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チムニー洞窟を攻略する為の同行メンバーを決める試験当日…試験会場で審査員長であるジエルの挨拶が試験会場に響き渡っていた!



「それではこれより、最終試験を開始する!」


「試験内容は一対一の個人戦!武器の使用は認め、相手を降参させるか・戦意喪失をさせた方が勝利とする!この試験は、必ずしも戦いに勝利した者をダンジョンに同行させる訳でなく、あくまで君達個人の能力を見極める為の試験である!君たちが最善を尽くせる様に祈っているわ」



「それでは…始め!!」



チームのリーダーであり、このダンジョン攻略の責任者であるジエルが、共にダンジョン攻略へ同行するメンバーを選定する為の試験の火蓋が今切られた。


まず先制攻撃を仕掛けたのは、パチンコ使いのクロコの青年だった!


青年はパチンコから丸い石を数発、対戦相手であるナイフ使いのイノリスに目掛けて牽制の意味合いを兼ねた攻撃を仕掛けた。


一方のイノリスは自慢の素早さを活かして青年の攻撃をかわしながら、確実に青年との距離を詰めていた。しかし…イノリスは青年との距離を詰めたと思ったら一旦距離を取り、そしてまた距離を詰めた…


数分後…


常に動き回りながらフィールド駆け回るイノリス…一方の青年は、イノリスの素早い動きに適応出来ずに、気づいた頃には青年はその場から移動出来ずにただただ攻撃を仕掛けるしか無くなっていた…


『ピタッ』


突如その場で動きを停止させたイノリスは、静かにその口を開いた…


「もう、その丸い石は底が尽きたんじゃないか?残るはお前の必殺技でもある魔石のみ…しかもその魔石、数えるほどしか持ち合わせて無いんだろ?さぁ!さっさと魔石を使うといいよ!僕のその攻撃が当たればの話だけどね!」



青年のパチンコ攻撃には明らかな弱点がある。それは球数である。青年が所持している魔石のカケラは大きさは、コインほど大きさで持ち運びも便利である。一方の通常弾として用いていた丸石は魔石のカケラほどコンパクトではなく、むしろ持ち運びや大量所持には不向きであった。



青年は時に、動きながらその場に落ちている石などを拾ってパチンコの玉の代わりを補っていた。今現在の青年はというと、イノリスの作戦も相俟って、一定の場所から動く事が出来ず、移動しながらの他の地面に落ちている石の補充もままならなかった…


そんな、イノリスに追い込まれていた青年は右の腰にぶら下げていた袋の中に自身の右手を突っ込むと、イノリスに何の魔石を取り出したか見えない様に工夫しながら’ある魔石’を取り出した。青年はその魔石をパチンコの装填口に徐にセットし、力強くパチンコのゴムを明いっぱい引き伸ばした。



(奴は何の魔石をセットしたんだ?火か?水か?それとも…まぁいい!何が来ようが、避けて仕舞えば何の問題もないさ!さぁ!攻撃して来い!そして全ての魔石を使い切り、万策尽きるがいいさ…)



『ギギギ…』


「喰らえ!」


『バッシュ〜ン』


青年が放った魔石は、イノリスの足元の一歩前へ一直線に放たれた。



「ははは!土魔法か?それは1回、目の当たりににしているぞ!しかも僕自身も使用経験がある!土魔石は、直接当たれば飛び散った魔石のかけらが重量感のある土に変化して、その土に体が押し潰される…地面に当たれば、地面の近くにいる人物の魔力に導かれる様に隆起した地面がその人物に襲いかかる!」



「これさえ理解していれば、対処の仕様はいくらでもある!さぁ!来い」


『バッサ』


イノリスは青年の魔石攻撃を土魔法と予想を立て、その場から斜め後ろに飛び上がり、攻撃を仕掛けてきた青年との距離を取った。


「お前の所持している魔石は5種類のみ!それさえ把握出来ていれば、お前の攻撃を予測する事など動作もない事!」



「…お前そんなにお喋りだったか?」


『!?』


自身の勝筋を予測していたイノリスに対して、不敵にツッコミを入れる青年は、戦いを諦めてはいなかった…そう!全ては彼の予想通りであった…


「そんなお前のことは嫌いじゃないぜ!けど、この戦いは勝たせて貰うぞ!」


「吹っ飛べ!ボム!!」


青年が爆魔法のボムの名を口にした瞬間!


