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【完結】勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。  作者: 八木愛里
第4部 妖精の森編

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96 異空間の出会い⑥ 〜時越えの聖女〜

 その日の魔術大会は、セドリック殿下の優勝で幕を閉じた。

 人々はまだ興奮冷めやらぬ様子で、セドリック殿下を囲んで賑やかに話していた。まもなく表彰式が始まる。

 

 しかし、会場の空気が急に冷たくなった。風が吹き抜け、空に暗雲が広がっていく。

 私は不吉な予感を感じ、ハッと空を見た。


 それは、突然の闇とともにやってきた。空が一瞬にして曇り、巨大な影が会場の中央に現れた。人々の笑い声は途端に悲鳴に変わり、周囲は混乱に包まれた。


「魔王だ!」誰かが叫んだ。


 魔王はその姿を現し、冷たく不気味な目で私たちを見下ろしていた。漆黒のローブをまとい、全身から圧倒的な魔力を放っていた。


 伝説の勇者パーティが七日間に渡る死闘の末に倒した魔王、アースファール。

 その名が私の頭に浮かんだ。


「なぜ魔王がここに……!」


 私は足がすくみ、動くことができなかった。


 ここには勇者パーティも前衛も剣士もいない。

 戦っても勝てる見込みは少ない。

 逃げるしか助かる方法はなかった。


「こ、こっちに来るな……!」


 ロウは私を庇うように前に出た。剣を構える手は細かく震えている。


「ロウ、危ない! 魔王には近づかないで!」


 私はそう言ったが、ロウは前を向いたまま魔王を睨みつけていた。


「魔王、僕が相手をする!」


「ロウ、ダメよ! 相手は強すぎるわ!」


 私は叫んだが、ロウの決意は固かった。彼は剣に魔力を込める。魔王の視線がロウに向けられると、その威圧感に私の身体が震えた。


「私を倒す? 小僧が面白いことを言うな。いいだろう、挑戦してみろ」


 魔王が手をかざすと、巨大な魔法陣が空に浮かび上がった。その規模は圧倒的で、私はそれだけで絶望感に押しつぶされそうになった。


「ダメよ、ロウ! この攻撃を受けたらあなたは……!」


 未来のロウのためにも、ここにいる少年ロウを死なすわけにはいかない。

 なのに、ロウは私の声を無視して、魔王に向かって走っていく。


「うぉぉぉぉっ!」


 ロウは剣を振り上げ、魔王の魔法陣に向かって飛び込んだ。


「ロウ! やめて!」


 私の叫びも空しく、魔法陣から放たれた魔力がロウを包み込んだ。その瞬間、私の防御魔法が発動する。


 ロウに向けられた魔法は、私の防御魔法によって吸収された。

 

 魔王は驚いたようで、初めて私を見た。


「どうして、ここに聖女が……」


 睨みつけられて、私は思わず後ずさる。

 でも、逃げるわけにはいかない。

 魔王に効果があるか分からないが、血液を冷やす氷魔法をひそかに展開した。

 

 せめて、動きさえ止められれば、逃げる時間を確保できるかもしれない……!


 と、魔王は動物的な勘でその気配を感じたのか、私の手元を見る。

 その鋭い視線だけで、ヒヤリとした。

 

「なるほど。……時越えの聖女か」


 時越えの聖女。

 私の正体がバレてるじゃない!

 どうする? すぐにでも、血液を冷やす氷魔法を発動してしまう?

 

 攻撃に転じるべく、指先に力を入れようとしたら、手が震えて思うように動かない。


 そうよ! ロウだったら。成人ロウがここにいたらどうする?

 彼がこの場にいたら、諦めずに剣を構えて、魔法攻撃するような気がするのだ。


 だったら、私も――。

 

「……興が削がれた。今回は見逃してやる」


 魔王はそう言って、魔法陣の中に消えていった。

 人々が歓声を上げる。私は肩の力を抜いて、大きく息を吐く。

 ロウが一目散に駆け寄ってきた。


「師匠! 大丈夫でしたか?」

「うん、なんとか……」


 ロウに返事をしながら、私の胸はバクバクと高鳴っていた。

 なんとかなったみたいね……。魔王の攻撃から身を守ることはできたけど、とんでもない恐怖だった。

 そんな不安を振り払うように、私は笑顔を作る。


「大丈夫、魔王は追っ払ったわ……」


 私は微笑んで答えたが、その瞬間、自分の体が薄く光っていることに気づいた。これはタイムスリップの終わりが近づいている兆候。この世界にいれる時間は残りわずかなのだ。


「ロウ、私は元の場所に戻らないといけないかもしれない……」


 私は静かに言うと、ロウは戸惑っていた。


「戻るって、どこに? それに、時越えの聖女って……?」


「私はここではない別の場所から来たの。帰ってくるように合図が出ているから、私、行かなくちゃ……」


 私は目を伏せながら説明した。十年後から来たとは、過去を変える可能性があるので言えない。

 ロウは驚き、そして寂しそうに顔を歪めた。

 その時、ロウがポケットから小さな布袋を取り出し、私に差し出した。


「師匠、これ……探していた水晶のカケラですよね? 俺が持っていたんです。戻る前に返さないといけないと思って」


 私は驚いて、彼から水晶のカケラを受け取った。それは、私がずっと探していたものだった。


「ロウ、ありがとう……でも、なんで隠していたの?」


 私は優しく尋ねた。


「返さないといけないのはわかっていたんです。でもこれを返すと……きっと僕の前から師匠がいなくなると思いました。だから、どうしても渡すことができなくて……」


 ロウは申し訳なさそうに答えた。私は彼の気持ちを理解し、微笑みを浮かべた。


「そう……だったの」

 

 私は布袋を握りしめた。この中に、最後のロウの心のカケラがある。


 成人ロウになれば、きっと私たちは再開する。けれど、この少年期のロウにしてみればずっと先のことだ。中途半端な期待をさせるのは申し訳なくて、「さようなら、ロウ」と言うだけに留めた。


 私の身体は光り始めていた。元の世界に戻される……!


 その瞬間、ロウが私の唇に自分の唇を近づけた。

 チュッと音がする。

 私は驚き、目を見開いた。


「なっ……! 私、あのとき、ちゃんと交際を断ったわよね!?」


 私は口をパクパクと動かして、彼に抗議した。

 だって、将来、ロウが本当に好きになる師匠が現れるはずだから。


「わかっています。でも、僕の気持ちは変わらない……師匠のことが大好きです!」


 ロウは真剣な表情で私を見つめる。その瞳には迷いがなく、一途だった。

 その純粋さに、私は何も言えなくなった。そして彼を見つめ返したまま微笑んだ。


「……ありがとう」


 私の言葉と同時に、後ろから強く引っ張られる感じがした。光に包まれながら、私は最後にロウを見た。

 彼は笑顔で手を振っていた。私も手を振り返す。


「いつかまた会いましょうね、ロウ」


 彼が「はい」と答えた声は、光とともに消えていった。

 ここまで読んでくださって有り難うございました!


「面白い! 応援しよう!」


「ロウの意識が戻るか気になる!」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >この中に、元の世界に戻るためのカケラが >カケラが光り輝き、時間移動の魔法が発動した いやその、ロウの心の破片では……? あれ? いつの間にやら別の物語になっていた???? という…
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