【彼らの事情】モラトリアムは終わりを告げた。
【登場人物】
《アイリス》
・主人公
・乙女ゲームのサポートキャラに転生した。
《リエラ》
・乙女ゲームのヒロイン
・フェドートとゴールインした。
《フェドート》
・乙女ゲームの攻略対象の豪商の次男
・リエラとゴールインした。
《ルーカス》
・乙女ゲームの攻略対象の王太子
・リエラが友情度しか上げてなかったので親友だと認識している。
《カリナ・スタードール》
・リエラとゴールインしなかったルーカスの婚約者に選ばれた乙女ゲームに登場してない侯爵家令嬢
・ルーカスとお互いに尊重し合える関係を築きたくて、アイリスに相談したが…。
《ネイト・マーヴェン》
・乙女ゲームのもう1人の攻略キャラ
・所謂、ツンデレ年下枠の次期神官長
(ネイトは、アイリスを送ってもうそろそろ家に帰った頃かな?)
ーーピカッ、ピカッ、ピカッ、ピカッ!!
そうルーカスがあたりをつけていれば、案の定、通信用水晶が激しく光って存在感を主張する。
「マーヴェン上級神官です」
「だよね。出て」
通信用水晶は、遠距離でも会話が出来て便利だが、そこそこ大きくて嵩張るし、小型化しても強い衝撃で簡単に割れるので携帯には向かないし、何よりも、神力がない人間には使えないという難点があるが、王宮には、神殿から借り受けた通信用の人材も居るので、王族ならば神力がなくてもこうして使えるのは、有難いとしみじみルーカスは感じる。
(まっ、これから怒られる身としては、困った面でもあるけどね)
「ルーカス!!!!!」
案の定、怒鳴り声がルーカスの部屋に響く。
(あの愛着心の少ない自然と奇跡の聖覡に、ここまで愛されるんだから、彼女も罪な女性だよね)
本人が気付いてない所も含めて。と思いつつ、ルーカスは、なるべく優しい声を出す。
「ごめん、ごめん。質の悪い冗談だったよ」
「質の悪い冗談?
いい加減にしてよ!!!
僕の気持ち知ってるくせに!!よくそんな意地の悪いことが出来るよね!」
ルーカスの宥めるような声に、より怒りを逆撫でされた!!とばかりに怒り狂うネイト。
だが、ルーカスだって理由があるのだから、引く気はない。
「うん、僕らは知ってるし、君からアイリスを奪うつもりもない。
アイリスは素敵な女性だと思うけど、僕らにとっては大切な友人で、異性として意識してないからね。
でもね、アイリスは結婚適齢期の女性になったんだよ。
アイリスは、結婚しようとパーティーに積極的に出てる。
君はまだ16歳だけど、僕達はもう子供では居られないんだ…。
いい加減、本気になって動き出さないと、
どこぞの馬の骨に横からかっ攫われるよ」
「っ〜〜!!!分かってる!!!!」
ブチッと一方的に切れた通信にルーカスは、苦笑する。
「う〜ん…、意地悪が過ぎたかな?」
「…いいえ。二の足を踏んでいて、後々悔やむのは、あの方ですから」
「だよね」
首だけ振り返って、そう確認するルーカスに、神殿から派遣された外交神官兼ルーカスの侍従であるは静かに答えたので、その言葉にルーカスも同意する。
「もう、僕達は子供じゃ居られない…」
自分に言い聞かせるように、噛み締めるのうに、ルーカスは呟いた。
毎日一緒に居た学園生活も旅も終わった。
最近では、予定を合わせて月イチ会うのがやっと。
リエラとフェドートは、結婚したし、きっとあと数年もすれば子供だって生まれる。
ルーカスは、国の為の婚約をした。
アイリスも貴族令嬢として、行き遅れる前に結婚する為に動いている。
もう、あの自由な日々は戻って来ないのだ。
────
「ルーカスの性悪野郎!!!」
ボスっと投げたクッションが壁に当たって間抜けな音を出す。
「知ってるそんなの!!!」
アイリスは、貴族令嬢なのだから、家の恥にならない為にも結婚しないわけにはいかない。
何よりも、アイリスは、貧乏とはいえ伯爵家のご令嬢で、人気の低い良縁と結婚とはいえ聖巫であり、何よりも、王太子や次期神官長の親しい友人で、魔神を封印した聖女の大親友として、共に旅をした世界を救った英雄の一人だ。
肩書きと権力を愛する連中からすれば、国にも神殿にも影響を与えられる最高の妻─装飾品─になる。
特に聖女として絶大な人気を誇るリエラがフェドートと結婚してしまったから、その価値は高まるばかりだ。
(アイリスが良縁と結婚の聖巫で良かった。
おかげで、肩書きしか見てない変な男に騙されることはないし)
じゃあ、アイリスをちゃんと愛す男なら許すか?といえばそれは別問題であるが。
「僕を好きにさせといて、気付かないとかホントいい度胸してるよね!