『ドッカン!!』


地面に着弾した魔石から爆発音と衝撃波が試験会場中に響き渡った。


「きゃあ〜」


青年が放ったボムの衝撃によりイノリスは吹き飛ばされ、砂煙をあげながら地面を転がり倒れ込んでしまった…


複数の傷を負い、砂煙に塗れたイノリスの目の前に勝利を確信した青年がパチンコを構えながら姿を現した…


「これで、俺の勝ちだ」


青年はそう言い残すと、ゴムを目一杯引っ張った状態のパチンコをイノリスに向けて狙いを定めていた。


「まだ終わっていない…」


「いや…もう…遅い…」




勝利を確信した青年に対して、一見強がりを見せている様に見えたイノリスだが、現実は真逆だった…



「ここまで!」



『!?』


二人の戦いを見守っていたジエルが二人の間に颯爽を現れ、試験の終了を唐突に告げた。


「まだ…おわって…いま…せん」


「イノリス?動ける?」


「はい…何とか」


「君はどう?動ける?」


『…』


ジエルの問いかけに、全く反応できていない青年がそこに居た。


「痺れ薬よ!」


「イノリスは君のボムの爆風に完全に巻き込まれたと見せかけて、君の油断を誘ったの!勿論、結構なダメージは受けているはずだけど、近づいてくる君にバレない様にシビレ粉を自分周りに散布する事は、イノリスにとっては容易い事みたいね」


「君も君で凄く強かったよ!爆魔法を生成するために火魔法のカケラと風魔法のカケラを同時に発射するなんて、聞いてことも見た事もないわ!けれど、イノリスの方が君より勝利へ執念が強かった!君もこの戦いに隠し玉を用意していたみたいだけど、それはイノリスも同じだったみたいね」


「イノリス…あなたの口から、貴方の隠し球について彼に説明してあげて?」


「はい分かりました」


「ジャンク屋で手に入れたんだ…お前が『赤い本』を夢中で読みあさっている時に、僕のブラックボックスから出て来たアイテムが『シビレ粉』だったんだ!何より僕とシビレ粉は相性が良いだ!実は僕には麻痺の耐性があるんだ!それは、先天性のものではなく、後天的な物なんだ!僕達、戦闘タイプのクロコは学園を守るために日々様々な訓練を受けてきた…」


「毒…火…そして、麻痺…魔法が使えない僕達はとにかく身体能力の向上を常にトレーニングしてきた…それが、今回の結果だ!お前が戦闘タイプのクロコじゃ無い事は、学園を飛び出す前に学園長から聞いていた…僕はその事がずっと頭の中に残っていた。それが今回の作戦を思いついたキッカケなんだ…」


「お前は僕が戦ったクロコの中で一番頭がキレるクロコだよ!けれど、最後の最後でお前は油断した…残念だけど今回は僕の勝ちだ!」


『…』

『……』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『…ガッチャン』


ー チムニー洞窟攻略作戦前日の夜…




チムニー洞窟へ同行するメンバーを決める試験は、イノリスの勝利で幕を閉じた…


イノリスのシビレ粉にって動けなくなった青年をジエルが自宅へと運び入れた。


ジエルは、ベットに横たわる青年に今回の試験の合否を発表した。


「今回は君をチムニー洞窟へは連れて行かない…」


「連れて行かない理由は…君が負けたからじゃないわ!君は戦闘に対しての地頭がとても優れている!それは、私達エース・ハインドにとってプラスでしかないわ!けれど、体力面やアイテムに依存している所が君の評価を分けた一端よ!」



