門の前で順番待ち
結局、フェリシアたちは、サミュエル一行に混ぜてもらい、門を潜れることになった。
順番を待っている間、サミュエルはフェリシアの背にある剣に興味津々だった。
「ほほう。
それが伝説の勇者の剣ですか!」
「あ、いや、そっちは肉削ぎの剣」
「ひいっ!」
呪いの剣かっ、とサミュエルたちとともに来ていた兵士たちが怯える。
フェリシアは背中の革袋を下ろすと、中に入っている二本の剣を引っ張り出してきた。
「今、あなたが見てた方がこの肉削ぎの剣。
お別れにって、美味しい肉を屋台で売っているムタルという男がくれたのよ」
ムタルが今使っている大きな刀ではなく、彼のおじいさんが使っていたという細身の剣だ。
これで踊りながら切っていたらしい。
「この先も踊りながら切る予定はないからってくれたの。
……まあ、私もないんだけど」
でも、せっかくいただいたのだ。
いつかデッカイ肉を、屋台の肉みたいに焼いて、踊りながら切ってみたい、とフェリシアは思っていた。
フェリシアの説明のせいで、兵士たちは肉削ぎの剣の方に集中していたが、もちろん、他の並んでいる者たちは、勇者の剣に釘付けだった。
「なんという見事な剣!」
「もしや、これはカタリヤの姫様が所持されているという伝説の勇者の剣ではっ」
「では、あの麗しい方が、カタリヤの大聖女、フェリシア様っ」
「いや、フェリシア様はトレラントの王妃となられたらしいぞ。
トレラントの大聖女じゃないのかっ?」
ざわざわとみなが騒ぎ出す。
「あの~、なんでこんなに勇者の剣のことが広まってるの?」
「王がフェリシア様が伝説の勇者の剣を持っているって自慢しちゃって。
ここ、そこそこ、カタリヤから近いですから、みんな知っているのでは?」
とサミュエルが言う。
魔王のチカラで飛んできたので、何処なのかわかっていなかったが。
思ったより、カタリヤに近い場所だったようだ。
よく考えれば、この間まで城にいたらしいサミュエルが今、ここにいるわけだし。
そもそも、遠方なら、王が彼を向かわせるはずがない。
サミュエルの気分転換になる程度の距離の国、ということだろう。
周りが砂漠だから、さっきの場所と近いのかと思っていたが、そういうわけでもないのかもしれないな、とフェリシアは思う。
まったく違う砂漠なのか。
それとも、同じ砂漠の反対側なのか。
世界は広く。
聡明なフェリシアだが、地理には疎く。
そして、ちょっぴり、方向音痴だった。
あまり城の外に出たことがないせいもある。
「それよりその勇者の剣、抜き身で大丈夫なんですか?」
とサミュエルに問われ、
「伝説の剣はあったけど、伝説の鞘はなかったから」
と魔王にしたのと同じ説明をフェリシアはする。
「このまま持ち歩いててても、今のところ、誰にも刺さってないし、切れてないんで。
……もしかしたら、魔王さまにしか刺さらないのかも」
「あ~、魔王を倒せる剣なんでしたっけ?
でも、今、魔王を倒す必要あります?」
この辺、魔王の影響力、なんにもないんですけど、とサミュエルが言うのを、ちょっぴり寂しそうに魔王が聞いていた。




