カリナお嬢様は相談したい。
【登場人物】
《アイリス・ラブレー》
・主人公
・乙女ゲームのサポートキャラに転生した。
《リエラ》
・乙女ゲームのヒロイン
・フェドートとゴールインした。
《フェドート》
・乙女ゲームの攻略対象の豪商の次男
・リエラとゴールインした。
《ルーカス》
・乙女ゲームの攻略対象の王太子
・リエラが友情度しか上げてなかったので親友だと認識している。
《カリナ・スタードール》
・リエラとゴールインしなかったルーカスの婚約者に選ばれた乙女ゲームに登場してない侯爵家令嬢
・ルーカスとお互いに尊重し合える関係を築きたくて、アイリスに相談したが…。
《パティ》
・カリナの元乳母の侍女
《ファニー》
・カリナの取り巻き兼侍女
・パワフルな子リス系子爵令嬢
「あ、あのね…、せっかく、ラブレーが侍女になってくれたなら、ルーカス殿下との仲も相談したいけれど良いかしら…?」
「カリナ様!!」
不安げに、それでも期待を込めて頬を染めて、ソファに座っているせいでちょっと上目遣いになっているカリナは、まるで美しい妖精のように可憐である。
(それをルーカスにやってくれたらな!!)
ズキュンと心臓を撃ち抜かれながら、アイリスは、心からそう思う。
(そうすれば、ルーカスだって男なんだから、ちょっとは心が揺れるはずなのに…!!)
何故同性に可愛い表情が見せれて、異性に見せれないんだ…!!可愛い表情の無駄遣い…、いや、同性人気も必要だけども…!!とアイリスは、葛藤を抱えながら嘆く。
だが、そんなアイリスの心情など知らないパティは、カリナを止める為に声を上げ、ファニーの表情もかたい。
「何?パティ」
「…お言葉ですが、ラブレーさんの助言はあまり当てにならないと思います」
「何故?」
「ラブレーさんの助言を実行しても、あまり王太子殿下からの反応が芳しくないからです…」
(お゛あ"あ"ぁ"あ"ぁ"!!!!!
完全に私がアドバイスして、裏目に出たの知ってる!!
そりゃそうなるわ!!!
大切なお嬢様が余計なアドバイスした女に、お嬢様がまた意見求めようとしてたら止めるわな!!!!)
第四の選択肢、カリナに余計なアドバイスをした女だから気に食わない。とパティとファニーからのアイリスへの好感度が地の底な理由は分かった。
とはいえ、空気を読んでここで引き下がったら、アイリスの来た意味がなくなる。
(考え方を変えよう!
そう、良く考えれば、初期段階で向こうがわざわざ私の気に入らん理由を教えてくれた!!そう思えば、ちょっとありがたみすら感じるじゃん!!!!)
自分にそう言い聞かせながら、アイリスは、心を落ち着かせるために、深く息を吐いた。
「でも、ラブレーは、良縁と結婚の聖巫よ」
「ですが…、」
どうせ、王太子を狙ってんだろ。と言わんばかりの鋭いパティの視線がアイリスを射るが、人に嫌われるという恐怖を心の奥底に沈めて蓋をして、アイリスは微笑む。
(スタードール侯爵令嬢は頭が良いし、私は変なアドバイスをしてない。
よしっ!大丈夫!!)
「カリナお嬢様。発言をよろしいですか?」
「ええ、もちろん」
カリナの許可は降りたが、パティとファニーの視線がより厳しく、冷たくなる。
それでも、パティもファニーもカリナに意見はしても、でしゃばりはしないのだから、流石侯爵の侍女は教育が良いなと、こんな状況とはいえ、アイリスは感心してしまう。
「では、お言葉に甘えて。
ここで私に任せると言っても、ブレナンさんもファッドさんも納得出来ないでしょう。
まず、カリナお嬢様は、私のアドバイスを覚えておられますか?」
「ええ、もちろん。
心に刻んでいるわ」
「では、相違があっては問題ですから、その内容を教えて頂いてもよろしいですか?」
パティとファニーは、カリナの邪魔したと思われているアドバイスの話になって、さらに視線が鋭くなる。
(いい加減、視線に刺し殺されそう…)
ちょっと弱気が心の奥底の蓋の隙間から溢れ出てくるのをアイリスが感じている中、カリナが口を開く。
「ルーカス殿下は、国王になる自分の弱さを許し、受け入れ、癒し、支えてくれ、そして、弱さを見せてくれる女性を愛する。
なので、自分に自信を持って素直に生きる。でしたよね?」
「「…」」
「そうですね」
アイリスを見ているカリナは気付いていないが、カリナの横に立っているパティとファニーがあちゃー…と言わんばかりに、天を仰いでいる。
「カリナお嬢様は、そのように努力なされてましたか?」
「ええ、もちろんよ」
「例えば、どのような?」
「…私、自分に自信がないので、お継母様達のように何かをねだるなんて、恥ずかしくて出来なかったけれど、勇気を持ってお願いしましたの。
そうしたら、ルーカス殿下、微笑みの裏で呆れているようでしたが、お父様みたいに断らないできちんとドレスや宝石を買って下さいましたわ。
それに、腕を組んでもお父様みたいに文句を言われませんでしたし、本当にお優しい方です。
…ただ、お継母様達のように上手く甘えられていないせいか、好かれることが出来ず、『甘えて下さい』って伝えても頷くばかりで甘えて下さりません…。
どのように行動すれば、上手に女性の弱さと甘えと癒しを表現出来るのでしょう…」
(父親がクソだな、おい!!!)
