68 たどり着いた先は
私の顔を覗き込んでいたのは、ドジョウだった。
ドジョウがしゃべった⁉︎
そこにいるのが人間だと思いたかった。
けれど、黒い艶々とした目と目が離れていて、ガウンの袖口から見える手のようなヒレは魚類特有の光沢感があった。
さらに違和感が。私の背丈よりも頭一つ高くて、ドジョウにしては大き過ぎる。
湖の水が襲いかかってきて、私はそこで意識が無くなった。
……ということは、ここは湖の中⁉︎
海藻の敷き詰められたベッドで寝かせられていた。背中は柔らかく、少しひんやりとして気持ちいい。
「お嬢さま、お具合は大丈夫でしょうか?」
再度そう尋ねられて、体を起こして返事をしようとすると、コポコポと口から水泡が出てきた。
目の前に広がっているのは水で満たされた部屋。ということは……。
い、息ができない……!
「落ち着いてください。ここは水の中ですが、そのまま息ができるはずです」
私が慌てたのを見て、ドジョウが優しく声をかけてくれる。
言われた通りに呼吸をすると、空気は薄い感じがするけれど少し気分が落ち着いてきた。
「た、助かったわ……」
「良かったです。お嬢さまが着ていた衣装は、ここでは水を含んで動きづらくなってしまうため、私が着替えをさせていただきました」
そう言われて初めて、私の着せられた服がドジョウの服と似ていることに気づく。
ガウンは胸の下で紐結びされ、さらに上に別のガウンを羽織っていた。
さっきまで着ていたスイリュ村の民族衣装は、丁寧に折りたたまれて、ベッドの脇に置いてあった。
「あなたが私のお世話をしてくれたのね。ありがとう」
「いいえ。大事なお客さまと伺っておりまして、当然のことをしたまででございます」
大事なお客さま――どうやら歓迎されているようね。
そういえば……と、手で頭を押さえる。
あった。体の一部となっていた黒いカチューシャがそこにあってホッとした。
濁流に飲み込まれても、このカチューシャだけは取れなくて良かったわ。
安心した私は、丁寧に応対してくれるドジョウに尋ねる。
「そのお客さまは私だけ? 他に一緒に来た人はいなかったかな?」
もしかしたら、ロウもこの場所に来ているかもしれない。
しかし、その期待は外れた。
「この場所に招かれたのは、お嬢さまだけだと聞いています。他の人間さまはお越しになっていません」
「そうですか……」
残念だ。妖精リアの気配もないから、本当に私一人だけがここにやってきたんだわ。
話すたびに揺れるドジョウのヒゲを見ながら思う。
私はどなたの大事なお客さまなのかしら?
ここが竜の棲む湖だとしたら、本当に……?
「竜神さまを呼んで参りますので、少々お待ちください」
「はい……」
ドジョウはするりと、この部屋の海藻ののれんをくぐり出て行った。
やっぱり、この湖の主である竜神さまだった!
憧れの竜神さまに会えてしまうの?
だけど、湖の外でロウが心配しているかもしれない。
早く地上へ戻りたいと思う心と、竜神さまに会ってみたい好奇心がせめぎあった。




