後宮を出されました
「今のはなんです?」
「なんでしょう……?」
「それは、もしや、魔王を倒せる、伝説の勇者の剣ではないですかっ?
私の村にそのような伝説が伝わっておりますっ」
「もしや、姫様は伝説の勇者っ」
「ただものではないと思っておりましたわっ」
と周りが勝手に盛り上がる。
王様。
共に危機を乗り越えようと言われたばかりなのに。
私、一人で乗り越えることになりました――。
嫁入り道具の中に、伝説の勇者の剣があったせいで、フェリシアは魔王を倒しに、たった一人で旅立つことになった。
いや、ついて来てくれるという者たちはいたが、断ったのだ。
どう考えても自分は勇者ではない。
そもそも、こんな伝説の剣に覚えはない。
街に出て、本物の勇者を探して渡して帰ろう。
だが、そんなヘタレなところをみんなに見せては、未来の王妃としてマズイ。
フェリシアは微笑み、みなに言った。
「たった今、ご神託がくだりました」
いや、誰からだ――、
と自分で心の中で突っ込む。
「伝説の剣を持つ者よ。
ひとりで旅立てと」
なんということだっ、と王様や侍女たちが嘆いてくれた。
大丈夫。
街に出たら、それっぽい人に渡して、本物の勇者に出会ったと言って帰ってくるから。
だって、私がこんな剣持ってても、宝の持ち腐れだもんね。
なので、戦う気は一切なく。
普通の町娘のようなドレスで背中に剣を入れた袋を背負い、フェリシアはみんなに拝まれながら、旅立った。
「なんと尊い光じゃ。
フェリシア様が魔王をなんとかしてくださるに違いない」
と位の高い預言者に、
いや、無茶を言うな、ということを言われ、見送られる。
「さてと」
ここからどう行けば――。
城からまっすぐ下りてくると、右が街。
左がのんびりとした山道のようだった。
勇者を見つけるなら、右かな、と思ったとき、
「魔王をなんとかしてくれる伝説の勇者よ」
と誰かが呼びかけてきた。
見ると、頭からローブを被った怪しい若い男が森の木々の前に立っている。
「この道をまっすぐ行けばよい。
さすれば、かけがえのない友と出会い、魔王を倒すための力も得られよう」
と右の道を指差す。
その道を行けば、長い長い冒険の旅がはじまってしまいそうだった。
王様の妃となることは、もう叶わないかもしれない。
……まあ、一言二言交わしただけだったから、特に恋しくはないんだが。
「伝説の勇者よ。
こちらの道をまっすぐ行けば、絶品のピザを出す店がある」
とそのローブの男は反対側の森へと続くゆったりとした道を指差し、言い出した。
……予言者じゃなくて、客引きだったかな?
「いや、ほんとうに美味いのだ。
私は三日にあげず通っている。
どちらの予言も真実だ。
なにを選ぶかはお前次第」
伝説の勇者の道か。
絶品ピザへの道か。
代わりの勇者を選ぶには、右に行った方がいいんだろうが。
とりあえず、左に行くか。
引き返してはならないなんて言われてないしな。
フェリシアは、とりあえず、左に向かって歩き始めた。
チーズたっぷりのピザを食べるために。
だが、一歩森の中の道を踏み出した瞬間、向こうからやってきた魔王っぽいものと目があってしまった。