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【完結】勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。  作者: 八木愛里
第4部 妖精の森編

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89 極北の修道院にて

 次に私とディディが目指したのは、極北の修道院だった。

 そこは勇者パーティのソニアが一時的に収容された場所で、私が足を踏み入れるのも、その出来事以来だ。

 今は鋭敏な修道院長によって、粛々(しゅくしゅく)と運営されていることだろう。


 修道院の入り口まで転移すると、ディディは身震いした。


「寒いわっ」


 雪がチラついて、吐く息は白い。


「ここは年中雪に閉ざされているからね。薄手のワンピースでは寒いわよ」


 私はロウの収納の魔道具からコートを取り出して、ディディの背中にかける。


「はい」

「ありがとう……」


 ディディはコートの袖に通すと、フードを目深に被る。

 私も収納魔道具から防寒着を取り出して、手早く着替えた。


 修道院の入り口で呼び鈴を鳴らすと、しばらくして扉が開き、若い修道女が現れる。

 彼女を見た瞬間、私は懐かしさのあまり涙が出そうになった。


「ロザリーさま、お久しぶりでございます」

「ライザ! お久しぶりね!」


 深々と頭を下げたのは、修道女見習いのライザだった。今はもう、見習いではなく修道女に昇格されているようで、正式な修道服を着用していた。


「ロザリーさまもお元気そうで」

「ありがとう。修道院長に会いたいんだけど、約束していなくても会えるかしら?」

「もちろんです。ご案内いたします」


 ライザは私たちを先導して、修道院の中に入る。

 廊下を歩きながら、私はライザに尋ねた。


「ライザは神官庁には行かず、ここに残ったのね」

「はい。修道院長の教えを学んでから、神官庁へ修行に出ても遅くない……と思いまして」


「それは良い判断だわ。必ず得るものがあるはずよ」

「はいっ」


 尊敬する師を崇めるように、キラキラとした瞳で見つめられた。

 そんなライザに案内されて、院長室の執務室へ通される。

 

「ロザリーさま、お久しぶりです」

 

 執務室で出迎えたのは、以前と変わらず、眼鏡をきりりとかけ、髪を後ろに引っ詰めた修道院長だった。


「ミランダさま! お元気でしたか?」


 私は彼女に歩み寄った。


「おかげさまで、元気にしております」


 修道院長は目を細めると、私とディディを応接テーブルへ招いた。


「ロザリーさまがやってくるのを待っていました」


 彼女は私たちが来るのを知っていたようだ。

 そして、修道院長はディディのフードの奥をじっと凝視した。


「あなたは……」


 ディディが戸惑いの顔を見せたので、私が代わりに応じる。

 強気な彼女らしくないが、修道院長に緊張しているのだろうか。


「彼女は訳あって顔をお見せできませんが、私の大切な友人です」


「……そうですか。わかりました。では、本題に入りましょう」


 修道院長は居住まいを正すと、私たちに向き合った。


「あなたたちが探しているのはこちらですね?」


 修道院長が合図をすると、修道女の一人がハンカチに包まれたものをテーブルに載せて差し出した。

 そして、慎重に包みが解かれ、中身が露わになった。


「これです!」


 私の声が弾む。探していたロウの心のカケラがそこにあった。

 突然、心のカケラが光を放ち、お約束とばかりに映像が写し出される。


『だって、ロウが嫉妬してくれたってことでしょう? 私だって、ロウの過去の女の話が出てきたら嫌な気分になるわ。彼と同じ気持ちだって分かったから、それ以上に嬉しいことはありません!』


 私の映像の声がやけに反響する。

 これって、もしかして、あの時の……。そう、地下牢に囚われたロウを助けに行った場面!

 それに……魔王ネアちゃんの売り言葉に買い言葉で勢いづいて、ロウに公開告白してしまったシーンじゃないの!


 この場は静まり返った。


「あ、あの……」


 ライザが不安げに私を見つめてくる。


 お、おおう。まさかこの場であのシーンを振り返ることになるとは……!

 まさしく、公開処刑! ……沈黙が痛い。

 私がいたたまれなさに緊張していると、無情にも映像の続きが流れた。


『おのれ、ネアちゃんめ……。俺がせっかく告白のシチュエーションを用意していたものを全部ぶち壊しやがって……』


 ロウが悔しげな顔をしたところで映像は終わった。


「……私がロウさまを助けに行っていれば、私にもチャンスがあったってことかしら」


 ディディはぽつりと呟いた。


「ディディ……」


 私は思わず、ディディのフードの中を覗き込んだ。彼女は泣くのを我慢しているようだった。


「嫉妬、してるわよ。私はずっとロウさまのことが好きだったんだから」


 ディディはコートの袖で、ごしごしと涙を拭う。


「でも、ロザリーがロウさまの事を大切に思ってるんだって分かって良かったわ。私はまだまだね」


「私は……」


「私の方がちょっと……いや、だいぶ前に出会っているのよ? だからすぐに追い抜くわよ」


 そう言って笑うディディの笑顔には、どこか寂しさがあった。


「でも、ロウさまの事だから、今までもたくさんの女性とお付き合いした経験があると思うの。あなたは大丈夫なの?」

 

「う……」


 私は思わず言葉に詰まった。


「……ないとは言えないわね」


「ほらね」とディディは肩をすくめたが、すぐに表情を改めた。


「でも、ロウさまはあなたを選んだのよ? そんなあなたなら、私は安心して応援できるわ」


 あっけらかんとした口調に、私は少し救われた気がした。


「……ありがとう」

 

「でも、まだ諦めていないからね?」


 ディディは悪戯っぽく笑った。


「望むところよ」


 私は力強く頷く返事をしたのだった。

 

 私たちは心のカケラを受け取ると、持っていたカケラと合わせた。ピタッと合わさり、一つの塊になるが、まだ窪みがあった。


「心のカケラはこれでほとんど集まったけれど、まだ足りないわね」


 ディディがそう言って、私も頷く。

 ライザが修道院の入り口まで見送ってくれたので、別れを告げた。


「これからどうする?」とディディが聞いてくる。

 心当たりのある場所は探したから、闇雲に探すよりは、冷静になるべきだ。


「そうね……」と言いながら、私は既に考えていたことを話した。


「一度、妖精王のところへ戻りましょうか」

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― 新着の感想 ―
[一言] これは……ロウの師匠の所にも行かんといかんかもしれないなぁ。 というか、これは下手をするとロウの一生を辿る旅になりそうな気がします。
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