ジュークボックスは『煙草の煙』を奏でる <期間限定公開>
AIイラストがきれいだったので今回UPいたしました。
外は激しい雨になった。
“散々な過去バナ”を終えた私はタバコが吸いたくなった。 しかし指で探る箱の中身は空だ。
「やろうか?」
との社長の声に私は灰皿の吸い殻に目をやる。
「…いらない。 すぐ消してしまっている」
「“ジャック”は?」
「もらう」
私にウィスキーを注いだ社長は咥えたタバコに火を点け、煙を吐いた。
「お前、よく生きてこられたな… しぶといオンナの見本みたいなヤツだ」
「なんだよ、それ…」
社長は指にタバコをはさんだままグラスに口を付ける。
「愛……してたのか?」
「あかりはね…… 英さんは……分からないなあ 今となっては夢の中の話のよう……」
とグラスを呷る。
「そうか……俺にとっちゃ、二人とも羨ましいよ。お前にここまで愛されるなんてな」
「言ってる意味、分かんねぇ」
社長はグラスを置いた。
タバコの先から線香花火のように灰が落ちる。
「結婚しねえか? 俺と」
私は思わずため息をもらす。
「社長!その冗談は…… 今はキツい」
「真面目だよ。
お前が休む前から!……いや!前のとの離婚が成立した時から
……考えていたんだ!! パートナーとして、おまえほど頼りになるやつはいないってな」
「過分な誉め言葉ありがとね」
「茶化すなよ。 俺と組んでくれ!! 俺なら何の躊躇いもなくお前を守れる! お前は自由にしていていい。そう、一緒に暮らさなくてもいい。SEXだってしなくていい!!」
私はグラスを置いて立ち上がった。
頭の中で体調カレンダーをチェックする。
居住スペースを見に行く。
……見なかった事にした。
代わりに、しまって置いたバスタオルを束で持ってきてソファーに敷き並べ、髪をほどいた。
「SEXはするよ」
「“あかり”か……」
「そ、産まれるまで何回でもする。そして全員、私が育てる」
「それじゃあ俺は種馬じゃねえか」
「オトコとしちゃ本望でしょ?」
「本当に、お前は、それでいいのか」
私の手が止まった。
「分からない! そんなの分からないよ!!」
「なら、俺が決めてやろう」
社長はかごの中から5セント硬貨を1枚取り出して私に示した。
「ジュークボックスのインデックスに4つ白紙があるだろ? その内の1曲だけが邦楽なんだ。もしお前がそれを引き当てたら……俺の言う事を聞け!」
「洋楽だったら?」
「お前の勝ちだ! 好きに悩め」
私は黙ってコインを受け取り、ジュークボックスを動かした。
アームがレコードを抜き取り、セットして…針が置かれる。
その時、雨音を押しのけるように激しくドアを叩く音がした。
ひょっとして!!? 英さんなの?? でもまさか!!……
しかしジュークボックスは、そんな事はお構いなしに……ギターとピアノの乾いたイントロを奏で、歌い出した。
「俺の勝ちだな」
頷いた私は……
この後の顛末を思い浮かべる。
そう、私は私らしく裸がいい!!
下のドアを開けて社長が英さんを中に入れた時……
私は素肌を露わにして……“行為”を邪魔され、イラッとしたメスの目で彼を睨む。
それは彼から完膚なきまでに「売女」と罵られる為に!!
こうするのが、間違いなく彼の為になる事!!
不浄な私を永遠に断ち切る事が出来るのだから……
いいえ違う!!
本当は私が彼から逃げる為!!
私が断ち切りがたいこの想いから解放される為!!
ドアを叩き続ける音とジュークボックスが歌い続ける中
私はシャツのボタンに手を掛ける。
そう!これでいいんだ!
……
…………
えっ?!
涙が筋となって、流れていく
何で…
私は泣いてるの?……
「馬鹿野郎!!」
突然、社長が私を怒鳴りつけた。
「さっさと鍵を開けて来い!!」
社長の言葉に弾かれて
私は涙を振り飛ばしながら階段を駆け下りた。
このお話の続きはこちらです。
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