頬を染めて嬉しそうに微笑んだカリナは、次にシュンと落ち込み、最後に縋るようにアイリスを見つめるが、アイリスの真っ先な感想はそれだった。
もう、父親がゴミなのは仕方ないのでアイリスもスルーするが、
「とりあえず、全く何も出来ていないことは把握しました」
「え??」
「ごめんなさい、ラブレーさん。免罪で貴女を責めてしまって」
「カリナ様。以後、恋愛ごとに関しては絶対に周りの意見を聞いて下さい」
「え???」
自分の努力を伝えたはずなのに「出来てない」というアイリスに、
ラブレーに深く頭を下げて謝罪するパティ、
何故か、自分を慕い、よく自分に意見を求めるファニーにすら「周りの意見を聞くように」と念押しされてる状況にカリナは、目を白黒させて困惑する。
「えっと、何かダメだったかしら…?」
「失礼を承知で言いますと、
全面的に」
「全面的に…、」
アイリスの言葉を繰り返すだけで理解していないカリナにアイリスは、苦笑して、言葉を噛み砕く。
「まず、カリナ様は、“女性の”弱さ、“女性の”甘え、“女性の”癒しの表現と言われましたが、この考え方が根本的に違います」
「…と言いますと?」
「“女性”や“男性”というのは、大きなグループ名であり、その中で、得意なこと、苦手なことは、個々に違いますよね?
女性はお菓子が好き、と言われていますが苦手な女性もいますし、男性は力が強い、と言われていますが非力な男性もいます。
性の区分で分けられたことが苦手であることや、逆に異性的と言われることが得意であること、それに対して恋愛対象として好みがあることは否定しませんが、責める権利は誰にもないと私は考えています」
「ええ、私もそう思うわ」
「それでしたら、ご理解頂けると思いますが、その人の“弱さ”も、“甘え”も、“癒し”も、個々に違うものであり、“女性として”と単一化することは出来ないですし、してはイケナイと考えています」
「…」
「カリナお嬢様が、奥様や妹君の“弱さ”や“甘え”を真似した所で、それは奥様や妹君の“弱さ”や“甘え”であり、カリナお嬢様の“弱さ”や“甘え”ではありません。
そんな取って付けたような“弱さ”や“甘え”を自分に素直になるとは言わないんです」
「…なら私はどうすればいいの…。
私は可愛げのない女なのに…」
十分可愛げはありますが??という本音をしまって、良縁と結婚の聖巫の顔でアイリスは微笑む。
「簡単です。
ルーカス殿下にたった一言言えばいいんです。
『私、意地っ張りで甘え方が分からないけれど、貴方を支えたい気持ちだけは本物です』って」
「え?でも、そんな自分勝手こと!」
「自分勝手?
何が自分勝手なんですか?」
「あ、『甘え方が分からない』って…、ルーカス殿下が望んでいるのに出来ないだなんて開き直って、婚約者失格だわ…!」
なるほど、そういう考えかー、と苦笑しそうになる顔をアイリスは、引き締める。
「いいえ。カリナお嬢様。
カリナお嬢様にとって、最も苦手な分野“弱み”は、甘え下手という点です。
もちろん、その上に胡座をかくようならいけませんが、カリナお嬢様にとって、甘え下手を隠すことは、“弱み”を隠すことと同義。
“弱み”を開示した上で、『上手に甘やかして欲しい』とねだるのが“甘え”です。
ルーカス殿下は、察しの良い方なので、きっとカリナお嬢様の上手く表現出来ない甘えも引き出して下さるでしょう。
そして、カリナお嬢様が少しづつでも、女性“らしい”ではなく、カリナお嬢様“として”、『力を貸して欲しい』、『そばに居て欲しい』、そう心の感じたままを言葉に出来るようになれることが“甘える”ということです。
考えてもみて下さい。
外ではしっかりしてる女性が、自分の前だけで不器用に甘えようとしてくれるなんて、
優越感ありません?」
「そ、そうかしら…?」
「そうですよ」
(少なくとも私はド性癖です!!!
はわわ、悩んでるスタードール侯爵令嬢かわよっ!!)
