アイリスとカリナの話し合い
【登場人物】
《アイリス・ラブレー》
・主人公
・乙女ゲームのサポートキャラに転生した。
《ルーカス・アバンダント》
・乙女ゲームの攻略対象の王太子
・リエラが友情度しか上げてなかったので親友だと認識している。
《カリナ・スタードール》
・リエラとゴールインしなかったルーカスの婚約者に選ばれた乙女ゲームに登場してない侯爵家令嬢
・ルーカスとお互いに尊重し合える関係を築きたくて、アイリスに相談したが…。
《ネイト・マーヴェン》
・乙女ゲームのもう1人の攻略キャラ
・所謂、ツンデレ年下枠の次期神官長
《パティ・ブレナン》
・カリナの元乳母の侍女
《ファニー・ファッド》
・カリナの取り巻き兼侍女
・パワフルな子リス系子爵令嬢
ルーカスが帰り、カリナの部屋へと戻る。
「それで?どういうつもり?」
(デスヨネー)
当然、待ってるのは、雇い主からの尋問である。
ソファに座るなり、カリナが口を開いたのだ。
「今回は結果的に良い方向にいったわ。
もちろん、貴女の言葉を全面的に信じれなかったのは申し訳ないけれど、それにしても、もう少し段階を踏んで、私の信用を得てからでも良かったのではない?」
まあ、カリナの言い分は分からないでもないが、アイリスとしては、「何、悠長なこと言ってんだ」というのが本音である。
言わんけど。
約束通り、庇おうとしてくれたファニーを止めて、感謝の言葉を伝えてから、アイリスも口を開く。
「失礼ながら、私は、良縁と結婚の女神・ミラに、嘘偽りを言わないことを誓いました。
逆に何故、嘘偽りを申告されたのか、この件を担当させて頂いている聖巫として、お教え願いたいです」
「私は、宝石とドレスが好きな設定できたのよ?
突然変えたら不自然でしょう?
だから、徐々にルーカス殿下の好みに沿うようにしたという設定にしようとしたのよ」
(なるほど、言い分は分かる。が!!)
「何、悠長なこと言っておられるのですか??」
頭の良い、嘘の上手な政向きの人間の発言だとは、アイリスも思うが、次は本音が溢れ出ていた。
「どういう意味?」
不愉快げに低くなる声は恐ろしいが、アイリスも引くわけにはいかない。
「ハッキリ申させて頂きますと、ルーカス殿下からのカリナお嬢様への好感度は、2ヶ月前から急降下しております」
「…」
察しの良いカリナだ。
それは感じ取っていたのだろう、キュッと口を閉じて黙る。
「少しずつ変わるアピールをする間に、どれだけ好感度が下がると思っていますか?
下がれば下がるだけ、リカバリーは難しくなります。
なので、不自然だろうが、素早い反応が必要な場面だったんです。
ですが、言葉を重ねても理解して頂けないご様子だったので、この度は申し訳ないですが、強行突破させて頂きました。
申し訳ございません」
「…そう」
深々と頭を下げるアイリスに、カリナは、心を一度落ち着かせないとそれ以上言えなかった。
「今回は、私の状況判断の誤りね…」
そして、心を落ち着かせると、溜息を吐くようにそう呟いた。
「カリナ様。恐れながら、私からもよろしいですか?」
「いいわよ」
パティの言葉にカリナは許可を出す。
「では、畏れ多くも言わせて頂きますと…、
もう、全面的にラブレーさんの言葉を盲信して下さい。
今回の件でよ〜〜〜〜〜く、分かりました。
カリナ様は政の才はおありですが、恋愛の才は木っ端微塵もありません。
ええ、それがラブレーさんの行動で、あのように婚約者であるルーカス殿下と楽しげにお話されて、このパティ、とても嬉しい思いでいっぱいでした。
ラブレーさんの実力は確かです。恋愛面は、ラブレーさんを盲信して下さい」
(それは言い過ぎでは??)
と、アイリスは思うが、生まれた時から見守ってきた不遇なお嬢様の上手くいかない恋愛に、カリナ以上に気を揉んでいたパティとしては、それこそカリナ以上に今回のカリナとルーカスの楽しげな談笑に感動し、うっすらと涙すら浮かべていたほどなのだ。
「そんなに??」
カリナとしては、自分なりに努力をしていたので、信頼する乳母のその評価は納得いかないが、まあ、かなりの恋愛音痴なのは事実である。
ファニーも目の端で頷いているのがカリナからも見えたので、さらにいたたまれない。
「盲信は置いておいても、もう少し私の言葉を実行して頂けると助かるのは事実です。
『素直に』と何度もお伝えしているはずです」
「ええ…」
何はともあれ、援護射撃はアイリスとしても有難いので乗っかることにする。
だが、どうにも腰の引けた返事しか返ってこない。
(SAN値低いから仕方ないけども!!)
