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【完結】勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。  作者: 八木愛里
第三部 竜の棲む村編

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81 竜の村とお別れ

 そして、竜の村を出発する当日。

 村の入り口まで、村長とその息子のウリュ、そしてティエリ、さらには後ろから着いてきた村人たちが見送りに来てくれた。


 隣を歩くティエリにそれとなく聞いたのは、隣町で蛮族の村と呼ばれていたことだった。

 実際にこの村に来てみたら、英雄さまと歓迎されたことはもちろん、とても蛮族の村だとは思えなかったからだ。誤解があるまま帰りたくなかった。


 竜の血が入っていて異様な見た目というのは、美男美女が多いことを揶揄やゆしているだけだし、村の湖に棲む竜神が花嫁をさらっていくことはない。竜神さまに暴走されて誘拐されたけれど……。年ごろの村娘が外から来た旅人を誘惑する噂は、むしろ旅人が村の美女に惚れてしまうのではないか、と。


「蛮族の村……そう呼ばれていたんですね」


 違っていたのなら、声を大にして怒ってもいいことだと思うけれど、ティエリは話をしっかりと受け止めてくれた。

 前を歩く村長やウリュは話に割って入ろうとせず、説明はティエリに任せてくれようとしている。

 

「私たちが旅人を襲うことはありません。この村の結婚事情は、周囲の村の人とお見合いをして結婚することが多いんです。この村の男性に嫉妬するからそんな噂が立ったのかもしれません」


 それまでは言葉の少なかったティエリだったけれど、このときばかりはキッパリと噂話を否定した。


「嫉妬から生まれた噂話だったのね。事実がちゃんとわかって良かったわ」

 

「英雄さまにわかっていただけて安心しました」


 ティエリと目が合って、ニコリと笑ってくれた。

 美人だから、笑うとさらに美しい。

 私が男だったら惚れてしまうくらい可愛かった。

 

「あの……ご主人さま、あれっ!」

 

 慌てた様子のリアが指を差す。空の方向だ。

 遠くに見えるのは、二羽の鳥?

 ……高度を下げて、こっちに近づいてくる。

 ロウも顔を上げて、ハッと目を見開いた。


「あれは――」

 

「鳥じゃないわ! 竜よ!」

 

 竜といえば……。思い浮かんだのは湖にむ竜神さまだ。白銀の髪をした美丈夫。

 なぜ、竜がそこにいるの?

 私の上げた声に反応して、村長たちも空を見上げる。

 

「りゅ、竜神さまだぁ!!!」

「うわぁ……初めて見た……!」


 二体の竜は連なって、私たちのいるところを目がけて、翼を広げて下りてきた。

 四足で着地すると、反動で砂埃舞う。

 白銀の竜と、黒い竜だ。

 全長は四メートルくらいあって、今は折り畳まれた翼もそれと同じくらい長さがあった。


 村長やウリュ、ティエリは竜の存在に圧倒されて、動けないでいるようだ。


 竜たちは竜魔法で姿を変えて、人間の姿になった。

 それでも二メートルくらいはあるので、見上げる形になるんだけど……。


 湖で会った竜神さまと、その隣にいる竜神さまは誰なんだろう。黒い長髪を背中に流していて、整った顔立ちに切れ長な目だ。こちらも美形で間違いない。


「ロザリーの姿が見えたから、立ち寄らせてもらいました。兄神に連れられて、出かける途中だったんです」


 みんなが注目するなか、口を開いたのは竜神さま。

 兄神さま。言われてみれば髪の色は違うけれど顔立ちは似ている。

 

「竜神さまに失礼がないように頭を下げるんだ!」

 

