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3)想い

 処刑は見世物だ。広間に集まった大勢の民の眼前で、周囲からよく見えるように高く用意された処刑台で、罪人が処刑される。国王に楯突いたものの最後を晒し、王の権威を示し、王の威光の前に、民をひれ伏させるためのものだとペドロは考えていた。


 新国王シルベストレ陛下、異母兄は違った。ただの罪人に一切の価値を与えなかったらしい。ペドロは、父と母がいつどのように処刑されたのかすら知らない。知りたいとすら思わない自分が虚しかった。


 薄暗い牢獄で、ペドロは自分が処刑される日を待っていた。無意味な日々が過ぎるなか、牢獄から少しずつ人が減っていった。次は自分の番だという恐怖に、次々と己を失っていく者たちの叫び声が常に聞こえた。ペドロは己を失う恐怖と迫ってくる死刑の日に恐怖した。


 恐怖に心が麻痺したペドロの前に、純白の神官の衣を脱ぎ捨て俗世に戻ってきた男が現れた。

「死ぬことなど許すか。死んだらしまいや。死んだぐらいで誰が許すか。生きて償え。お前の母親は、儂の妹の命を奪い甥たちを殺そうとした。お前の母親は人殺しや。甥たちは、お前の強欲な母親のせいで、危うく死にかけた。甥たちが助かったのは偶然や。お前の母親は人殺し以外の何者でもないわ。のうのうと生きとったお前だけが死んでしまいやなんて、誰が許すか。阿呆なこというな。生きて償え。生きて苦しめ」

白い息とともに吐き出された、地の底から唸るような呪詛が今も耳の奥に沈んでいる。


 白いものが目立つ髪の毛は、かつては夜の闇のように暗かったときく。群青の瞳は底なしの湖のように冷たく、ペドロを見ていた。大地母神に仕える神官は、世俗から離れて生きる。世俗との僅かなつながりである妹を殺された男の恨みが、ペドロの胸の内を冷たく焼いて枯らしていった。


 還俗し、うつに戻ってきた男は、こちらを見据え、断罪の言葉をためらいなく口にした。殺意そのものだった。


 あれほどまでに、誰かに惜しまれることが羨ましかった。

 あれほどまでに、惜しむ誰かがいることが羨ましかった。



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