「ダウト」
【登場人物】
《アイリス・ラブレー》
・主人公
・乙女ゲームのサポートキャラに転生した。
《ルーカス・アバンダント》
・乙女ゲームの攻略対象の王太子
・リエラが友情度しか上げてなかったので親友だと認識している。
《カリナ・スタードール》
・リエラとゴールインしなかったルーカスの婚約者に選ばれた乙女ゲームに登場してない侯爵家令嬢
・ルーカスとお互いに尊重し合える関係を築きたくて、アイリスに相談したが…。
《パティ・ブレナン》
・カリナの元乳母の侍女
《ファニー・ファッド》
・カリナの取り巻き兼侍女
・パワフルな子リス系子爵令嬢
「スタードール嬢、久しぶりだね。元気にしてたかな?」
「ええ、もちろんです。ルーカス殿下」
(しっ、白々しい〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!)
お互いに猫かぶりの上っ面笑顔の婚約者達に、アイリスは本日2度目の頭痛を感じた気がした。
(これで2ヶ月??2ヶ月??2ヶ月ってなんだっけ??2日??)
と、ほぼほぼ話したこともなかったアイリスよりも、カリナに素を見せられてないルーカスを憐れめばいいのか、カリナの恋愛音痴っぷりを憐れめばいいのか、どっちの方が可哀想かなー…と現実逃避したくなる気持ちを、アイリスは根性で引き戻す。
カリナに呼ばれたので。
「では、お願いするわ。ラブレー」
「かしこまりました」
現実逃避をしている間に、カリナは、アイリスの斡旋の感謝と本日の進行を担当させたい旨を伝え、ルーカスが承諾したので、今からは、スタードール家の侍女としてではなく、良縁と結婚の巫覡として動くことになる。
「まず、この場にて、嘘偽りを申し上げないことを良縁と結婚の女神・ミラ様に誓います」
目を瞑り、指を組んで祈りを捧げる。
(その姿はさまになってるんだよね…)
いつもの気安さが嘘のように、清廉さと可憐さを纏う聖巫特有の雰囲気をかもしだすアイリスに、巫覡の知り合いの多い共に旅をしたルーカスは、苦笑で済んでいるが、パティやファニー達は驚いて目を見開きながら、息を呑んでいる。
(…おや?案外、冷静だね)
だが、カリナは、そんな清廉な空気に呑み込まれることもなく、たおやかに微笑んでいる。
(やっぱり優秀には優秀なのかな?)
巫覡の神への祈りや誓いは、どこか浮世離れした美しさがあり、特に次期神官長のネイトと聖女と崇められるリエラの2人の祈りに至っては、現御神であるかの如く神々しく、人々を無意識のうちに跪かせ、泣き出す者達までいる程だ。
とはいえ、当然、国の顔となる国王夫妻がそんな事態になれば、神殿とのパワーバランスに問題が起きる。
神殿の者の多くは善良だが、善良過ぎる故に国の運営には向いていないので、口出しされると困るのだ。
なので、各国で、王族の結婚相手の条件に、巫覡の誓いや祈りに膝を折らないこと。と書かれていたりする。
そして、何故かこの耐性、不思議なことに本人の優秀さに比例するので、呑み込まれないカリナは、それだけで優秀さの証明になる。
「では、まず、お互いのことを知ることから始めましょう。
例えば、好きなものなど」
「好きなものか…、本と剣と乗馬といったところかな?」
娯楽の少ない時代に質実剛健な理想的な王太子の趣味といったところだが、流石攻略対象とだけあって、嘘はない。
「特に乗馬は、気分転換によく遠乗りをするよ。
執務室に篭ってると国民の生活が数字に見えてくるしね」
「まあ、素敵ですわね」
異性慣れしていないせいだろう。
ちょっとかたくて演技の入っているカリナの言葉は、空々しく感じさせる。
それに気付かない鈍い男性なら、その上面の言葉で騙されただろうが、
(ルーカスは、敏感なんだよぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!)
