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人生は終わらない





(な〜んて、簡単にいかないのが現実だよね!!)



いや、ヒロインのリエラは、魔神は封印したとはいえ、まだ存在する魔物の浄化や病や怪我人の治癒で引っ張りだこだし、愛と護りの神・ガーニアの聖覡(セイゲキ)─神様に特別な力を貰った男性のことだよ!─のフェドートも愛の力でパワーアップしながらリエラと国を守ってくれているので、そこは良い。

問題は、



(結婚適齢期の私の人生が続いてるって問題だよね!!)



神に愛された者と呼ばれる神力が覚醒した巫覡(フゲキ)は、別に神に使える者ではないので普通に結婚出来る。

なので、絶賛結婚適齢期中のアイリスは、婚活パーティー(マジモンのパーティー)で結婚相手を探さないといけないのだ。



(愛されるパラメーターが見えるだけで、運命の人が見えるわけじゃないクソ仕様!!)



まあ、たった一人の運命の人の相手が居るなら、乙女ゲームの意味が根幹から崩れさるのだから仕方がない。



(良い男は、攻略パラメーターが高いし、攻略パラメーターが低い男はパッとしないし、どうしよう…)


「ラブレー伯爵令嬢」



攻略パラメーターを観察しながら、結婚相手を壁の花となりながら物色しているアイリスに1つの声がかかる。



「へ?」



澄んだ花のように美しい声に思わずマヌケな声を上げてアイリスは、振り返る。



「少しお話良いかしら?」



そう静かに声をかけて来たのは、銀色の柔らかい髪に淡いピンク色の瞳、大きなキャットアイが少し気を強く見せているが、静かで落ち着いた雰囲気の上品な美しい少女。



(カリナ・スタードール!!)



アイリスと同い年の同級生・スタードール侯爵家のご令嬢で同年代の令嬢のトップとも言える少女だ。



「も、もちろんです!!」



たった一階級の違いだが、一階級の差は大きいし、何よりもミソッカス伯爵家のアイリスと、ブイブイ言わせてる有力貴族のスタードール家では、天と地ほどの差がある。

アイリスは、条件反射でコクコクと頷いた。



「では、こちらに…」



そう歩き出したカリナにアイリスは、大人しくついて行く。



(悪役令嬢モノの乙女ゲームなら、原作で悪役令嬢になってただろうな〜)



無言で歩いている間、暇なのでアイリスは、そんな事を考えていた。



(ぶっちゃけ、乙ゲーでライバルキャラって少数派なんだけどね)



そう、悪役令嬢モノの乙女ゲームにとって女の登場人物=お邪魔虫なライバルキャラだが、現実、乙女ゲームの女キャラ=ヒロインの友達枠なので、悪役令嬢なんてものも、それに匹敵するライバルキャラも、居なくはないが、少数派である。



(少女漫画じゃないからね、そこまでの山谷はいらないんでしょ)



どちらかといえば、取り巻く環境の方が山あり谷ありだったりするので、ライバルキャラまで出して山あり谷ありを演出する必要性がないのと、ライバルキャラで山谷にすると他の作品と被りやすくなるせいでは??とアイリスは、想像している。



(まあ、その定番感が逆に悪役令嬢モノではやりやすかったんだろうけどね)



悪役令嬢モノは、あくまで王道から逃げる過程がストーリーになるから、分かりやすい前提があった方が差分が作りやすいのだろう。

そして、カリナは、悪役令嬢にピッタリなボン・キュッ・ボンの美しくて高貴な王太子の婚約者候補筆頭。



(とはいえ、スタードール侯爵令嬢が悪役令嬢なんて有り得ないけどね。

もしも原作でスタードール侯爵令嬢が悪役令嬢なら、完全に成り代わり済みだよ)



そうアイリスが断言するくらいには、カリナは、優秀で人望の厚い人格者で、特に同性からの人気が高いのだ。



(まっ、男人気が低いって意味なら悪役令嬢っぽいか?)



その反面、しっかり者で弱い姿を見せないカリナは、可愛くない女性と美しさに反して、男性から敬遠されがちなのだ。



(どっちにしろ、婚約者候補筆頭は、婚約者じゃないけどね)



そう、世間はカリナを王太子の婚約者候補筆頭と呼ぶが、婚約者候補筆頭とは、周りが政治的な観点から「コイツじゃね?」って予測してるだけで、両家でも、本人間でも話は出ていない、完全に周りの噂話レベルの話なのだ。



(何よりも、婚約者のいる男って普通恋愛対象外だよね。

少なくとも、人の男に恋するヒロインは普通に嫌)


「こちらです」


「あ、はい」



そんな事を考えながら歩いていると、カリナは1つの部屋、休憩室へと入っていった。

部屋付きのボーイが開けた扉からカリナに続いてアイリスも慌てて中へ入る。



「飲み物は頼むまでいらないわ」


「かしこまりました」



カリナの言葉に綺麗にお辞儀をしたボーイは、そっと扉を閉める。

そうすれば、部屋の中には、カリナとアイリスだけが残された。



「飲み物を勝手に要らないって言ってごめんなさい。どうしても誰にも聞かれたくなかったの…」


「い、いえ、別に…、か、構いません」



元々、落ち着いた物腰の女性とはいえ、終始儚げな雰囲気を振り撒くカリナに、アイリスも何事だと引き攣りそうな顔で頷いた。



(わ、私、大したこと出来ませんよ!!)



