90 最後の一つのカケラを求めて
私とディディは転移魔法を使って、妖精の森へ戻った。
「ご主人さま、おかえりなさい!」
妖精リアが私の姿を見つけて、嬉しそうに飛んでくる。
「ただいま」
「心のカケラはどうでしたか?」
リアが私の反応を気にしながら聞いてきた。
でも、私の曇った顔を見て、言わずとも状況を感じ取ったようだ。
「ほとんど集められたよ。でも……最後の一つが足りないみたい」
「そうなんですか……じゃあ、どこに……?」
リアの沈んだ顔を見て、私は申し訳なくなる。
「これまでのことを妖精王に報告するわ。リアも一緒に来て」
「はい、わかりました!」
彼女たちと一緒に妖精の泉に移動すると、妖精王は意識の戻らないロウを見守っていた。
私はロウが眠る台座の前に立つ。
「妖精王」
私が呼びかけると、水面から妖精王が姿を現した。彼が長い髪をパサァッと手で揺らすと、それだけで水分が弾けた。
「ロザリー、どうだった?」
「はい、妖精王」
私は心のカケラを集めてきたこと、ほとんど集まったけれど、最後の一つが足りないことを伝えた。
「……そうか。心のカケラの最後の一つが足りないのか」
「あのっ、お父さま……」
ディディはおずおずと妖精王の前に歩み出ると、顔を上げた。
「もしかして、この世界にはもう心のカケラは存在しないのではありませんか?」
妖精王も、ディディの言いたいことがすぐにわかったようだ。
この世界にはない……?
「ロウの心のカケラは異空間にも散らばっている。そのため、異空間に行く必要があるだろう」
私は一瞬息を呑んだ。異空間なんて考えもしなかった。
「どうやって、その異空間に行けばいいの?」
私は妖精王に聞いた。
「ディディ、ロザリーを異空間へ案内して、彼女を助けるのだ」
「わかりました」
ディディは頷くと、妖精の魔法を唱え始めた。
彼女の姿が光に包まれ、次第に小さなウサギの姿に変わった。エメラルド色の瞳をした、もふもふの白ウサギだ。可愛い。
「これで準備完了よ。ついてきて」
ウサギに姿を変えたディディは跳ねながら私たちを導いた。私たちは彼女の後を追い、妖精の泉の奥へ進んだ。そこには森が広がっていて、景色に馴染むような緑色の異空間への扉があった。
「いい? この扉の向こうが異空間よ。向こうへ行く前に気をつけてほしいことがあるの」
ディディは扉に手をかけながら、私たちに振り返った。
「タイムリミットは一週間。それ以内に戻らないと、もうこの世界には戻って来られないかもしれないわ」
「それはどうして?」
私が聞き返すと、ディディは説明してくれた。
「空間の歪みを利用して異空間に行くの。その歪みは一週間しか保たない。歪みが消えてしまうと、異空間に取り残されてしまうわ」
「そんな……」
私は思わず言葉を失った。
「でも、私がついて行くから大丈夫よ」
ディディは根拠のない励ましをくれた。
そんな中、リアが私の手のひらに彼女の小さな手で触れた。
「ご主人さま、無事を祈っています!」
「リア、行ってくるわね。妖精王も、ロウのことをよろしくお願いします」
私は妖精王とリアに見送られて、異空間への扉をくぐるのだった。
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