そう、ルーカスの察しの良さが完全に裏目に出ている自体にアイリスは、頭を抱えたくなった。
その空々しい返事に、「ああ、国政に興味がないんだな…」と見切りをつけてそうな雰囲気すら感じられる。
いや、表面上は、アイリス目線分からないので、友人として、人となりを知っている者としての勘という方が正しいかもしれないが。
「スタードール嬢は?」
「私は、宝石とドレスが「ダウト」
ルーカスが驚いた顔をして、カリナが笑顔の裏で怒ってる気がしなくもないが、アイリスは、良縁と結婚の聖巫として嘘はつけない。
神に誓ったのだから。
「まあ!私が嘘をついていると?」
「ええ、良縁と結婚の聖巫は、正しい情報を得ることが出来ますから」
笑顔の裏に「どういうつもり!」という怒りが見えて、猫、いや、虎に睨まれたネズミのように恐ろしいが、
(私は、嘘言わないって誓ったのに嘘ついたアンタが悪いんじゃん!!!!!)
の精神で、ビビる心を抑えて微笑む。
ちょっと恐怖で引き攣ってる気しかしないが、仕方がない。
(まあ、庇わないルーカスは合格点ね)
ここで、ルーカスが友人だからとアイリスを庇うと確実に厄介な形に拗れるので、冷静に判断して、傍観しててくれるルーカスは、とても助かる。
(攻略キャラって恋愛スキル高くて、男女間のゴタゴタを起こさないでいてくれるから有難いって、今この瞬間、神に感謝するわ!!!!!)
明日からもアイリスはここで働くのだ。
今はまだ、カリナは怒っているが、パティとファニーは、あんなに「素直に」と念押しされたにも関わらず、嘘をついたカリナの方に呆れてるが、ルーカスが庇えば、お嬢様の婚約者にお嬢様よりも大切にされてる女として、敵認定される可能性もある。
そうすれば、一気に侍女としては働きにくく、良縁と結婚の聖巫としても動きにくい職場に変わる。
(せっかく昨日、ちょっと心を許して貰えたのにそんなの絶対嫌!!!!!!)
と、いうわけでアイリスは、カリナのプロフィールを見る。
そう、プロフィール。
(ええ、良縁と結婚の巫覡が見れるのは、パラメーターだけじゃなくて、プロフィールも見れるんです!!!!)
身長、体重、好きなもの、苦手なもの、etc。
孤児院に捨てられた赤子だって、良縁と結婚の巫覡が見れば、親と正しい誕生日が分かるし、裏の顔も分かる。
そう、実は、政向きの超ハイスペックなのだが、良縁と結婚の巫覡は、これをぼやかして言うことで、権力闘争から遠い所にいる。
なぜなら、
(嘘が超絶苦手だからです!!!!!)
矛盾を嫌う良縁と結婚の巫覡は、総じて嘘が苦手である。
上手く嘘のつけない良縁と結婚の巫覡が、その能力がバレたらどうなるか?
(嘘の上手い方々に搾取されて終わるんだよ!!!!)
先人達の失敗を胸に、良縁と結婚の巫覡は、真っ先にその事を教えられ、「どんなに親しくなってもバラすな」と念押される。
まあ、教えられた先人達の辛過ぎる最期に、誰もが口を閉ざす。
(私だって言う気ないしね!!!!)
国も知らない、神殿にも内緒、それどころか、家族や友人達にも決して言えない秘密。
どんなに舐められても、
(同じ良縁と結婚の巫覡全員を危険に晒す真似出来るか!!!)
という理由で、アイリスもまた口を閉ざしていた。
まあ、
(神の与えた能力を軽視する方が馬鹿なんだけどね!!!)
パラメーターだけだって、優秀な人材を見つけられるから、アイリス達は数値化の事は言わないのだから。
(と、それはさておき、スタードール侯爵令嬢だ!!!!!)