幼い頃から父親に否定されて育った子供が、素の自分を愛せず、愛されるとも認識できないのは、仕方がないとアイリスも理解している。
認識という一瞬で変われないものに問題があるからこそ、アイリスは、カリナの傍にいるわけなのだし。
(ふぅ…、)
覚悟に息を吐く。
アイリスは、何度だって伝える。
染み込ませるように、言葉を重ねて。
「カリナお嬢様。何故、私が口酸っぱく『素直に』を繰り返すかお分かりですか?」
「…いいえ」
「では、説明させて頂きます。いいですか?
カリナお嬢様は、ルーカス殿下と燃え上がる恋をするのではなく、長い時を共にする夫婦になるんです。
今のように、数日に1回、数時間だけ会う関係なら、素敵な偽りの自分でルーカス殿下に好かれてもよろしいでしょう。
疲れたら別れてしまえば良いのですから。
ですが、夫婦になってしまえば違います。
仮面夫婦なら別でしょうが、それはカリナお嬢様が望まれていない以上、毎日顔を合わせ、長い時間を共に過ごす関係を築きたいという事と同義。
カリナお嬢様は、これから先、半世紀以上を偽りの自分で生きる覚悟はございますか?
その偽りの自分が愛されることに虚しさを覚えないと言えますか?」
「っ…、」
偽りでもいいから愛されたいと願う気持ちは本当だ。
それでも、
(虚しくならないなんて誓えないわ…)
ギュッとスカートを握りしめて、目をそらす様に俯いたカリナに、片膝をついてアイリスは、視線を合わせる。
「目の先の幸福になびき、ここで自分を偽ることは、この先、苦渋の半世紀が待っていることを覚悟なさって下さい。
そして、私は、この件を任された良縁と結婚の聖巫として、そのような事態は見過ごせない。そのことをご理解頂けたらと思います」
「わかっ、たわ…。
まだ、上手くできる気はしないから、手伝って頂戴ね」
「ええ、もちろんです!
1人でも多くの幸せな夫婦を作ることこそ、私達の幸せですから」
ついでに、自分も幸せになりたいな〜、という本音は、心の中だけで呟く。
「アイリス!」
そして、アイリスの嘘ではない言葉に、カリナは感動したように名前を呼んだ。
「そう言ってもらえると心強いわ!」
そう、アイリスの手を両手で包み込んで、縋るような瞳で見てくるので、アイリスとしてはちょっといたたまれない。
(一応、私、実績一つのド新人ですからね!!!!)
と言えたらいいが、仕事で来ている以上は言えないので、
「おまかせ下さい」
そう、巫覡として、力強く答えるしかなかった。
「でも、今回は失敗してしまいましたわ」
「失敗??何がですか?」
アイリスの心強い言葉に、嬉しそうにしたカリナは、次には、ふぅ…、と溜息を吐いて、そう項垂れた。
アイリスは、内心慌てて今日のルーカスとの会話を振り返るが、アイリス目線、問題点はなかったように感じる。
(とはいえ、スタードール侯爵令嬢は鋭い人だ。
私の気付かなかったことに気付いた可能性もある…!)
そう警戒しながら聞いてみたが、
「…ルーカス殿下に甘え下手だと伝え忘れていました」
「十分伝わってたと思うので大丈夫です」
「え!?」
深刻そうな顔で言われた内容があまりにもしょうもなくて、思わずスンッと表情が抜け落ちそうになるのを真顔で耐える。
アイリスの言葉に、カリナは驚いているが、
(逆に何を驚いている??)
というのが、アイリスの本音である。
「ど、どうしてお分かりになったのかしら」
「どうも、こうも、さよならの瞬間に作り笑顔になれば察しますよ。ルーカス殿下は、鈍感な方ではないので」
「で、でも、今までは気付かれませんでしたわ…」
「ずっと作り笑顔だったからでしょうね。
今回は、本の話で盛り上がって、素の顔を垣間見たから気付かれたんでしょう」
「なるほど…」
言われてみれば納得の理由に、顎に手を当ててカリナは真剣な顔で小さく頷いてしまう。
「…カリナお嬢様。…いえ、スタードール侯爵令嬢。
ルーカス殿下の友人として、一国民として、最後に言わせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ」
仕える侍女としてではなく、支える聖巫としてではなく、友人として、国民として言いたいと言ったアイリスに、堂々と余裕のある微笑みの裏で、カリナは息を呑む。
(何を言われるかしら…)
震える手を誤魔化す術も、俯きたくなる頭をあげる術も、動揺にゆらめく瞳で微笑む術も知っている。
それでも、
(『貴女にルーカスはもったいない』?それとも『王妃に相応しくない』?ああ、『私の方が向いている』かしら…)
嫌な想像だけが膨らむ。
「この国の才女、この国の美姫。貴女がルーカス殿下の婚約者に選ばれて良かったと思っています」
「え…?」
だから、アイリスの言葉があまりにも想定外で、ポカンとあどけない表情で驚いてしまう。
「ルーカス殿下も存外強がりな人で、私達友人にも素直に甘えてはくれないんです」
そう言うアイリスは、寂しげに笑っていた。
「だから…、
ルーカス殿下は、スタードール侯爵令嬢の弱さを察されるでしょう…。
ですので、同じように、ルーカス殿下の弱さを察し、幻滅などされずに支えてあげて下さい。
貴女は、それが出来るほど優秀なのですから…」
願う姿は哀しげでありながら、真摯であった。
「…」
その真摯さに浮かぶ疑問は止められなかった。
「…貴女は、ルーカス殿下のことが好きなの?