「でも私はこの結果にホッとしているの!もし君がイノリスに勝っていたのなら、私は君とイノリスの二人をダンジョン連れて行ってた… けれど、その選択でパーティーの生存率が上がる訳でないの!どんなに戦闘IQが高い人間とパーティーを組んでも、未知の敵との遭遇はパーティーの生存率を大きく狂わすわ!何より、1番の生存方法は、戦闘に参加しない事…」


「そう…私は君に生きていて欲しいの…許してちょうだい」


青年は、シビレ粉の効果により声も出せずにベットの上で横たわりながら、ジエルの言葉を歯を食い縛りながら耐えるしか無かった。


青年に試験の不合格を通達している時のジエルの悲痛な表情を青年は忘れる事はないだろう…




ー そして、次の日の朝…



青年が目覚めた時には、ジエルとイノリスはこの家にはもう居なかった…


青年は心身のシビレから解放され、自力で動けるまでに体調が回復していた…


何より青年は自分の非力さに押し潰されていた。


「ここに来て俺は作戦に参加できないのか…ジエルさんを助ける事が、俺の使命なんだと自分に言い聞かせて来た…まさか助けるはずのジエルさんに間接的に助けられるなんて…」


「悔しいな…」


頭に靄のかかった状態の青年は、無気力の状態で家の中をフラフラ徘徊していた…



家の中を徘徊していた青年は、ふと家の中から一筋の光を感じ取った…そんな光の先にあった物とは…一通の手紙と家の合鍵ガキだった!


青年は、手紙と合鍵を食卓の上から取り出すと、手紙から感じ取れた光の正体がジエルの光魔法の残火である事に気づいた…


「置き手紙…か…」


青年は迷い無くその手紙をすぐに開封し、黙々と手紙に書かれた文章を読み込んだ…


「………………」


そして、すぐに手紙を読み終えた青年は、無気力だったその瞳に正気を取り戻し、自身の体から幸福色のオーラを解き放つ事になった!


自信に満ちあふれた青年は、ある決意を胸にその場から唐突に姿を消した…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ー ジエルとイノリスが自宅を後にしてから、6時間後…


「…そろそろお昼時ね…ここいらでお昼ご飯でも取りましょう」


「はい…」


ジエルは、チムニー洞窟があるマイルストーン鉱山に向かうまでの道中で、旅のお供をしているイノリスに対して昼食を兼ねた昼休憩を提案した。


ジエルは、自身が所持しているPSを取り出し、タッチ操作でPSの画面を器用に操作した。空間の歪みを発生させたジエルは、歪みの中から、手作りサンドウィッチが入ったバケットを取り出した。


『パクパク…』

『もぐもぐ。』


二人は特に会話をするわけでもなく、黙食をしながらあっという間に手作りサンドウィッチを完食していた。


「…」


「…あの…後どれぐらいで目的地に辿り着くんですかね?」


今回のジエルの旅のパートナーであるイノリスが、朝から続く長い沈黙に耐えきれず、たわいも無い会話でその場の陰気な雰囲気を少しでも払拭しようと試みた。



「そうね…休憩を繰り返しながら歩いていたら、1日はかかるのだけれどスタミナがあるイノリスがいてくれるお陰で、相当早いペースでここまで休憩無しで辿り着く事がきでたわ!…きっと彼が居たら、もっと時間がかかっていたわね…ははははぁ…」


「…」


「…後悔しているんですか?ヤツをパーティーから外した事を?」


イノリスは、揶揄にも聞こえる青年に対するジエルの発言も、短い時間ではあるが同じ時を過ごし同じ釜の飯を食べた間柄である青年に対しての後悔の念をジエルから感じ取っていた…


