分で持ってらっしゃる方が安全ですってっ」

と二人はラスボスを倒す剣を譲り合った。





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