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1 むかしむかし、あるところに。

 霧雨 きりさめ


 むかしむかし、あるところに。


 霧雨の見ている前で布団に横になったまま、美湖の姫は亡くなってしまった。まだ二十歳を迎えたばかりのとても早くて突然の(あっというまの)できごとだった。流行りの病にかかり、祈祷をしたり、有名な医師が懸命な治療をしたのだけど、流行りの病に勝つことができなかった。

 大きな貴族のお家から婚姻のお話もきたばかりだったけど、それを受けることもできなかった。(美湖の姫だけではなく、都ではたくさんの人たちが流行り病で亡くなっていた。それを祟りだという人たちもいた)

 美湖の姫は流行り病に倒れてから、一か月後に亡くなった。その間、霧雨はずっと美湖の姫のそばにつきそっていた。

 幼いころからずっと美湖の姫の御付きとして御殿の中で暮らしてきた年老いた霧雨にとって、自分の主人である美湖の姫が亡くなってしまったことは、まるで自分の中がからっぽになってしまったかのだった。美湖の姫のお葬式が終わって、数日がたって落ち着いたころに、ぼんやりと縁側に座っている霧雨はどこか遠いところを見るようにして、穏やか御殿の美しい庭を眺めていた。(よくその美しいお庭でとても楽しそうに美湖の姫は遊んでいた)

「ごほごほ」と霧雨は小さな咳をした。

 吹いている風はすこし冷たくなった。いつのまにか秋も深まり、もうすぐ寒い、寒い冬の季節がやってくる。美湖の姫のお葬式で忙しくて、あまり冬を迎える準備ができていなかった。霧雨はまだ薄着のままだ。そんな霧雨は戸の開けっ放しの縁側にいる。だから、どうりでここはこんなにも寒いはずだと霧雨は思った。

 それでも霧雨は(このままこの場所にいたら風邪をひいてしまうかもしれないのに)縁側を離れて暖かい部屋の中に行こうとはしなかった。なんだかなにもする気になれなかった。歩くことも、おっくうだった。

 霧雨はめをつぶり、うとうととした。眠るつもりはなかったのだけど、きっと、とても疲れていたのだと思った。

 すると、少しして、くいくいと霧雨の着ている派手やかな黒の美しくて長い着物のはじっこを誰ががひっぱるのを暗闇の中で感じた。

 ふと目を開けた霧雨がそこに目をやると、そこには出会ったころの小さな童のころの美湖の姫がいて、にっこりと霧雨を見て笑っていた。

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