フラン様と王都まで内緒のお散歩っ☆
誤字直しました。ありがとうございました。
「ガァアアアアアアアアアーっ!!!!」
立ち上がったオーガキングが咆哮すると、
「こら、女の子相手にそんなおっきい声で威嚇するなんて大人げない!」
という言葉と共に、上からべしゃっとフラン様の腕に潰されて呆気なくダウンした。
「あら……気絶しちゃったかしら?」
ちょっぴり残念……という感じの声を出したのはアリシアさん。まだ構えを解かない様子からすると、理性の飛び掛けたオーガキングとまだまだバトる気満々だったようだ。ホント血の気多いシスターだぜ。
「もう、この子ったら、ごめんなさいね? ほら、黙ってないでアンタも謝りなさい」
と、オーガキングを押し潰していた手を上げ、ぺしぺしと叩いた。フラン様は軽く叩いているつもりかもしれないが……ドラゴンの軽く、だ。ベッキョ! とかゴッキン! グシャリ! という、ちょっと生物から聞こえちゃまずい気がする音が鳴っている。アリシアさんにやられた傷より、大分重傷なんじゃないかなー?
「やー、フラン様。黙ってないでって言うか、もう気絶しちゃってますよー?」
「あら、ヤだわ。もう、この子には後でちゃんとキツく言っておくし。起きたら謝らせに行かせるから。あんまり怒らないであげてちょうだいね?」
なんだか、子供同士の喧嘩で悪いことした方の子の保護者みたいなことを言うフラン様。
「あらあら、大丈夫ですよ、フラン様。ちょ~っと殺気を向けられた程度ですもの。ヤンチャな男の子ならよくあることだわ」
クスクス笑うアリシアさん。
いやいや、やんちゃ程度で済む男の子なら殺気をぶつけたりしないと思いまーす。
「そうだね。許してくれてありがとう」
やー、でっかいオーガの、それもキングの称号を持つ人外に本気の殺気を向けられて生きてるって、かなりハイレベルの冒険者でもない限り、滅多にないことだと思うなー?
つか、アリシアさんもフラン様も、オーガキングをヤンチャなお子様扱いですかー。オーガキングが聞いたら、どう思うんだろー? ブチ切れるか羞恥に悶えるか……ちょい見てみたいかも。
という感じで、死合というよりは試合な感じのド突き合いをして、割と和やかに暮らしていた。
そんなときに、忘れた頃っつーの? に、城からの使者とやらがやって来たワケだ。
このまま、フラン様の監視という名目でここで暮らせることに喜んでいる姫さんとおっさんを尻目に――――
ひそひそとアリシアさんが俺に聞いた。
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姫さんを長年虐げておいて? 王族が降嫁するには身分の低い商人……しかも、孫程も年の離れているジジイに嫁に出そうとして? それを嫌がった姫さんを止めもせず、碌な装備も供も付けずに火竜退治に出して? 火竜と和平を結べたからって、その功績としてどこぞの国の後宮に放り込む? これが、親のやることかよ? 十四……や、そろそろ十五か、の姫さんが嫁に出されんのに、姫さんを虐待していた姉姫や兄王子達は城でのうのうと暮らす?
そんなのあり得ねぇだろっ!! 百歩譲って、姉姫が既にどこぞに嫁いでいて姫さんにも政略結婚を求めるってんなら、まだ理解はする。全っ然、これっぽっちも一切納得はしねぇけどな!
でも、これは政略とかじゃないだろ。明確に、姫さんを虐げてもいい相手。見下して、下に見て、自分達の都合良く動かしていい相手だと、酷く馬鹿にしている。
フラン様と和平を結んだ功績だって言うなら、もっとマシなもん寄越せっての!
フラン様は、かなり面白くてお茶目で、火竜としては変わり者だとしても、ドラゴンだぞ? 姫さんは、ドラゴンと友誼を結べる程の英雄になったってことだぞ?
それを、こんなに粗末に扱っていいはずないだろっ!!
というワケで、王城から使者が来た日の夜。俺はフラン様をお誘いして夜空の散歩と決め込んだ。
やー、馬車でのろのろと数ヶ月掛けて辿り着いた火山から、王城までたったの数時間。ドラゴンの飛行能力ってすげーぜ。ちなみに俺は、寒さ対策と酸欠対策、重力対策とでめっちゃシールドを重ね掛けして張ってフラン様の背中に乗せてもらいました。一応、騒ぎになるとあれだからフラン様にも認識阻害。
フラン様は大袈裟だと笑っていたけど、俺をアリシアさんや姫さんみたいな、若干……いや、大分? 人間の枠からはみ出てる超人的な人と同類に扱わないでください。俺の身体能力は、ちょっと動ける一般人レベルよ?
そうしてやって来た、久々な王都……をサッと通り越し、王城に到着。フラン様が、おそらくここが国王の部屋だろうという場所付近の壁面を軽~くノック。グヮングワ~ン! って、塔がめっちゃ揺れてたわ。
「国王は居るか! 我は火竜なり!」
どうやらビンゴだったらしく、国王、近衛騎士共に死にそうな顔で恐る恐る窓を開ける。
「我が友に、なにぞさせたいことがあるそうだな? 我が友は我が身と渡り合える程の強者である。して、其方らは我が友に劣らぬ者を我が前に連れて来られるか? 其の方、我と戦えるか?」
なんて、いつもより随分と堅く重々しい口調で問い掛けた。要約すると、姫さんやアリシアさんみたいに自分とド突き合いができる人物を火山まで連れて来いって感じか?
