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5.ミハエラ・ナスル、朝の決意

 

「どうしたものか」


 翌朝になってもだれも来ない。

 侍女も侍従もメイドもコックもいない。

 ミハエラはこのあとどうしようかと思い悩んだ。


 いま一番困っているのは着替えができないことである。王宮の有能な侍女たちが丹精込めて着付けをしてくれたそれは、背後を細かな紐で編みこんだ繊細なドレスなのだ。生地そのものも手の込んだレースで覆われているし、ひとりでは着るのも脱ぐのも不可能なドレス。こんなものが本当に王都では流行りなのかとこめかみを押さえる。


(いまさらだけど、付与しておきますか)


 自分が着ているドレスへ向け、汚れ防止、形状記憶と回復などの付与魔法を施した。これで汚れても破損してもだいじょうぶだ。


(借り物のドレスなんて、早く脱ぎたい……とほほだわ)


 内心、情けなく思いながら部屋の窓を開けて外を見る。いい天気である。


 この別邸は鬱蒼とした森の中に居を構えている風情(ふぜい)なので、彼女の故郷のナスル地方を思い出しちょっとだけホッとひと息つけた。大地の精霊(ノーム)の加護を得ているミハエラにはありがたい立地である。


(さて。どうしたものか)


 現状を鑑みるに、使用人がこの別邸に来る可能性は著しく低下したとミハエラは判断した。

 昨夜の公爵本人の態度しかり。

 勢揃いした使用人たちの前で『白い結婚だ』と宣言したし、執事らしき人に『(ミハエラを)自分に近づけるな』と命じていた。つまり、『次期公爵夫人』として招いた人間を冷遇する宣言をしたのだ。


(びっくりよ。公爵はわたしを“王命での”結婚相手だと認識したうえで家臣の前であの発言だもんね)


 王命で来た使者に対してもあのようなぞんざいな扱いをするのだろうか。

 あの態度はいかがなものかとミハエラは首を傾げる。

 しかも、従者のひとりもいない妙齢の少女に対して、なんのお世話もせず放置。

 これは、まずくないか? バカにされていないか? などとミハエラが思いあぐねていると、彼女の腹の虫が鳴った。


「一日の活力は朝食にあり、だよね」


 ミハエラはそう言うと自分自身に“洗浄(クリーン)”をかけた。湯を浴びたと同じ状態になったミハエラのお肌はつやつや。うつくしい金髪もふんわりと風に靡いた。

 つぎに()()()()()()()に手を突っ込んで、リンゴをひとつ取り出し齧る。絶好の収穫時期に収納していたリンゴは鮮度を保ったまま、ミハエラの胃袋に納まった。

 もう一度、なにもない空間に手をつっこんで、革袋に入った水を取り出す。

 亜空間収納の中にあれば時間経過しないので腐ることもない。実にありがたい。


「えーと? 串焼き鳥なかった?」


 覗き込んだそこからお目当ての串焼きを取り出し、むしゃむしゃと食べた。


「あー。コルセット取りたい!」


 これからさき、自分がどうしたいかどうすべきなのか。

 目先の利益ではなく、最終的な勝利のためになにをすべきか。


 ありとあらゆる思考のさきに出した結論は『現状維持すべし』となった。

 この格好のままのでいるほうが、今後の話し合いで有利にことが運びそうだ。


「よし。とっとと目的達成して帰ろう!」


 ミハエラ・ナスルはあまり気の長い女ではない。『善は急げ』ということわざが信条である。

 けれど、“戦場の戦乙女”の名にかけて完全勝利して帰還しようと決めた。そのためならば『急がば回れ』を実践するのもやぶさかではないのである。


 彼女は三日の『猶予時間』を己に課した。

 結果は――。




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