 村長の声に、村人たちは腰を屈めて頭を下げた。


「貴方がロザリーか。そして、まばゆい力を感じるのがロウだな」


 兄竜さまは私とロウを交互に見た。ロウの魔力の強さがわかるみたい。

 そして、兄竜さまは頭を軽く下げた。それでも気位の高い竜が頭を下げるのはよほどのことだ。


「弟竜が、ロザリーに迷惑をかけたことをお詫びする。人間に危害を加えたことを重く受け止め、弟竜は降格処分になった。そしてしばらくの間、湖の竜の宮は私が担当することになった」

 

「わかりました。弟竜さまの暴走が二度と起こらないように、しっかりと教育お願いします」


 願うのは、竜神さまの力の安定だ。心を乱されて暴走するなんてことがないように。


「弟竜には竜の里で修行し直させるので、安心してください」


 兄神さまは私の目を見て言った。

 その彼の隣にいる竜神さまが口を開く。

 

「みっともない姿を見せました。人間は結婚式までチャンスがあると聞きます。それまでに立派な竜神となって戻ってきます」

 

「……まだ諦めてなかったのか」

 

 ロウは呆れ返った。軽く睨みながら続けて言う。


「往生際が悪い男は嫌われるぞ。弟にしか見えないって、ロザリーから言われただろう?」

 

 この話を聞いていられなかったのか、兄神さまが「いい加減にしろ」と竜神さまを叱った。

 それだけで竜神さまはしゅんと肩を落として黙った。兄神さまには頭が上がらないようだ。

 

「よく言い聞かせておく。精神の未熟さはすぐに鍛えられるわけではないが、弟は頑張ると言っているので、見守っていてほしい。では、足を止めさせて悪かった」


 兄神さまがそう言うと、竜の姿に変えて、二体の竜は空高く消えていく。

 ロウは空の明るさに目を細めて言った。


「まったく。最後まで人騒がせな竜神さまだったな」

「そうね……」


 ロウの意見に同意だ。結婚式に乗り込んでくる……なんてことがあったら、とんでもないもの!

 

 その後、村の入り口で最後のお別れの挨拶をして、私とロウは並んで歩き始めた。

 

 転移の魔道具を使えばすぐに移動はできるけれど、まだ行き先は決まっていなかった。

 歩きながら決めようと、霧を抜けて、運動がてらに緩やかな山道を登る。

 

「初っ端から、ハードな旅になってしまったわね」

 

「そうだな。今度は面倒ごとに巻き込まれないといいな。いや、俺が巻き込ませない」

 

「ありがとう。今回は竜に会いたいって私の希望を叶えてもらったから、次はロウの行きたいところにしようよ」

 

「俺は勇者パーティ時代にも各地を回ったから、次もロザリーの行きたいところにしよう。まだ、行きたいところがあるんだろう?」

 

 そう言われて思い浮かんだのは、リアから聞いた、ロウの妖精王の娘を救ったというエピソードだった。


「ロウのルーツを巡る旅はどうかしら。リアから妖精王の娘を救ったって話を聞いたことがあるのよ。他にもロウの勇姿がたくさんあると思うの。それを私に教えてほしい」


 題して、推しのロウの聖地巡礼。

 うん、これは想像するだけでもきっと楽しいわ。

 

「そうか……それじゃあ、妖精王に挨拶に行くか」


 ロウは観光にでも行くかのようにさらりと言った。


「うわぁ。妖精王に会いに行くんですね! お花の綺麗な場所なので、ぜひご主人さまに見てもらいたいです」


 リアは瞳を輝かして、もう乗り気だ。

 私はやる気に満ちて、顔を上げた。


「妖精王のいるところを目指して行きましょう」

「よし、決まりだ」


 私の言葉を聞いたロウは、もう転移の魔道具を手に用意している。

 さすが有能ヒーロー。仕事が早いことで。

 私はふふっと口を綻ばせた。



 (第三部 完)

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― 新着の感想 ―
[一言] け、結婚式に乱入されちゃわないようにせんとなホント(;'∀') そして次は妖精王の所に……次はどんな冒険が(´∀`*)
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