まあ、リアルだと察し能力の問題があるので、アイリスとしては、ある程度分かりやすい方が助かるが、ルーカスは友情モードでも、ヒロイン・リエラの変化は見逃さなかったし、現実もリエラやアイリス達の仲良しメンツはもちろん、薄い付き合い相手でも変化に敏感だった。
なので、カリナが甘え下手でも、甘える気を持ってモジモジしてれば察してくれるだろうし、それすら出来なくても、『甘え下手です』と伝えてれば、ルーカスの方が気にかけて声をかけてくれるだろうし、反応から強がってるのか察して甘やかしてくれるはずである。
(それに、ルーカスって、あんまりベタベタ甘えられるの好きじゃないから、過度に甘えたなセリフの選択肢選ぶと好感度下がるんだよね!!)
ある程度、独立した女性が好きなので、『貴方が居ないと死んじゃう♡』ってタイプとは相性が悪いのだ。
ルーカス攻略の時は、選択肢でわりと「大丈夫!」を連発してたし、その中で大丈夫じゃないのを察して甘やかしてくれたりするので、
(その察しの良さがルーカスの胸きゅんポイントなんですよね!!!)
ルーカスルートに入ってから、あえて音楽ゲームで失敗を何度かしつつ、神力を上げるコマンドを使ってるとルーカスのスチルが手に入る。
失敗続きで無理に鍛錬を重ねるリエラを見つけてルーカスが声をかける。
「休んだ方がいいよ」と言うルーカスに、「ありがとう。うん、ちょっと休もうかな…」や「ルーカスには関係ないでしょ!!あっち行ってよ!」じゃなくて、「大丈夫!こんな所でへこたれてられないの!だって、私が倒せなかったことで苦しむ人がいるんだから!」を選ぶと、心配したルーカスに強制膝枕されて、「無理しないで。大切なリエラが追い詰められてるのは、見てて辛いから…」って頭を撫でてくれるスチルは、世の意地っ張り女性の心を撃ち抜いた。
(察しが良い上に甘やかし上手とか最強か??と思ったよね。最推しじゃないけど)
なので、流石に今は低過ぎるので問題だが、改善する気があるなら、カリナの甘え下手もルーカスの好みではあるのだ。
(リアルで見たいスチルだけど、仲良くなったらルーカス、スタードール侯爵令嬢にしてくんないかな??)
カリナからの惚れ気の又聞きでもいいし、偶然開いた扉の先で目撃でもいいから見たいな!とアイリスのオタク心が叫ぶ。
「まあ、とはいえ、最初っから口に出すのは恥ずかしいでしょう」
「ええ、…きっと上手く伝えられないわ」
「なので、必殺技を伝授させて頂きます」
「必殺技?そんなものがあるの!」
ぱあっと明るくなるカリナの表情に、それだよ!!それをすればいいんだよ!!とは思うが、異性慣れしてない人が異性の前で素を出すのがどれだけ難しいかは、前世で異性の友人が少なかったアイリスだってよく分かっている。
「ありますよ。
ルーカス殿下に甘えたい時、上手く伝えられなかった時、可愛げがないとこを言ってしまったと反省した時、ルーカス殿下の服の裾を意識を向けてもらえる程度に引っ張るんです」
「す、裾を引っ張る?そんなことで…?」
「ルーカス殿下は、察しのいい方ですから、それだけで言いたいことがある事を察してくれますよ。
それに、あの方がお優しいのは、カリナお嬢様だって知っておられるでしょう?
言いたいことを上手く伝えられないことに苛立つ方ではありません」
(ただし、政は別!!
スタードール侯爵令嬢は、政なら上手く立ち回るし関係ないけどね!)
「そ、そうね…」
上手く出来るかしら…、と視線を下げて不安げにさ迷わせるカリナは、まるで透明なガラス細工の百合の花のように繊細で美しかった。
(はぁああああ、そういう所さえ見せれたら一発なのに!!)
強い女性の弱い部分がルーカスの好みなのだ。
裾引っ張るのだって、ゲーム内で強がったリエラが、弁解するために慌ててやって好感度が上がるのだ。
「頑張ってみるわ」
「ええ、応援しています」
キュッと不安げではあるが、覚悟を決めた顔をするカリナにアイリスは、ふんわりと微笑み返す。
パティもファニーも満足気であるが、
(ほ、本当にこの回答で大丈夫????
私、前世未婚の今世は付き合った人も居ない喪女なんですけど!!!!
逆に、リエラは、この耳年増の知ったかアドバイスでよくゴールイン出来たね!?リエラ凄すぎない????)
ゲーム知識があるのはいえ、リエラの恋愛アドバイザーとして、ゴールインさせた実績に伸びていたアイリスの鼻は、カリナがアイリスのアドバイスで斜め45度にぶっ飛んで、好感度を上げたいと願うルーカスの好感度を反対に下げるという事態に、実はポッキリと折られていた。
マジで書き溜めなくなったので自転車操業で頑張っていきます!(ง •̀ω•́)ง✧
ちょっとでもいいなって思ってくれたら、泣いて喜びます!!
1話1ブクマの目標が敗れてから、ブクマして下さってる方々への感謝が絶えない…!!
ブクマして下さった方、まだ読んでてくれたら、ありがとうございます!!!!
ここまで読んで頂きありがとうございます!
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