新しい町
嫁に来たと思った途端、あっという間にいなくなってしまったフェリシアを思い、若きトレラントの王はちょっと落ち込んでいた。
「王様、元気をお出しください」
と美しい侍女が言う。
侍女は行儀見習いで来ている貴族の娘が多い。
中でも、彼女、ララサンダーは公爵令嬢なので、トレラントでは、普通、侍女などやらないのだが。
敬愛する王に見そめられようと思い、侍女をやっていた。
「……ララか。
いや、嵐のようにやってきて、嵐のように去っていったフェリシアのことを考えていたのだ」
「元気をお出しくださいませ、王様。
私がついております。
父や兄とともに、いつまでも、王様をお支えいたします」
「ララ、ありがとう」
素直な王は素直に深く頷いた。
ふたたび、その頃、
「おおっ。
大聖女さまたちの姿がいきなり消えましたぞっ」
「転移されたのだろうか」
「さすが大聖女さまっ」
「どちらに行かれたのだろうっ」
とフェリシアたちを見送っていた僧侶たちは騒いでいた。
単にチカラの溜まった魔王、アルバトロスが思いつきで、ぽん、と適当なところに飛んだのだが。
「……魔王さま。
ここは何処なんですか?」
フェリシアたちは町を囲む高い塀の前にいた。
「何処だろうな。
見たことのない町だ」
魔王は目を細め、その高い塀を見上げる。
「とりあえず、門を探すか」
「……何処にでも飛べるのなら、町の中に飛べばよかったのでは?」
というフェリシアの呟きはスルーされた。
周りは砂漠なので、さっきの国からそんなに離れてはいないのかもれしない。
「この町に伝説の勇者の剣に相応しい人はいるでしょうかね?
……さっさとこの剣を渡せるような」
と言うフェリシアは門を見つけたが、その門の前には門兵が何人かおり、通行証のようなものをチェックしていた。
「通行証とか誰か持ってます?」
とフェリシアは魔王たちを振り返る。
「いや~、ないですよね~」
と言うファルコが、魔王に訊いた。
「魔王さま、今から町の中に飛べませんか?」
「またチカラが溜まらないと飛べぬな」
「……別の町に行きますか?」
もっとこう、ぬるっと入り込めるようなところに、とフェリシアは言う。
「だからそもそも、別の町に飛べぬと言ってるだろうが」
そう魔王が言ったとき、
「フェリシアさまっ?」
と聞き覚えのある声がした。
見ると、立派な身なりの一行が門の前の列に並んでいる。
「フェリシアさまっ」
「フェリシアさまだっ」
フェリシアはその一行率いる正装した白い服の男に駆け寄った。
「サミュエル!
こんなところでなにしてるのっ?」
サミュエルは三白眼の瞳に笑顔を宿して、馬から飛び降りる。
「いや~、もうウィリカさまがいろいろとうるさいので。
この町への用事を引き受けて逃げてきたのです。
こうして、フェリシアさまにお会いできたことですし。
もう私、帰らなくてもいいですか?」
とサミュエルは言い出す。
「いやあの、あなたがいないとあの国回らないから……」




