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 霧雨のところにやってきた初めてであったころの小さな童の美湖の姫は霧雨ににっこりと笑うと、ぎゅっと抱き着いて、「きりさめ。あなたはわたしのぶんまで長生きしてね。すぐにしんじゃったりしたらだめだよ」と霧雨に言った。

 そして霧雨がさめざめと泣いていると、ばいばい、と声を出さずに口だけを動かして言って、笑顔の美湖の姫は霧雨の前からいなくなってしまった。

 少し寒い風の吹く縁側には霧雨がひとりぼっちで残された。

 その美湖の姫の言葉を聞いて、霧雨は号泣しながら、はい。わかりました。美湖の姫さま。と心の中で(いつも美湖の姫のわがままを聞いてあげていた、あのころの自分自身のように)そう言った。

 それから霧雨はにっこりと笑うと、「よいしょっと」と言って縁側の上に立ち上がって、寒さの厳しい冬を迎える準備をはじめた。

 美湖の姫さまと一緒に暮らしたこの御殿の一室を美湖の姫さまのご両親は霧雨にくださった。これから霧雨は美湖の姫さまのご両親の御付きとして雇わることになっていた。(美湖の姫のご両親は霧雨のことをすごく気に入ってくれていた)

 やがて月日が流れて美湖の姫さまのご両親が亡くなると、霧雨は御殿の離れにある小さなお家をもらってそこでお歌を詠みながらのとても質素な生活を始めた。(そのころには少しだけだけど、お歌を詠んでお金が稼げるようになっていた)

 霧雨はそれからとっても長生きして(わたしはしぶといのだ)百歳ちかくまで生きて、生きて、生き抜いて、亡くなった。その最後のときは、お歌仲間のみんなに祝福されての大往生だった。霧雨がそれほど長く生きることができたのは、霧雨の頑張りのおかげではあったのだけど、ずっと、霧雨が美湖の姫から最後に言わられた、きりさめはすぐにしんじゃだめだよ、の言葉を御付きとして守り続けていたからだった。


 あなたに会いたいな。


 霧雨 きりさめ 終わり

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