7)二度目の視察
ペドロが鉱山に来てから、二度目の視察だ。
「イラーナの消息を教えてください」
ペドロはアキレスに頭を下げた。これを逃したら、きっと二度目はない。必死だった。
「知ってどうする」
「それは」
考えていなかった。
「どうするつもりだ」
ペドロはただ、巻きこんでしまった女性が、愛した女性がどうしているか、知りたかっただけだ。
「考えてはいません」
アキレスからの返事がない。
「どういうつもりだ」
二度目のアキレスの問いかけに、ペドロは取り繕うことをやめた。
「知りたいのです。それだけです」
「知ってどうする」
すかさず返ってきた言葉に、ペドロは唇を噛んだ。
「何もできませんから」
ペドロには何もできない。今はただの罪人だ。大地母神様の御許に還るまで、鉱夫として生きることが定められているだけだ。
「何もできないのに、何故知りたい」
詰問に近い内容だが、不思議と穏やかな口調にペドロは顔を上げた。不思議そうにペドロを見ているアキレスが居た。
「知りたいだけです。巻き込んでしまいましたから」
アキレスが肩を竦めた。
「どうせ、派閥の尖兵として送り込まれただけだろうに。お前に取り入るために」
「そんなはずはない!」
せせら笑ったアキレスにペドロは叫んだ。瞬時に護衛に羽交い締めにされる。
「いい」
アキレスの言葉で、拘束が解かれた。ペドロは鉱山で働くことで、頑強になったと考えていたが、護衛相手では全く刃が立たなかった。
「あの当時、罪人の子供たちには選択肢が与えられた。処刑されるか、あるいは生きて償うかだ。各自がどれを選んだかは、辺境伯家の私は把握していない」
「ならば何故、あの時」
イラーナの消息など知りもしないのに、尋ねないペドロに捨て台詞を吐いたのだ。
「前の視察か。お前が知ろうとしないことを不思議に思っただけだ。国王陛下も王弟殿下も、常に愛する方のことを、家族のことを考えておられる。己が苦境の最中にあってもだ」
所詮、お前は異母兄二人とは出来が違うと蔑まれた気がした。
「知りたいのであれば、手配しよう」
ペドロを嘲っていたはずのアキレスの声には、何の感情もなかった。
「何故」
教えようとしてくれるのだ。
「知りたいのだろう」
アキレスはただ、聞かれたから答えているだけのように見えた。
「馬鹿にしていたのではないのですか」
「何故」
即座に聞き返してきたアキレスに、ペドロは俺をとは言えなかった。
「他人を馬鹿にして、なにを得るものがある。何のために人を嘲るのだ。そんなくだらないことをして何になる」
無意味だと断言するアキレスに、ペドロは王宮での日々を思い出した。あの頃、王宮にいた人々の話題は、互いの悪口ばかりだった。