ああ、もう!何であんなヤツ好きになっちゃったんだろ…。あの、鈍感馬鹿女!!」
はあ…、と溜め息と共にネイトは、アイリスとの出会いを思い出す。
(そう、始まりは…、)
始まりは、次期神官長の扱いを巡る派閥争いだった。
次期神官長は、血筋ではなく、両親共に巫覡である最も尊い加護を持つ者の定められており、実りと自然を操れるラディルムの聖覡のネイトは、生まれて数ヶ月で、次期神官長として、親元から離された。
そして、ネイトを育ててくれたのは、次期神官長は余計な価値観を入れられないように、親元から離して神殿で大切に育てるべきという神殿派であり、
他にも、ネイトを取り戻したい両親を中心とした、子供を親元から引き離すのは罪深い判断であり、次期神官長になる子供にも親元で育つ権利があるという親元派。
自分達が権力を握るのにネイトが邪魔だから、ネイトを排除したい革新派という、3つの派閥が生まれていた。
その中でも、親元派は、子を持って両親に同情したり、年代的に子は大丈夫でも孫は神殿に奪われるかもしれないと危機感を抱いた若い巫覡を中心に年々勢力を拡大していっていた。
そのせいで、神殿派は、ネイトを親元に返さなければ厳しい状況に追いやられたが、それでも親元に返すのを拒んだ神殿派は、ネイトを飛び級で学園に入学させる荒業で回避した。
それが、ネイトの飛び級入学した理由だった。
(よくもまあ、人の人生に、あそこまで興味持って首を突っ込めるよね)
自然と奇跡の聖覡であるせいか、ネイトは、他人への興味が薄い。
だから、ほとんど会ったことの両親の元に帰りたいと願ったことはなく、神殿派の望むままに学園生活をしていた。
そんな時だった。
リエラの名前を聞いたのは、
(神殿派も肩書きが欲しかったんだろうね。
僕を立派に育てたって肩書きが)
リエラは、癒しと浄化の巫覡の中でも成長速度が著しく、すぐに魔物討伐のトップランカーに躍り出た。
それ故に、神殿派は、「仲良くしてみればいかがでしょう?」とネイトに進言し、ネイトとしても、次期神官長としてトップランカーを確認しておくのも悪くない。と、話しかけてみたのだ。
リエラは、話してみると嫌な気のしない相手だったし、リエラの周りにいるヤツらもそうだったから、気が付いたら一緒に居る時間が増えていた。
アイリスは、その中の1人だった。
(だったはずなんだ…)
学園に居た頃、僕達の中心はリエラで、リエラが居なくなると解散することが多かった。
まあ、会えば話すこともあったし、理由があれば一緒にも行動したけど、特に異性のアイリスと話す機会は少なかった。
それが、変わったのは、旅に出てからだ。
(まあ、森の中じゃ別行動も出来ないしね)
同じ旅の途中のさらに娯楽も役割もない場所だと、解散する理由も見つからず、良い感じのリエラとフェドートが食べ物を探しに行けば、自然と残ったメンツで、火の番とテント建てと水汲みや食料採取を請け負うことになる。
魔物も出る場所だったから、最低2人1組の行動となるし、役割を順々に回していけば、ネイトとアイリスが組むこともあった。
一緒旅をしている内に、お互いの旅に出た理由なんかも自然と口から零れたりしたけど、アイリスの「親友を1人で危険な旅に向かわせられない」って理由は、最初聞いた時は、「親友が行くからって、攻撃力や魔物特攻のある巫覡でもないのについてくるなんて、ホント馬鹿な奴」としか思わなかった。
ネイトが旅に出た理由は、ネイトを邪魔に思う革新派の策略だったし、神殿派は悩んでたけど、結果、ネイトの強さを見込んで箔付けとして賛成した。
大反対したのは、親元派だ。
泣いて「行かないでくれ」と両親に縋られてもネイトは、困惑しか出来なかった。
だけど、力ある者が下を守るのは当然だろう?
ネイトは、そう教えられてきたから、そう言ったが、親元派は「子供は守られるべき存在なのです」と「貴方は洗脳されてるんです」と反発してきた。
ネイトは、自分が洗脳されてるのか、結論を出す前に旅が始まってしまった。
不自由な旅に、革新派からの暗殺者、不安定な心はネイトを蝕んでいった結果、ネイトの口からポロリと溢れ出たのだ。
──「僕は、洗脳されてるのかもしれない…」
きっと限界だった。
王太子のルーカスも居たから、弱音を吐きたくないって気を張ってたけど、可愛げのある性格じゃないと自覚してる自分に「可愛い!」「可愛い! 」とことあるごとに言うアイリスにちょっと絆されてたんだ。
1度出た言葉は止まらず、ポロポロ零れ落ちた。
自分を愛してくれるのに、同じだけの愛を返せない両親への罪悪感。
育ての親達と両親達が不仲な現状への哀しみ。
育ての親達が悪く言われることに対する嫌悪。
それを否定出来ない現実への苛立ち。
流されることしか出来ない自分への無力感…。
自分は、自然と奇跡の聖覡のはずなのに、こんなにも色んな感情に振り回されていて、本当に神官長になっていいんだろうか…。
そう零した僕に、アイリスは何でもないように言うんだ。
──「まっ、愛着が薄いのと感情がないのは別だし仕方なくない?正常正常」
──「まあね、あんだけ必死になって我が子取り戻そうとするのも、時代の流れと価値観の変化もあるだろうけど、珍しいよね。
あの神様の巫覡は愛情が深い傾向にあるせいかな?