「め、め、滅相もございません!」
国王につつかれてガクブルしながら拒否ったのは、近衛騎士の隊長っぽい人。
「では、我が毎日我が友の下へ出向くか?」
あ、これ俺が言ってたやつだわ。姫さん連れてくと、火竜も日課のド突き合いする為に追い掛けてくよー? ってやつ。
まあ、フラン様運動不足っつってたもんなー? オーガキングやリザードマン達は火竜であるフラン様を崇める民で、フラン様相手に武器を向けるなど畏れ多いって感じだったし。
その点、殺し合いじゃなかったら割となんでもありで、無駄に自分を恐れず、殺意を持たず、楽しげに相手をするアリシアさんや姫さんはとっても貴重な存在なのかもしれない。
国王達は真っ青な顔でぶるぶると震えながら、必死で丁重なお断りの言葉を紡いだ。
「火竜殿が、そんなに我が娘を気に入ってくださっているとは露も思わず……あのように不出来な娘で宜しければ」
「ほう、貴様。我が友を愚弄するか」
「い、いえ! 決してそのようなつもりは」
「では、我と我が友に自治権を与えよ。さすれば、我は用が無い限り王都へは足を踏み入れまい」
「か、火竜殿の仰る通りに!」
と、フラン様はあっという間に、国王から自分ン家の火山地帯の自治権と姫さんの身柄とをぶん取った。でもさ、これ『用事があったら王都に来るよ』っつってるよなー?
さっすが、長生きしてるドラゴンだけあるわー。滲み出てる狡猾さが素敵ー♪
フラン様が言質を取ったということで・・・それじゃあ、俺も少々イタズラでも仕掛けますか。
「♪~」
ま、さすがに自国の王族を直接傷付けるワケにはいかないから――――
姫さんの受けた苦痛を、夢という形で味合わせてやろうじゃないか。夢だから、実際に身体的な傷は残らない。ただ、眠ると姫さんを傷付けた連中は、夢の中で姫さんに負わせたその傷を、自分に負わされるだけ。嗤いながら他人を傷付けた自分に、苛まれてろ。
心身が耗弱しようが、摩耗しようが、擦り減ろうが、そんなの知ったっこっちゃねぇし。因果応報。他人を徒に傷付け、虐げた奴は、その報いを受けるべきだ。
というワケで、城内の特定の人間が悪夢を見るよう、小細工を仕掛けた。
悪夢を見る期間は、姫さんを虐げた分……姫さんを傷付けた分が、全て自分へ返るまで。
治癒魔術は、治すのに慣れた傷程、早く治せるようになる。
姫さんの打撲が、切り傷が、裂傷が、骨折が、火傷が、血を吐く程の怪我が、あっという間に治るってのは、そういうことだよなぁ?
補足の為おっさんにこっそり確認したが・・・
姫さんに殴る蹴る、熱湯を掛ける、火箸を押し付ける、骨を砕く、階段から突き落とす、二階以上の窓から突き落とす、毒を盛る、剣で切り付ける、攻撃魔術を放つなどなど……およそ、か弱い女の子にすることとは思えないような非道なことをした連中は、自分が被害者の立場になってみろ。
それに、だ。姫さんの髪の毛は元々、今みたいに真っ白じゃなくて、栗色だったそうだ。それが、成長するにつれ段々色が抜けて行ったらしい。
子供の頃と比べて髪色が変わることはままあることだが、肉体的苦痛、精神的苦痛、栄養不足で白髪が増えるってのは有名な話だよなぁ?
幾ら姫さんの傷が勝手に治るからって、人間として、やっていいことと悪いことがあるだろ。
誰かを傷付けるなら、それが自分に返って来ることを覚悟しろ。
外道共は夢の中で、自分に傷付けられ続ける地獄でも見てろ。発狂したところで知るか。その、自分が狂う程の苦痛を、か弱い年下の女の子に与えて続けて嗤ってたんだろうが? 自業自得だろ、クソ共が!
やー、俺ってばマジでオールラウンダーだわー。闇系統の精神魔術まで使えるなんてなー? とか、自画自賛しながら丹念に魔術を行使した。
「それ、かなり性質の悪い夢魔が悪夢を見せるときに使う魔術と似てるわね。一体どこでそんなの覚えたの?」
と、なぜかフラン様に軽く引かれた。
「俺、王都のスラム出身なんでー。夢魔にちょっかい出されて夢見てる奴見たことあってー。ちょいと参考にしてみましたー」
「……ヴァーグ君。それ、あんまり他の人間に見せちゃ駄目よ?」
「はーい♪」
なんかこう、人聞きが悪いというか、使えることが他人にバレるとちょ~っとヤバそうな魔術は、極力秘密にしてるけど。ここが使いどきだろ、と。大奮発しといたぜ★
んで、フラン様と王都まで内緒のお散歩っ☆を終了して、明け方に火山地帯まで帰って来たというワケだ。
そして、今日。城から姫さんを火竜の監視係に任命するって書状が届いた。
読んでくださり、ありがとうございました。
なにげに腹黒いヴァーグ君。(*`艸´)
『味合わせて~』に『味わわせて~』との誤字報告を頂きましたが、『味合わせる』の表記も間違いではありません。書いてる奴の好みで、この表記を使っています。(*´ー`*)