表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

7)二度目の視察

 ペドロが鉱山に来てから、二度目の視察だ。

「イラーナの消息を教えてください」

ペドロはアキレスに頭を下げた。これを逃したら、きっと二度目はない。必死だった。


「知ってどうする」

「それは」

考えていなかった。

「どうするつもりだ」

ペドロはただ、巻きこんでしまった女性が、愛した女性がどうしているか、知りたかっただけだ。

「考えてはいません」

アキレスからの返事がない。


「どういうつもりだ」

二度目のアキレスの問いかけに、ペドロは取り繕うことをやめた。

「知りたいのです。それだけです」

「知ってどうする」

すかさず返ってきた言葉に、ペドロは唇を噛んだ。

「何もできませんから」

ペドロには何もできない。今はただの罪人だ。大地母神様の御許に還るまで、鉱夫として生きることが定められているだけだ。


「何もできないのに、何故知りたい」

詰問に近い内容だが、不思議と穏やかな口調にペドロは顔を上げた。不思議そうにペドロを見ているアキレスが居た。

「知りたいだけです。巻き込んでしまいましたから」

アキレスが肩を竦めた。

「どうせ、派閥の尖兵として送り込まれただけだろうに。お前に取り入るために」

「そんなはずはない!」

せせら笑ったアキレスにペドロは叫んだ。瞬時に護衛に羽交い締めにされる。

「いい」

アキレスの言葉で、拘束が解かれた。ペドロは鉱山で働くことで、頑強になったと考えていたが、護衛相手では全く刃が立たなかった。


「あの当時、罪人の子供たちには選択肢が与えられた。処刑されるか、あるいは生きて償うかだ。各自がどれを選んだかは、辺境伯家の私は把握していない」

「ならば何故、あの時」

イラーナの消息など知りもしないのに、尋ねないペドロに捨て台詞を吐いたのだ。

「前の視察か。お前が知ろうとしないことを不思議に思っただけだ。国王陛下も王弟殿下も、常に愛する方のことを、家族のことを考えておられる。己が苦境の最中にあってもだ」

所詮、お前は異母兄二人とは出来が違うと蔑まれた気がした。


「知りたいのであれば、手配しよう」

ペドロを嘲っていたはずのアキレスの声には、何の感情もなかった。

「何故」

教えようとしてくれるのだ。

「知りたいのだろう」

アキレスはただ、聞かれたから答えているだけのように見えた。

「馬鹿にしていたのではないのですか」

「何故」

即座に聞き返してきたアキレスに、ペドロは俺をとは言えなかった。


「他人を馬鹿にして、なにを得るものがある。何のために人を嘲るのだ。そんなくだらないことをして何になる」

無意味だと断言するアキレスに、ペドロは王宮での日々を思い出した。あの頃、王宮にいた人々の話題は、互いの悪口ばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