まあでも、ほとんど会ったことないのに『親』って言われても困るよね。
ましてや、神殿もきちんと親代わりしてくれてたみたいだし」
──「え?分かるのかって??
そりゃ、分かるよ。洗脳されて育った子供は、良縁と結婚の巫覡から見れば一目瞭然!
正しい愛を与えられてないから、他人を上手に愛せない。そう教えてくれるし。
その点、ネイトは、個性の範囲内だから、親元は離されてたけど、きちんと愛されてたのが分かるよ。
洗脳なんてされてない。絶対にね」
(そう、断言されたのが、どれほど心強かったか、きっとアイリスは気付かない…)
アイツはいつだってそうだ。
能天気であっけらかんとしてる。
だから、アイツは、自分の能力で見たものから出した結論を口に出しただけ。
嘘偽りも媚びへつらいもない。
だから、問いかけた。
──「僕は、両親と神殿、どちらを選ぶべきなんだろう…」
って…。
他にも我が子が居るのに、それでも僕の身を案じる両親と、僕が神官長になった時に困らないようにと教育を施してくれた神殿。
僕は、どちらを愛すことが『正しい』のだろう…。
人よりも愛着心の薄いネイトには、世間の『正解』が分からなかった。
だから…、『正解』を教えて欲しかった。
それなのに…、
──「え?どっちか選ばないといけないの?
うわっ…、次期神官長って大変…」
──「ん?選ばなくていいのかって?
別に良くない??
ネイトにとっては、両方大切なんでしょ?
なら、両方と仲良くすればいいじゃん。
もう、ネイトだって自分の意思がある年頃なわけだし、『神殿に育てられた結果、神殿を軽んじる気はないけど、両親や兄弟とも関わっていきたい』とでも言えば??
いや、反対されるか??
まあ、そこは上手くやって欲しい。
両親と神殿の仲を取り持つとかさ。
面倒ならどっちか選んでもいいと思うし」
それなのに、あの馬鹿女、第三の選択肢を突っ込んだ上に、全選択肢を肯定する暴挙に出てくるから、本当にありえない。
そんな優柔不断だから、ルーカスに「国母にはちょっと…」って恋愛対象外扱いされるんだ。
僕には、有難いけどさあ…!
ーーコンコン
思考にふけていたネイトの部屋がノックされる。
「何」
「ご家族様がお待ちです」
「ああ、もうそんな時間」
チラリと外を見ると、太陽が地平線に近くなっている。
カチャリと扉を開いた先。
「楽しんで来て下さいませ」
「楽しんで来て下さい」
そう穏やかに笑う老婆と壮年の男性は、ネイトを中心的に育ててくれた神殿派の人々だ。
「ああ、行ってくる」
あの悩んでいた頃は、思いもしなかった。
「お兄ちゃーん!!早く帰ろ!今日はね、ご馳走なの!!」
「こら!すっ転ぶぞ!馬鹿!!」
「そんな汚い言葉使わないの!」
「うっ、」
兄弟のこの騒々しさが、
「「おかえり、ネイト。さあ、お家に帰ろう」」
両親の幸せそうな顔が…、
月に数日の自分の当たり前になるなんて…。
(ああ、アイツの言ったようにどちらか選ばなくて良かった)
笑って見送ってくれる神殿。
笑顔で迎えてくれる家族。
数ヶ月、あの手この手で手に入れた平穏。
──「よかったね!」
悩んで手に入れた幸せを、アイリスのアイデアだしと経過報告した時、
他人事のはずのに、どうしようもないくらい幸せそうに笑うアイリスの笑顔が脳裏にこびりついて離れない。
(やっぱり、どうしたって手放せそうにない)
あの笑顔が他人のものになると思うだけで、腸が煮えくり返るほどの怒りと苦しみを感じるのだから…。
(もう、子供じゃ居られない…。なら、取りに行かなきゃ…、
覚悟しといてね、アイリス)
ネイトは、アイリスを妻にする為に動き出す。
もうそろそろ書きだめがつきそう…。
近日中に更新速度落ちるかもしれません…<(_ _)>
ところで、毎日更新のおかげか、PV数は確実に伸びてるのにブクマが伸びないんだけど、何がクソなんだろこの作品????
ここまで読んで頂きありがとうございます!
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よろしくお願いします!!!!(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈⋆)