ルーカスの幸福
【登場人物】
《アイリス》
・主人公
・乙女ゲームのサポートキャラに転生した。
《リエラ》
・乙女ゲームのヒロイン
・フェドートとゴールインした。
《フェドート》
・乙女ゲームの攻略対象の豪商の次男
・リエラとゴールインした。
《ルーカス》
・乙女ゲームの攻略対象の王太子
・リエラが友情度しか上げてなかったので親友だと認識している。
《カリナ・スタードール》
・リエラとゴールインしなかったルーカスの婚約者に選ばれた乙女ゲームに登場してない侯爵家令嬢
・ルーカスとお互いに尊重し合える関係を築きたくて、アイリスに相談したが…。
「で?何があったの?」
「ん?」
応接室で紅茶の香りを楽しむルーカスに、さっきの胸糞悪い冗談に内心苛立つアイリスは、嫌な気持ちを美味しい紅茶と一緒にグイッと一呑みにして、乱雑に起きたくなるティーカップを貴族令嬢としてギリ恥じない程度の品格を保ってソーサーに戻す。
「随分直球だね」
「あんな不愉快きまわりない冗談を聞かされるなんて二度とごめんだからね」
そう言えば、流石に言い過ぎた自覚はあるらしいルーカスがバツ悪そうに苦笑する。
「ごめんごめん。良縁と結婚の女神・ミラの聖巫であるキミには、絶対に言っちゃいけない冗談だったよね…。
…スタードール嬢にも流石に不誠実過ぎただろうしね」
まだ数字が小さいとはいえ、友情度でマイナス値を叩き出したカリナの事は、苦手に思っているだろうに、それでも誠実であろうとする姿は、流石乙女ゲームの攻略対象に選ばれるだけあると、少しアイリスの機嫌も治る。
恋や愛に誠実な男性を良縁と結婚の女神・ミラは、愛している。
もちろん、恋と愛に誠実な女性も。
だからか、アイリスも、そういう姿勢を見るとほんわりと心臓の奥底が温まった感覚がして、少し心が和らぐのだ。
「いくら、親しい友とはいえ、あんな甘え方は礼に欠けてた。反省してる」
そう言って眉を下げられれば、もうアイリスには何も言えない…。
(箱推しだったから…!!!!)
アイリスは、投影タイプじゃなかったので、ヒロイン込みの『癒しのSacred Song-セイクリド ソング-』箱推し。
当然ルーカスだって推しなワケで…、
(あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!顔が良い〜〜〜〜〜!!!!!普段、偉そうとは違うけど、堂々としてる人が心を許した相手に見せる弱った顔ぷまいです!!ありがとうございます!!!)
友愛とはいえ、そこまで信頼されてることに悪い気はしない。
「そうね、あんな言い方はもうやめて。不愉快だから」
「…うん、ごめん」
眉を下げて困ったように笑うのは、恋愛対象じゃない相手にするルーカスの最大の謝罪なのをアイリスは、ゲームの知識と今世共に過ごした時間で知っている。
将来、この国を背負うルーカスの重圧を正しく理解する日は、アイリスには一生来ないだろう。
それでも、アイリスにとって、ルーカスは推しの1人であり、また、今世で出来た大切な友人だ。
だから、
「でも、弱音を吐いてくれたのも、頼ってくれたことも嬉しい」
その信頼は心地良かった。
「私は、特別に頭が良いわけでも、剣の腕があるわけでも、権力も有益な神力があるわけでもない」
良縁と結婚の女神・ミラは、結婚に利益を追求する王侯貴族や豪商達お金持ちからの評価は低い。
平民の中ですら、女が夢見る為だけの仮初の信仰だと鼻で笑う者もいる。
同じ神の加護を戴いた巫覡でありながら、癒しと浄化の女神・イアナの聖巫として、魔力によって理性を失い凶暴化・凶悪化した動植物や土地を浄化し、人々を病や怪我から癒すことの出来るリエラとも、
愛と護りの神・ガーニアの聖覡として、祖国への、故郷への、友人への、家族への、…何よりも、最愛のリエラへの愛によって強化された肉体で、魔物化した動植物を倒すことが出来、人々の生活を護る結界も張れるフェドートとも、アイリスは違う。
