運命の相手
「のんびり風呂に入ってる場合じゃなかったな」
入っておいて、魔王はそんなことを言った。
「フェリシアさまは何処なんでしょうね?」
そうファルコが言ったとき、迷路のような通りを歩いていた魔王は気がついた。
ぴたりと足を止めて言う。
「ファルコよ。
ここにいよう」
「えっ?
どうしてですか?」
「フェリシアは必ずここに来る!」
魔王はそう強く言い切った。
そのとき、ゾロゾロと馬に乗った男とそれに付き従う兵士たちがやってきた。
顔の濃い兵士が笑って言う。
「サミュエル殿、アルバトロスさまたちと出会ってしまいましたよ。
運命の相手なのでは?」
そんなからかいの言葉をスルーし、サミュエルは魔王に問う。
「フェリシアさまは?」
「はぐれたのだ。
だが、あの者は必ずここに来る」
「……何故、そんな自信満々にっ。
あなたこそがフェリシアさまの運命の相手だとでも言うのですかっ」
と言うサミュエルに、
「運命の相手?」
と訊き返す魔王は、この迷路の町で一度はぐれ、すぐに再会できたらそれが運命の相手だという伝説を知らなかった。
そのとき、角を曲がってフェリシアが現れた。
「あら、魔……
アルバトロスさまたちとサミュエルが」
くっ、とサミュエルが悔しそうな顔をする。
「何故、あなたはフェリシアさまがここにいらっしゃるとわかったのですか。
大魔導師だからですか」
いや、大魔導師ではない、と魔王が思ったとき、フェリシアが笑顔になり、手を打った。
「これは!
肉削ぎの剣が私をここに導いたのでしょうか!」
すぐ近くにムタルが焼いているのと同じような肉の塊を焼く屋台があったのだ。
「……フェリシアさまの食い意地が導いたんじゃないですかね?」
通りを漂う微かなニオイにつられて、とファルコが苦笑いして言う。
「これはつまり、運命の相手というより、食べ物の好みの合う人間と出会えるということでは?」
と言うサミュエルのおごりで、みんな肉を食らった。
顔の濃い兵士が笑って言う。
「いやいや。
食い物の好みが合うのは大事なことですよ」
と。
「そういえば、アーローに会ったわ」
とツンとしたいい香りのする葉っぱに包んでもらった肉を手にフェリシアは言った。
「何処でです?」
とサミュエルに問われ、フェリシアは、
「……何処かで」
と言う。
この迷路の町の何処で出会ったかなんて。
もしかしたら、ここの住人にもわからないのでは、と思う。
「『元気にしてるみたいね』と言ったら、
『ご立派になられて』って言われて。
いや、なんかぼーっと旅してるだけなんだけど。
アーローの方がよっぽど立派になってたわ。
まるで、ホンモノの勇者みたいに」
「あの、フェリシアさま。
その勇者に剣を渡せばよかったのでは……」
とファルコが言ってくる。
「……そういえばそうね」
「それで、アーローは?」
とサミュエルにまた問われ、
「さあ。
私もアーローもまたはぐれて迷っちゃったから」
とフェリシアは言う。
ちょっと似たところのある二人だった。