どうにもこうにも素直になれない彼女をどうにかすること。
それが、今回のアイリスの仕事なのだから。
「スタードール侯爵令嬢。真実をお話し下さい」
「………………………………………………………………
本が…、本が好きです」
嘘をつかないと自らの神に誓った巫覡が、嘘をつけないことは公然の事実だ。
故に、隠しきれないと踏んだカリナは、まるで死刑を言い渡される咎人のような苦しみに苛まれた顔でカリナは、重い口を開いた。
チラリと確認するようにルーカスが、アイリスを見たが、事実なのでアイリスは何も言わない。
「本?どのような?」
「ええっ…、その…」
自分の質問に口籠もるカリナにルーカスは、首を傾げる。
(珍しいな。彼女が口籠もるなんて)
この2ヶ月、会った回数は両手で足りる程だが、それでもいつもスラスラと話していて、内容は好みではなかったが、話につっかえることはなかった。
(ああ、もしかして)
そんなルーカスの中に閃いた一つの可能性。
「ロマンス小説は、女性の間で人気だと聞いたことがありますよ」
「!!
ええ!ロマンス小説が好きなんです!」
「ダウト」
(おや?)
そう、ロマンス小説だ。
内容が軽く読みやすいロマンス小説を本ではないと断じる者もいる為、口籠ったのだろうと、あえてルーカスの方からにこやかに話を投げれば、神の助け!!とばかりに嬉しげにカリナは飛び付いたが、即座にアイリスが否定した。
「スタードール侯爵令嬢。何度も言いますが、私は今、嘘がつけないんです。
あまり嘘をおっしゃるとルーカス殿下からの信用を失いますよ」
存外、気の短いアイリスは、ピクピクとひくつきそうになるこめかみを意識しないように、怒りが出ないように、淡々と話す。
「うっ…、」
(!?)
アイリスにそう言われた、常に優雅で品のある落ち着いているカリナの表情が、今にも泣き出しそうに見えてルーカスは、ビクリとする。
何よりも、国有数の美女であるカリナの下げられた眉と涙の潤む瞳に彩られた顔は、あまりにも氷の彫刻のように繊細で美しかったのだ。
「………………です」
「ん?ごめん、聞き取れなかったからもう一度いいかな?」
「っ、…せ、政治経済の本です!!!っ〜〜〜〜〜〜〜、可愛げのない女で申し訳ございませんっ…!」
「ん?んんんんん??????」
小さな声で聞こえなかった言葉を聞き返せば、次は叫ぶように言うと泣きそうな顔で頭を下げて、手で顔を覆うカリナの行動が訳が分からず、思わず、ルーカスは、助けを求めるようにアイリスに視線をやる。
「真実です」
「いや、それは分かったけど。
…僕は、何を謝られてるの???」
「『可愛げのない女性であること』ですかね」
「待って!!??どういう流れから出た言葉!??」
アイリスの言葉に、ルーカスの優秀な頭を持ってしも理解し難い事態に、ただただルーカスは困惑した。
「スタードール侯爵令嬢」
「…政治経済など女性の読む本ではありませんから…」
「いや、別に女性が読んでても問題ないと思うけど???」
「え?????」
アイリスの促しに、ここまで来たら仕方がないと、大人しく口にするカリナだったが、ルーカスは、カリナの主張が分からずに首を傾げているし、カリナもカリナで、ルーカスの言葉の意味が分からずに混乱する。
(だーかーらー!!ルーカスは、頭の良い女性が好きって言ってるじゃん!!!!)
とは、アイリスの主張である。
「ええっと…、ルーカス殿下は、政治経済の本は男性が読むものだとは思われないんですか…?」
「本は読む人の性別を選ばないよ。
逆に何故、読んではダメなのかな??」
「か、可愛げがないから…」
「可愛げ????