そんな事を心の中で叫ぶアイリスに、1度下を向いたカリナは覚悟を決めた顔でアイリスと目を合わせた。



「私の婚約が正式に決まりました」


「お、おめでとうございます?」



一応慶事にそう声をかけるも、カリナの様子からあまりめでたくもなさそうで、思わず疑問符をつけてしまう。



「相手は、王太子殿下、ルーカス・アバンダント様です」


(世間の予測的中してんな)



まあ、賭け事ではないので、政治的視点がきちんとあれば、婚約者候補筆頭は、王太子が劇的な恋に落ちたりしない限り、普通に婚約者になり、王太子妃、そして、将来は王妃になる。



(リエラが王太子の友情度しか上げてなかった以上、まあそうなるよね)



おっかなびっくりで国からの浄化依頼を受けたリエラは、同じ特待生のよしみでついてきてくれたフェドート・サマニエゴを意識するようになって、特に恋を自覚してからは、徹底的に権力者の友情度しか上げてこなかったので、ルーカス王太子がリエラに失恋したという事実も存在していない。

アイリスに聞かれたリエラ曰く、「権力者に好かれたら断りにくいでしょ…!」との事だ。

だから、



(何も問題ないはずだけどな?)



これが、ルーカスがリエラに失恋していたとなれば不安にもなるだろうが、



(それとも腹黒王太子は嫌か?)



ルーカス・アバンダントは、紺色のサラサラした髪に、青みの強い碧色の瞳の優しげな目をしたアイリスと同い年の青年だ。

が、その優しげな見た目に反して、中身は腹黒王子で、嫉妬深さも攻略キャラ随一。



(国民想いの良い人なんだけどね、優しいだけじゃ王様なんてなれないよね)



もちろん、王太子とだけあって求められるスペックも段違いに難易度が高い。



「私、愛されたいんです…」


「え?えっと…、ルーカス殿下をお慕いしていたということで間違いないですか…?」


「お慕い…。どうかしら…。

でも、結婚するなら、お互いに尊重し合える関係性を築きたいんです!


お母様みたいに死にたくない…」


(あ〜…、)



最後にボソリと呟かれた言葉に、アイリスは、全ての事情を理解する。



(なるほどね、なるほどね…)



カリナ・スタードール。

有力貴族の侯爵家の令嬢で、才色兼備な麗しの女性。

なのだが、家庭環境はちょっと複雑なのだ。

カリナの両親が政略結婚なのは、珍しくもないのでいいが、カリナの父親・現当主は、自分よりも優秀なカリナの母親を疎んでいた。

それ故に、カリナの父親は、美しくも頭の弱い男爵令嬢を愛人として囲い、溺愛する反面、カリナの母を冷遇した。

そして、カリナの母親は、失意の中で病に弱り死んでいったのだ。

そして、カリナの父親は喜んで葬式をあげるよりも早く愛人と子供達を妻として邸宅に呼んだのだ。



(クソである)



結婚と良縁の女神の聖巫のアイリスからすれば、生理的嫌悪感が湧き上がるクソ男、それがカリナの父親なのだ。

そして、そんなクソな父親の元で、頭の可愛い継母と生活していたカリナは、



「わ、私、可愛くないの…!でも、せめて信頼関係や家族愛は築けないかしら!」



そう祈るように不安げな顔でアイリスを見上げてくる。



(それしたら一発では??)



バックに可憐で小さな花が咲き誇っているようなカリナの儚げで必死な姿は、普段の落ち着いた姿とのギャップになっていた。



(私が男なら落ちてたよ)



なんて冗談半分、本気半分で思いながらも結婚と良縁の聖巫として、真面目に相手する事にした。



(とりあえず、パラメーターの確認から)



【カリナ・スタードール

権力:93

財力:96

美貌:103

策略:135

武力:12

教養:110

素直さ:50

優しさ:100

正義感:100

SAN値:5

甘え度:0

甘やかし度:67】



(パラメーターえっぐ!!!)



