迷路の町
サミュエルのおかげで無事に町の中に入れた。
道幅が狭く、建物が密集していて、まるで迷路のような町だ。
だが、色とりどりの物が売られている市場もあるようで、なんだか楽しそうだった。
「ところで、何の用でここに来たの?」
フェリシアはサミュエルに訊いてみた。
それが、とサミュエルは眉をひそめ、
「この町に住む長老に訊きたいことがあるんですよ」
と言う。
「まず、長老を探すところからなんですけどね。
フェリシアさまたちは観光でもされるのなら、何人か兵士をお貸ししましょうか?」
「大丈夫よ」
とフェリシアは言ったが、顔の濃い兵士のひとりが眉をひそめて言う。
「……この町はヤバイ町なんですよ、姫様」
ほう、と興味深げに魔王は言う。
「でも、害はないので、この町のヤバさを楽しまれる方がいいかもしれません」
いや、どんな町だ。
サミュエルたちと別れて、フェリシアたちは町を歩き出した。
高い建物に囲まれた迷路のような道をスライムの男の子が走って行く。
「あっ、待って。
迷子になるわよっ」
……いや、魔物は迷子とかならないのだろうか、と思ったとき、獣人ファルコが市場を覗いて言った。
「美味いものがたくさんありそうですよ」
カゴに入った果物などが、所狭しと並べてある。
フェリシアも魔王もスライムとファルコについて歩き出した。
フェリシアたちが行ったあと、サミュエルは部下たちに訊いてみた。
「ここは、なにがヤバイ町なのだ?」
「迷子になるんですよ」
とさっきの顔の濃い男が言い、
「連れともはぐれます」
と別の兵士が言った。
「……教えておいた方がよかったのでは?」
そう言ったときにはもう、フェリシアたちははぐれていた。
魔物は迷子にならないかもしれないけど。
私は迷子になるようだ。
密集した家々の隙間の狭い道。
建物は高く、空も小さく遠い。
何処行ったらいいんだ、これは……。
フェリシアはさっき屋台で買った果実を腕に抱え、通りをウロウロしていた。
この小さな赤い果実は二つに割ると、中が透明でぷるぷるしている。
口に頬張ると、たまらない食感で、ほんのり甘いのだ。
……これを試食していて、魔王たちとはぐれたのだった。
「そうだ」
とフェリシアは背中の伝説の剣を取り出した。
これは魔王を殺す剣。
魔王を殺せと魔王さまがいる方を指すのではっ。
フェリシアは道の真ん中に伝説の剣を突き立ててみた。
この人、なにやってんだろうという顔で、通りすがりの行商人や椅子に座って猫とうとうとしていたおばあさんがこちらを見る。
手を離すと、剣はグラグラッとしてフェリシアに向かって倒れてきた。
こっちかな? とフェリシアは後ろを振り返り、そちらに進む。
だが、行き止まってしまった。
「……この高い壁の向こうかしら?」
壁を突き破ってはいけないしな。
フェリシアはまた剣を地面に刺してみる。
剣はグラグラッとして、またフェリシアの方に倒れてきた。
「今度はこっちか……」
とフェリシアは反対側を向いて進み出す。
だが、すぐに、見たこともない果物がたくさん吊るしてある屋台を発見してしまった。
またフラフラとそちらに向かい歩き出す。