「…そうね!イノリスの言う通りね…後悔はしてるわ…でも…自分自身の判断に間違いは無かっと改めて思うわ」


「彼がパーティーに加わる事で、私達の攻撃パターンは広がるわ!彼の長所は対応力。一度敵わなかった敵にでも戦闘を繰り返す事で結果をひっくり返す事が出来る!しかし…今の彼は守備面・体力面で圧倒的に私達より彼を劣るわ…そんな彼を助けながら、未知の敵と対峙するのはリスクが高すぎる…改めて言うは…彼をパーティーから外した選択はエース・ハインドのリーダーとしては、当然の結果だと私は断言するわ」



「…はい。僕もその通りだと思います…でもジエル様はとても悲しそう…」


自身で苦渋の判断を下したジエルに対してイノリスはそっと彼女に近寄り、優しくジエルの背中を抱きしめた…


「大丈夫ですよ!僕が居ますから…」


「…そうね!私の隣には心強いイノリスがいるのだから、こんな所でウジウジしてられないわね…ありがとうイノリス!」


ジエルは側近であるイノリスの優しさに触れ、自身が抱える不安や後悔をそばにいてくれる彼女の為にも、一旦自分の中で封印する事を心に誓った。


「…さあ!お腹も膨れたところで…早速出発しましょう!後4時間ほど歩けば、マイルストーン鉱山の直ぐ近くにあるベースキャンプにたどり着くわ!そこに着いたら、チムニー洞窟の情報収集をしながら、明日のダンジョンへのアタックに備えましょう」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ジエルとイノリスはお昼休憩で、お互いの憂鬱だった精神状態を払拭し、気持ちを新たに4時間をかけマイルストーン鉱山のベースキャンプへ足を運んだ…


だが、ジエル達はマイルストーン鉱山で自分達が想像もしていなかった光景を目の当たりにする事になった…


「…え?どういうこと?一体何が起きたというの!?」


ジエルとイノリスがベースキャンプへ訪れた頃には、ベースキャンプは跡形もなく吹き飛んできた…


「本当にここにベースキャンプがあったんですか?一面焼け野原じゃないですか?」


「…間違いないわ…だって私達!正規ルートである正門から入山したはずよ!なりより私は数日前に、実際この場所に立ち寄った…その時は確実にココにベースキャンプは存在していたわ」


ジエルの説明通り、二人が通ってきた平坦な道と鉱山がある敷地の境界線に設けられていた頑丈なバリケードの中で唯一の、入山口である鉄の門を抜けて、誇大な敷地を誇るマイルストーン鉱山内へと足を踏み入れていたはずだった…



ー そんなチムニー洞窟とは煙突状の高山が特徴的で、機械で削られた穴ボコだらけのマイルストーン鉱山の中で唯一残存している地下へと続く天然の地下洞窟の事を指している。



「大勢の労働者で活気付いていたこの場所が、もう跡形もないなんて信じられないわ!一体この場所で何が起きたの?」


今現在のマイルストーン鉱山は、採掘に特化したドリルやシャベルカーなどの大型重機も見当たらず、人間の気配すら感じられない…何より地面が黒く焦げついていた…


「どうしますか?引き返しますか?それとも、このままチムニー洞窟へ侵入しますか?」


ベースキャンプが消滅した事に動揺の色を隠せないジエルの心の起伏を、持ち前の平常心でジエルに今後の判断を委ねた。


『…』


イノリス毅然とした態度に冷静さを取り戻したジエルは頭をフル回転させた。


「…このマイルストーン鉱山へ入山する前の地域一帯には何の被害もなかった…その事を踏まえ、今私たちがいるこの場所の地面が燃えている事から、炎を使う何かがこの場所のベースキャンプを消滅させた可能性が極めて高いわ!そして、エスペランス学園に現れたブラックドラゴンがチムニー洞窟のシンボルでもある巨大な煙突から出現した事を踏まえ、この場所に存在したベースキャンプを消滅させた原因が煙突から出現した魔物でな無いかと私は睨んでいるの…」