武力こそ低いが、能力面の高さに改めて目ん玉ひっくり返りそうになる。

ざっくり言えば、

0-9:論外:路上住み:不快そうな顔をされる

10-19:下の下:貧乏な平民:気にする人は嫌がる程

20-29:下の中:普通の平民:最低限のマナーがある

30-39:下の上:裕福な平民:貴族相手に商売するのに必要レベル

40-49:中の下:豪商:下位貴族の最低レベル

50-59:中の中:男爵:中位貴族の最低レベル

60-69:中の上:子爵:中位貴族のマナー講師レベル

70-79:上の下:伯爵:上位貴族の最低レベル

80-89:上の中:侯爵:上位貴族として理想レベル

90-99:上の上:公爵:上位貴族のマナー講師レベル

100-:別格:王族:国として誇るべきレベル

なので、伯爵家だけど80↑なのはブイブイ言わせて下手な公爵家と同等の権力を持ってる証拠だし、

財力は国の中でも上位も上位。流石は、厳格な貴族階級の権威をひっくり返すレベルである。

美貌や教養の100↑も、国有数と考えて貰って問題ないので、カリナは、国有数の美少女で、国を代表出来る教養の持ち主という意味だ。

教養だって、王族だろうと80↑あれば、相応しい品格と知識を持っていると言われるのだからどれだけ凄いかがよく分かる。

策略など、18歳でこれだと数年後に200↑しそうな勢いだと思えば、ヒロインと攻略キャラの優秀なパラメーターに慣れていても、アイリスは顔が引き攣りそうになる顔を引き締める。

何故なら、まだ年若いアイリスは実感ないが、200↑は、歴史に名を刻むレベルの優秀さだと、同じ良縁と結婚の聖巫のおばあちゃん先輩が言っていたのだ。

攻略キャラ??当然超えてますが????

優しさや正義感っていう倫理観も100ピッタリあるし、すでにこの時点で王妃として恥じない所か、賢妃って名を残せるレベルである。



(これで攻略出来んこと逆にある??ってパラだけど、とりあえずルーカスの攻略パラメーターも確認っ、と)



【ルーカス・アバンダント«攻略条件»

権力:60

財力:40

美貌:40

策略:100

武力:10

教養:100

素直さ:100

優しさ:70

正義感:70

SAN値:60

甘え度:40

甘やかし度:70

カリナへの友情度:18

カリナへのラブ度:24】



(あるぅぅぇええええええ???????ルーカスさあああああん????????)



ルーカスは、策略・武力・教養・素直さを全て100以上にしないといけない鬼畜仕様だった気がするのだけど、武力の攻略値だけがなんか下がっていることにアイリスは、目を白黒とさせた。



(あれか??ヒロインちゃんが平民だから武力、もとい、神力で100オーバーという国有数の巫覡にならないと王太子とは、結婚出来なかったと言うことか??)



まさかこの世界に生まれて18年。

学力は!?神力は!?と思ったこともありつつ、違いを受け入れていたが、相手の地位で結婚条件が変わるのは、初めて知った。



(現実的に考えれば当然か…)



何も成し遂げてない平民が王太子と結婚して王妃になるなんて、ちょっとやそっとの努力と結果でなれるわけがなかった。



(まあ、それはそれとして…。

…おおん!!!どうしよう!!!!!)



アイリスは、心の中で頭を抱えた。

素直さは攻略条件にあったので驚かないが、リエラを見ていた時には全く気にしていなかったSAN値や甘え度が完全に足を引っ張っている。



(正義感までは問題ないのに!!)



素直さも下回っているが、SAN値と甘え度というゲームになかったパラメーターが下回っているという絶望感に比べれば問題ない範囲である。

素直さとは、行動力のことなのだ。

優しさと正義感が100だから、それを心のままに行動に移せるようにアドバイスすればいいが、SAN値、ここでは心の健康度とでもいうのか…、これは、育って来た成長環境が大きく影響するし、甘え度が低いのも、SAN値が低く、自分を他人に甘えていい存在だと思えないことが原因だと思えば、アドバイスした所で、行動に移すのは容易ではないだろう…。

だけど、良縁と結婚の聖巫としてアドバイスを求められた以上、答えないわけにはいかない…。



「…スタードール侯爵令嬢…。愛される為ならプライドを捨てれますか?」


「…それは、私にでしゃばるなと」



口を開いたアイリスの言葉に、カリナは、ギュッと拳を握りしめる。



「いえ、ルーカス殿下は、頭の良い方が好きなのでその辺は問題ありません」


「え?なら、どうして…」


「ただ、ルーカス殿下は、将来国王陛下となられるお方。

当然、家臣に心の全てを見せることは出来ない。そして、その代わりに心を支える方を求めています。

ルーカス殿下は、自分の弱さを許し、受け入れ、癒してくれる女性を愛することでしょう。

そして、人は与えられるばかりでは不安になる生き物であるが故、ルーカス殿下は、同じように弱さを見せてくれる方を愛するでしょう。

もっと自分に自信を持ち、自分に素直に生きられれば、ルーカス殿下との間に愛を育むことも出来ます」

(実際、頭がお花畑の女性が好きなクソ親父のせいでSAN値と甘え度と多分それにつられて自分に自信が持てないから素直さが低いだけで、限界値は攻略条件以上あるしね)


「…」



アイリスの言葉に不安と希望が入り交じった顔でカリナは、口を噤んでいた。



(まっ、簡単じゃないよね)



SAN値が1桁の人間に甘えろという方が難しい話だ。



「分かりましたわ…、やってみます」



だが、カリナは、不安の混じる中、それでも覚悟を決めた顔をした。



「ええ、頑張って下さい」



アイリスに言えるのはそれだけだった。






ここまで読んで頂きありがとうございます!

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