読む本との繋がりが分からないんだけど????」
「その…、頭の良い女は可愛げがないと…、」
「それは、男側の器の問題では??」
「ぶふぅッ!!」
勇気を持って聞いてみれば、心底不思議そうな顔をしているルーカスに、アイリスもたどたどしくも自分の常識を主張姿は、最初の挨拶の頃よりも随分と素が出ていて微笑ましいが、ルーカスの意味が分かりませんが??と言わん顔での主張に、原因の分かるアイリスは吹き出して笑ってしまう。
一瞬、部屋の中にいる全員の視線がアイリスに向いたが、顔を逸らして俯いて、左手で口を覆って、なんでもないと右手を振って主張する。
私は壁、私は壁。と無意味に自己暗示をかけながら。
「…何よりも、僕の婚約者は王太子妃、将来的には王妃になる。
結婚して、子供が生まれて、その子供が男の子で、息子が幼い頃に僕が死んだり、病で王として動けなくなった時、王妃として、幼い息子を利己主義な者達から守りながら、代わりに政に携わってもらわないといけなくなる。
だから、逆に、政治経済も分からない女性が婚約者の方が僕は恐ろしいと思っているよ」
どうやら、付き合いの長い、アイリスの素を知るルーカスは、アイリスのやらかしをスルーする方向に決めたらしい。
カリナの目を見て、真剣にそう伝える。
「あ…」
アイリスに何度も、ルーカスは賢い女性が好きだと聞いていたのに、カリナは、どこかで疑っていた自分に気付いた。
「そういえば、スタードール嬢は、どんな本を読んだことが?」
「ああ、えっとーー」
ルーカスの質問にカリナは、いくつか最近読んだ勉強になった著書をあげる。
「ああ、あれ!僕も読んだよ!彼の本はいつも新しい観点があって好きだよ」
「分かりますわ!前は、ーーーーも好きでしたが、最近考え方が合わなくて…」
「それは僕も思ってたよ。私生活で何かあったのかな?
思想の変化を感じるよね」
「ええ、民目線のリアリティを感じれて好きだったんですが…」
「まあ、こればっかりは仕方がないよ。
そういえば、ーーーーは、読んだ?」
「いえ、まだですが、タイトルだけでも興味が惹かれます!」
「なら、次会う時に持ってくるよ」
「まあ!本当ですか!とても嬉しい!!」
嬉しさから頬を染めて、今までの能面のような薄っぺらい作り笑顔とは違う生き生きとした表情で笑うカリナに、ルーカスもつられて少し嬉しい気がしてしまう。
気が付けば、随分と盛り上がっていた。
「カリナお嬢様、もうそろお時間が…、」
初めて盛り上がるカリナのルーカスの間に割って入るパティは、大変申し訳なさそうだが、婚約者の状態で夕方を過ぎるのは、外聞が宜しくないので、大切なお嬢様の評価のためにも、心を鬼にして口を挟む。
「まぁ…、もう、そんな時間」
そう言ったカリナは、寂しげな顔をする。
「また、会いに来ます」
「ええ、分かっています」
部屋の扉の前で、ルーカスの言葉に、カリナは最初と同じ綺麗な作り笑顔で優しげに微笑む。
「…正直、楽しい時間は過ぎるのが早すぎて、名残惜しい気持ちでいっぱいです」
「ええ…」
急に作られた笑顔と硬い声の意味を察せない程、ルーカスは鈍くなかった。
そっとカリナの左手をとる。
「こんなに誰かと離れ難いと思ったのは、貴女が初めだ」
カリナの左手の手の甲にそっとくちづけたルーカスは、弱ったような顔で笑ってみせた。
ボンッと顔を真っ赤にするカリナの横で、
(あざてぇぇえええええええ!!!!!!!!!!
上目遣い!!!!いや、手の甲にくちづけしたせいだろうけど、流石攻略キャラ!!女性の胸きゅんポイントを分かってらっしゃる!!!!!
穏やかな王子様のちょっとした我儘な本音と弱った顔が自分に向けられて、落ちない女がいるか!?いや、いない!!!
流石、別次元にすらガチ恋勢を量産した男は違う!!!!!
新スチルあざぁす!!!!!!)
アイリスは、壁になった気持ちで、ゲームにないスチルのような胸きゅん行動に大興奮していた。
はわわ、ブクマ増えない…(´ཫ`)
ここまで読んで頂きありがとうございます!
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