今一度マイルストーン鉱山で発生したであろう’事件’の全容を解明するために、情報種々を目的とした周辺の探索を決断した。


「それを踏まえて、一旦この場に不審な何かが無いかを調べましょう!」


「はい!分かりました!」


冷静さを取り戻したジエルに一安心したイノリスは、彼女の提案によりチムニー洞窟以外特に印象のないこの穴ボコだらけの鉱山を隈無く調査する事にした。



ー 5分後…イノリスは地中に埋まる赤いクオーツの先端を見つけ出した。



「…もしかしてこれ火魔のクオーツ?」


「…」


「他に何かいる?虫?…違う…赤いトカゲ?…」


イノリスが見つけた小型の赤いトカゲは、火魔のクオーツにしがみ付き、火魔のクオーツからマナを吸い上げていた。


『ズズズズ…」


「!?…このトカゲ…徐々に体が大きくなってる?…マズイ!」


先程まで手のひらサイズだった小型のトカゲが、炎炎たる炎の衣を纏った巨大な龍の形を模した姿の火龍に豹変していた。


『ボボボボ〜』



イノリスから少し離れた場所で鉱山の調査を行なっていたジエルは、突如燃え上がった火柱と爆音に驚き、火柱が上がった現場に急いで急行した。


『!?』


「イノリス大丈夫!?一体何が起きたの?」


ジエルが向かった現場には、炎を鎧の様に纏った巨大な龍の様な魔物と対峙しているイノリスの姿があった。


「ジエル様!?気をつけて下さい。奴は…火魔のクオーツからマナを吸収して巨大化したトカゲです」


「…トカゲ?…炎を纏う…巨大化?」


「…もしや、サラマンダー!?しかし、なぜサラマンダーが何故ここに!?彼らの生息地は火山のはず!?もしかしてこれも、フェノフェロウの影響なの!?」


ジエルは、自身の目の前にいるサラマンダーが自身が知り得るサラマンダーの情報と違いがある事に恐怖を覚えていた。


「イノリス!一旦下がって!サラマンダーは本来この地域には生息していない魔物なの!距離を取りながら慎重に対応しましょう!」



イノリスはジエルの命令通り、不穏な空気を醸し出すサラマンダーから一旦距離を取り、ジエルの指示の元に最善を尽くすためにジエルの声に耳を傾けた。


「何かとても嫌な予感がするわ!見た目は同じでも、全く別物の魔物として対処しないと痛い目を見るかもしれないわ!最悪、気を抜いたら全滅するわよ!だから、より一層気を引き締めて戦闘に挑むように!」


「了解です!ジエル様!!」




『グオ〜ン』


サラマンダーはその大きな体を明いっぱい使い、ジエル達を威嚇しながら近接攻撃を繰り出したきた。


「熱い!何より動きが早すぎる!今の所、奴はワンパターンな攻撃だけを繰り返している。特に癖のある行動をしてくる気配はないけれど、全身に炎を覆われているせいで、攻撃を仕掛ける僕の方が逆にダメージを喰らってしまう…クソ…一体どうしたら良いんだ!?」


スピードには自信のあるイノリスでさえも、サラマンダーの素早さと体熱により数分だけの対峙にも関わらず、知らず知らずに体力を削られてしまっていた。


サラマンダーの脅威を体感したイノリスは、一旦パーティーのリーダーであるジエルとサラマンダーについての情報を共有する為に彼女の近くに近づいた。




「ジエル様!奴の炎の身体の中心に、トカゲの姿が見えますか?あれが元々の本体です。僕は奴の本体を狙いたくて、奴の炎の身体に何回も近づこうと試みているのですが、奴から発せられる高温の熱と素早い攻撃によりこれ以上近づけません…奴の攻撃方法はワンパターンなので、あの炎の身体をどうにか出来れば勝機はあると思われます…お役に立てる情報が少なくて、すみません…」




(イノリス貴方って人は…)