正直に教えてちょうだい」
本当はずっと問いたかった。
自分よりもずっとずっと婚約者の近くに居る女性。
「友」と呼び合うが、
…「本当に…?」その疑いは晴れることのない。
(ああ…、信じてなどいなかったのね…)
信じている顔をして、浅ましくも疑い続けていた自分を今、自覚する。
「いや、それはない」
「へ?」
真っ直ぐと真実を見分けるようにと見つめる端で、浅ましい自分に自己嫌悪するカリナの質問に、アイリスは、スパッと真顔で答えてしまう。
あまりの色のなさに、カリナの方が呆けた声を出してしまう。
(あ、ヤッベ、本音がそのまま出ちゃった)
「あー…、ルーカス殿下は、素敵な男性だとは思いますよ?でも、ほら、王太子はちょっと私には、肩書きが重いというか…。
借金まみれの男性と結婚したら苦労するように、身分の高い男性と結婚してら、絶対苦労するじゃないですか?そこまでして結婚したい相手かって言うとNOなんで、恋愛対象外っていうか…、顔と性格は良いんで観賞用の友人が1番楽というか…。
あっちも、あっちで、『君は国を任せられないから恋愛対象外』って言ってるんで、お互い絶対ないです。
私のタイプは、同じ伯爵家か裕福な子爵家とかがいいですね。結婚してからの苦労少なそうだし」
王太子を、他人の婚約者をバッサリ切り捨ててしまったのに、慌ててアイリスは、言葉を重ねるが、焦って口調が素に近くなっていることに気付いていない。
なので、貧乏伯爵令嬢が、救世主の地位で身の丈の合わない男と結婚しても、絶対ろくな事態にならないし。と呑気に心の中で付け加えていた。
(使用人から舐められる家に嫁ぐなんざ、御免こうむる!!!!)
そうなるくらいなら、救世主の地位を使って全力で逃亡してやる。とアイリスは、心に誓っている。
「そ、そうなの…?」
「結婚で玉の輿目指す女性もいますけど、私は楽な身の丈にあった結婚がしたいタイプなので」
戸惑うカリナに、当たり前のように言うアイリスに嘘は見えなかった。
(この世界、正式なパーティーは基本的に男女で参加するものだし、地位が上がれば上がるだけ、夫人として注目浴びるし、やること増えるから、玉の輿しても前世ほど楽じゃないのよね。
逆に事前知識ないからツライまである)
ヨーロッパ風なせいだろう。良くも悪くも女性の存在感があるので、玉の輿で男性に寄生しながら楽して生きるのは難しい側面があるのだ。
だから、アイリスは絶対玉の輿婚はしたくない。
(苦労するからな…!!!!)
身の丈にあった結婚バンザーイ!!!と何よりも静穏な結婚を望む良縁と結婚の聖巫として心から思うのだ。
「そ、そう??」
「ええ、国民としてやっぱり、王太子妃は、カッコイイルーカス殿下の隣で映える美しい女性がいいですよね。
あ、でも傾国の悪女は論外ですよ?
それでいて、わあ!この人の子なら素敵な次期王産んでくれそう!って頭良い人がいいですね。
アホが産んだ子って、アホにならないか不安になりますし。
その点、スタードール侯爵令嬢は、頭も良いし、美人で、ルーカス殿下の黒髪に対して銀髪で、青みの強い碧眼に対して淡いピンクって対になってる感じが映えますよね!
The・高貴な女性って雰囲気で、国民目線理想的で、盛り上がるのにピッタリ!!」
「そ、そうかしら…?」
「そうですよ!!」
アイリスの勢いに戸惑っているカリナに、
(だから、ルーカスのことをお願いしますね)
と、心の中だけで足す。
男友達ならまだしも、女友達がそんなことを言うのは、
(マウントにしか聞こえないからな…!!!)
心から思ってるんですよ!!マジで!!って言っても信じてもらえそうにないので、
(私とルーカスの間に恋愛感情がないことだけは信じてくれ…!!!!
ここ疑われるとやりずらいから!!!!)
と、ノリと勢いで説得にかかったのだ。
「でも…、ルーカス殿下の友人の貴女にそこまで言ってもらえると心強いわ」
そう、恥ずかしげに小さく微笑むカリナと、満足気に頷いているパティとファニーに、
(勝った!!!!!!)
そうアイリスは、心の中で安堵し、ガッツポーズをキメるのだった。
ふわぁああああ!!!!
神が3人もいた!!!!
ブクマが15になった…!!!!
ありがとうございます!!優しい神々(ブクマして下さった方々)!!!!!!!
評価して下さった優しい神々もありがとうございます!!!!!
あと、2日に1回投稿がそろそろ厳しくなってきたので、3日に1回にさせて貰います。
すみません…(ᐡ๐·̫๐)〣
ここまで読んで頂きありがとうございます!
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