人々を脅威から守ることの出来ないちっぽけな力…。
「そんな私の力が、私の大切な友達のよりよい人生を拓けるなら、私はこの力を得て良かったと誇れるから」
「はぁあああああああ…」
「え????なになになになに???ダメだった?????もっと力になる強大な力が良かった?????」
そう胸を張って言い切ったルーカスは、大きなため息と共に、膝を立てて組んだ両手に額をつけて溜息を吐いた。
「いいや、…君が僕の友人で良かったと思っただけだ」
「そういう展開だった??」
「そういう展開だったさ」
ルーカスはまだ先の方が長いだろう、自分の人生を思い返す。
「僕の幸せを純粋に願ってくれる友などかけがえのない存在だろう?」
生まれた時から常に付き纏う値踏みの目と、「貴方様のため」と自分の都合良く幼いルーカスを使おうとする大人達。
そして、両親の言葉に忠実な、媚びへつらう子供達。
彼らは、自分の利益にもならない僕の幸せを願ってくれるだろうか…、なんて答えの分かりきってる疑問が脳裏をよぎり苦笑する。
「そう?
別にそんくらい、フェドート達だって願うでしょ。友達だし。
お人好しのリエラなんて、ルーカスの幸せの結婚のために、私にスタードール嬢の所に侍女に行って欲しいってまで言い出したしね」
ああ、私の結婚適齢期があ…!!!!なんて言いながら、分かりやすく頭を抱えてるクセに断らないんだから、アイリスもリエラのことを言えないくらい、大概お人好しだとは、戦友達の間で一致してる意見だ。
(ああ、こんなにも僕の幸せを願ってくれる友人に出会えるなんて、僕は本当に幸福者だな…)
先立つ父は言っていた。
この陰謀と策略が蠢く孤独な地位に立つ以上、たった1人心を許せる者が出来たら、それはかけがえのない幸福。神の与えてくれた慈悲だから、大切にしなさい。と、1人の護衛を後ろに立たせて誇らしげに言っていた父。
そう言われた護衛も誇らしげにしていたことは、憧れと共にルーカスの脳裏に焼き付いていた。
(そんな神の慈悲が6つも与えられたんだ。
あの時、周りの反対を押し切って魔神を封じる旅に出たのは、英断だったな)
ここ近年の国を悩ませていた魔力汚染の活性化は、封じられた魔神の封印が弱まり、力が取り戻しつつあるせいだった。
本来なら、王太子のルーカスが出るべきではなかったが、ちょうど母が病によってこの世を去り、悲しみにくれる隙に、貴族派が国王派の母の実家を攻撃し、影響力を著しく失っていた為、後ろ盾の弱ったルーカスは貴族派の牽制と傀儡の王にならない為に力を見せつけなければならなかったのだ。
幸いにも、この国は一夫一妻制で、ルーカスの両親は仲睦まじく、父は他の女性に目移りすることもなく、先代の王の子は父以外女性で、王位継承はなく、最も近い王位継承者は凡庸な又従兄弟だから、学園でも首席だったルーカスに比べれば、血筋だって能力だってかなり見劣りする。
だから、死んだとしても王位を代わる者は居たし、仮に死ぬ前に担ぎ上げられてても、生きて帰れば排除は容易い。
そう思い出た旅で得たのは、かけがえのない友なのだから、人生とは、なんとも不思議なものだとルーカスは思う。
「うん、やっぱり僕は恵まれてるね。次期王だからかな」
なんて冗談に
「人徳でしょ。
嫌いな奴とは、頭を垂れられても友達なんてなんないし」
なんて、当たり前なことをと言わんばかりの興味なさげな顔で、紅茶のおかわりを頼むために侍女の方を向いてるアイリスがことなしげに言うから、
(ああ…、やっぱり自分は恵まれている)
幸せと共に緩みそうになる口を噛み締めて、ひっそりと隠すように紅茶を口にした。
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