「十分過ぎる報告よ!奴の行動パターンは私の知るサラマンダーそのものよ!その為奴は、生息地以外は特に変わり映えのしないサラマンダーに違いないわ!あとは、本体から放出される熱と奴のスピードに対応出来れば私達に正気はあるわ…そこで私に策があるの!」


「イノリス…私に奴を倒すための1分間を作って欲しいの!1分が過ぎれば、もしサラマンダーが特殊な行動を起こしても確実に対処出来るわ」


「…1分…十分です!1分と言わず、2分でも奴を足止めさせて見せます」


「頼もしいわ!流石イノリス!じゃあよろしく頼むわね」


「お任せ下さい」




心強いイノリスの返事に、ジエルは安心して彼女にこの場を託し、その時が来るまで集中力を高め、とある魔法を使用する為の詠唱を開始した…



「…僕なら出来る…僕なら出来る…よし!1分間この僕がお前の相手をすよ!最善はジエル様より先に、僕がお前を討伐する事だ!」


イノリスは明らかに自分より格上の魔物に対抗するために、自分自身を発憤興起させサラマンダーと対決に気持ちを整えた。


「手始めにこれだ!」


『シュン!』


先に仕掛けたのはイノリス。自身の腰からぶら下げていた茶色い巾着袋からある魔石のカケラをサラマンダーにぶつけた。


『バッシャー』


イノリスから放たれた魔石がサラマンダーにぶつかり、魔石の破片から大量の水が放出された。


「よし!効いてる!効いてる!魔石を使うのはアイツだけの専売勅許じゃないんだよ」


イノリスは青年との出会いにより感化され、ジエルから分けて貰った水魔のカケラを使い、サラマンダーを翻弄してみせた。


イノリスの攻撃により明に苦しみの表現を示しているサラマンダーに、イノリスは手を休める事なく連続で水魔のカケラをサラマンダーにぶけていた…


『…ギロリ』


流石のサラマンダーも2回以上は自身の弱点である水属性の魔法を喰らう訳にはいかないと判断したのか、炎で出来た翼を広げ上空に舞い上がった…舞い上がったサラマンダー空中で止まる事なく、一気に地上にいるイノリス目掛けた急降下してきた。


『グォォン』


『グッる』


イノリスは間一髪、横に回転しながらサラマンダーの突進攻撃を寸前の所で回避する事が出来た。しかし、サラマンダーにから放たれている熱波の余波により軽めの火傷は負ってしまった。


『ドドドド…』


サラマンダーは突進攻撃を避けた事など一切に気にせずに、次々と空中からイノリス目掛けて突進攻撃を繰り返してきた。


イノリスもただただ攻撃を避けているのではなく土魔のカケラを使用し、サラマンダーを地上に拘束する事を成功していた。


『バキバキバキバキ』


サラマンダーはイノリスが発生させた土魔法による巨大な土の牢屋へ拘束されていた。サラマンダーは自身の拘束を解くために、分厚い土の壁を自身の頭で何回もぶつけていた…サラマンダーの全身を覆い被さっていた土の壁がサラマンダーの頭突きにより複数のひび割れが生じた時、イノリスが不敵に笑った!



(やっぱり手強いな!物理系の攻撃は本体には届かない…魔法の攻撃なら本体以外にもダメージが通る…本当、上手く棲み分けが出来ている奴だな〜まったく…でも、これならどうかな?)




「喰らえサラマンダー!身動きが取れずらい状態でこの水魔のカケラを投げつければ、流石のお前もタダでは済まないはず!」



サラマンダーがイノリスが製作してた土の牢屋を壊している隙に、イノリスは水魔のカケラ二つを一気にサラマンダーに投げつける準備を整えていた。


『ギギギ〜』


イノリスから放たれた水魔のカケラによる連続攻撃により、サラマンダーの炎の鎧は固まった溶岩の様に黒く変色していた。



「よし!今なら、他の魔法もヤツ本体に直撃出来るはず」



サラマンダーは自身の弱点である水属性の攻撃を一定以上受けると、本体を守っている炎の鎧が黒く固まり、本体へのダメージが通りやすくなるのだ。


『スタッ』


サラマンダーの動きが止まった事を確認したイノリスは、所持していた他の魔石のカケラ『土魔2・風魔2』を固まって動けないサラマンダーに全て投げつけた…


『ガガギギ〜』


明らかに苦しみ出したサラマンダーに対して、イノリスは勝利を確信した。


「…本当に僕一人で倒してしまった!ははは…本人は絶対言いたくないけど、アイツのおかげかもね」


サラマンダーとの戦いで見せた青年と瓜二つな戦闘スタイルは明らかに青年のオマージュであり、終始サラマンダーを圧倒出来たのは彼から盗み・学んだ戦術に他ならない。


そして、青年に対して圧倒的な対抗心を持っているイノリスでさえも、今回の手柄に関しては青年の存在を認めざるを得なかった…がしかし…


『バリバリバリ〜』


「…どこかで見覚えがあるシュチュエーションだ……ちょっとヤバイかも…」


黒く固まっていたサラマンダーの炎の鎧に無数のヒビが入り出し、その黒い鎧から無数の炎が吹き出して来た…その後、黒い鎧は全てサラマンダーから剥がれ落ち、炎炎さが更に増したサラマンダーが怒りに満ちた表情で飛び上がって復活した!!


なんと怒りに振るえるサラマンダーは瞳を真っ赤に染め、彼を苦しめたイノリスに対して鼻息を荒くして睨み付けていた。


『ギューーーーウ』


「まずい…殺される…」


そして次の瞬間…サラマンダーの全身から吹き出していた炎の色が青色に染まり…サラマンダー本体からはみ出す程の巨大な火柱を放出した…


「…」


息を吹き返したサラマンダーから放たれた巨大な火柱に飲み込まれたイノリスは、自身の死を確信していた…しかし彼女は死んではいなかった…


「僕は死んだのか…いや、死んでない?」


サラマンダーは発生させた火柱によりベースキャンプ跡地がさらに焼け野原になってしまった。強力な火柱により地面さえも燃えている状況で、なぜかイノリスの体は一切燃えておらずピンピンしていた。


『!?!?』


「ジエル様…助けに来てくれたんですね?」


「よく持ち堪えてくれたわね!イノリス!…何とか完成したよ」


自身に満ち溢れたジエルが颯爽とイノリスの目の前は現れた。しかも、絶体絶命のイノリスをお姫様抱っこで救出していた。


危機的状況にも関わらず、ジエルにお姫様抱っこをされて色んな意味でドキドキしていたイノリスは、今自分が置かれている状況が理解出来ずにただ目をパチクリするしか出来なかった…


颯爽と登場したジエルは、自身に備わった変化を淡々とイノリス解説してあげた。


「まだ見た目は変わっていないけど、火耐性は通常時の3倍あるのよ!だから安心して私たちの戦いを見届けて頂戴!…じゃあ!ちょっと暴れてくるから、イノリスは巻き込まれない様に遠くの方までに逃げといてね」


ジエルは、お姫様抱っこをしていたイノリスを優しく地面に降ろしてあげた。そんな紳士的なジエルは、遠くへ走っていくイノリスを見送ると、自信に満ち溢れたその表情で自身と対面するサラマンダーに指を差した。



「そろそろ”あれ”が体に馴染んだ頃だし、この際カッコよくセリフありでやってみようかしら…」


そう告げると…ジエルは一回瞳を閉じ、その後ゆっくり大きな瞳を見開いた。


「我が名は、太陽の勇者ジエル・インへリット!我の名の元にその光、集まりいでよ…そして、我が魔属と一つになりて新たな魔属生み出したまえ…」




「照れせ!太陽憑依ソル・フレイヤー



『ドドン!!』


ジエルVSサラマンダーは最終局面へと突入する!


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