チームワーカー
・所持金のカンスト…PMで上・上・左・左・上・左・スタート・セレクト。
・図書館ミニゲームで満点…制限時間残り1分で出現するゲームマスターの隠しコマンドを選択する。
・アイテム増殖…アイテムボックスの中にある増殖をしたいアイテムにカーソルを合わして、R1を押しながらセレクト、▲●✖️■を順番に押す、最後にR1とセレクトを同時に押す…
(…はぁ…全然分からね〜!PMって何!?セレクトボタンってどうやったら押せるの!?)
(せっかく裏技の本手に入れても、この世界でどうやってコントローラーのボタンを代用すればいいんだ!今、俺が理解出来てるボタンは、●と✖️とスタートボタンだけだぞ!コレだけじゃ裏技を成功させるアクションが足りなすぎる〜…それに、アイテムボックスって一体何処に存在してるんだ?そもそも、主人公じゃない俺が扱えるのか?そうだ!ジエルさんは勇者…タイミングを見てジエルさんアイテムボックスについて聞いてみよう!)
『…』
『…………』
ー グシップの街から帰還した日の夜…青年は悶々としていた…
ゲームの世界に迷い込み、死ねたびにゲームの初期画面に戻されてしますプレーヤーの青年が手に入れたこの世界で優位に立ち回れる裏技が載った『赤い本』…その本には、このゲーム世界の民には解読出来ないが、ゲームをプレイしているプレイヤーには理解出来る言語で記載された『プレーヤーの為の攻略本』であった。
ジャンク屋の店主によると、青年達が訪れた1日前にハットを被った老人が赤い本に似た『黒い本』を持ち帰っていったそうだ…
この世界に裏技本は複数存在し、記載されている内容には違いがありそうだった…
その理由は、ゲーム内で死亡した青年がタイトル画面に戻され、魂だけの存在になっていた時、自分の記憶から裏技情報を取得したいた…その時に得た情報では、二周目で使える裏技『ストーリー・アンロック』は青年が今現在手に入れた『赤い本』には記載せれていなかったからだ…
ー 青年は推理した…記憶な中の現実世界で目にした裏技の内容は、ゲーム内で取得出来るものが纏められて掲載されていたのでは無いかと…結果、この世界の何処かに散らばる『色の付いた裏技の本』を青年は『CTブック』と名付け、非力な自分がこの世界で器用に立ち回る為に必要なコレらを集める事を優先順位の上位に設定する事にした。
考える事が多い青年は、考え事と体の痛みで寝れずにいた…
(イテテ…さっきはボロクソにやられたな…このままじゃ二日後のダンジョン探索に選ばれないかもしれないぞ…はぁ…悩みは尽きないな…)
青年は徐にベットから立ち上がり、道具屋でジエルに買って貰ったアイテムを入れる為の袋に、机に置いておいたアイテムを複数を詰め込み、ジエル達に気付かれないようにこっそりと自宅の外へ抜け出した…
ー 8分後…
「もう一度ここで自主練習だ!」
青年が立ち止まった場所は自宅から600メートルほど離れた場所にある、ジエルお手製の練習場であった。
「またここに戻って来た事で、イノリスにぶん殴られた顔の痛みが疼き出すな…」
青年は、自身の左頬を押さえながら、グッシップの街から帰還した後に行われた模擬戦闘を思い出していた。
『アンタさ〜。本当にブラックドラゴンを倒す寸前まで追い込んだクロコなの?アンタの強さは、村人に毛が生えたようなもよ』
『…』
「イノリスの奴め!あの時は言いたい放題言いやがって!俺だって訓練すれば、レベルアップ出来るはず!」
青年はブツクサ文句を言いながら、鞄からあるものを取り出した。
「テレテレッテレ〜」
「パチンコ〜!」
青年は唐突に低い声を使い、袋の中からジャンク屋で手に入れたパチンコを取り出した!!
「戦い慣れしているイノリス対抗するにはコレだろ!」
(やっぱり、俺と言うキャラクターの最大の強みはアイテムを駆使した戦闘スタイルだよな!)
青年はもう一度、袋から石が詰まった小袋を取り出した。
「こんな石ころでも、何かの役に立つもんだよな」
青年は袋から丸い石を取り出し、パチンコのゴム紐の中央部分にある皮の部分に石を引っかけた…そして、ゴム紐を力強く牽引し、近くにあった丁度いい大木に狙いを定めた。
『ギシギシ…』
そして、弾性エネルギーを利用し、パチンコに装填した丸い石を見事に大木に命中させた。
『ばっちん!!』
「よし!当たったぞ!このパチンコを使いこなすことが出来れば、武器が装備出来ない俺の最大の”武器”になるぞ!」
青年はパチンコの精度を上げるため特訓を何回何回も繰り返した…反復練習を繰り返した結果、青年はただのアイテムの一つに過ぎなかったパチンコが自身の体に馴染むのを実感していた…
「ジエルさんは!俺が助けるんだ…」
ー 30分後…
「この調子ならアレを使いこなせそうだ…」
青年は突如その場で回れ右を行い、練習場と林との境界線上に存在していた細長い岩に狙いを定めた…青年は軽く微笑むと、袋から雷魔のカケラを取り出した。
「この雷魔のカケラをパチンコに装填して飛ばせば、俺も疑似的に魔法を使える事になるはず…」
(ブラックドラゴンとは合計3回戦う羽目になったが、結果的にドラゴンの行動パターンが理解出来た!…元の世界ではハンター系のゲームをやり込んでいたお陰で、アクションゲームのノウハウが脳内に染み付いていた…そのお陰であって、あの時はたまたまブラックドラゴンを追い詰める事が出来た!でも今回の敵は、行動パターンが予測しずらいイノリスが相手…ちょっとやそっと自主練習じゃアイツには敵わない…)
(ダンジョン攻略まで残り2日…それまでにパチンコと魔石を組み合わせた攻撃方法を修得しないとイノリスには勝てない!)
『…』
青年は、Y字パチンコ本体に結び出ているゴム紐の中央に器用に挿入された皮で出来た装填口に、形が不規則な雷魔のカケラをセットした
(何故か、練習用で使っていた石の方が丸かったな…もしかしてあの石って道具用に加工されている石なのか?…まぁそんな事はどうでも良いか!)
青年はパチンコのゴムを明いっぱい引き、目標物の細長い岩に狙いを定めた…
(うぅ…中々カケラが装填口にフィットしないな… まぁ…しょうがない。イッチョやってみるか!)
「よし!取り敢えず…行け!」
『…スッか』
「…あ!外れた!?」
『ゴッツン!』
『ビリビリビリ〜』
「…うん?何かに当たったか?」
青年が撃ち放った雷魔のカケラが目標物の細い岩から大きく的を外し、林の奥にいた何かに直撃していた…
『ドドド〜』
「やばい!何かがこっちにやって来るぞ」
『ドドドド〜』
『ザ…ザザザ!!』
『!!!』
「ウガーーー」
「うぁー!なんか出た〜」
青年が放った魔石の攻撃により、黒焦げになった三つ目のクマに似た魔物が林の中から飛び出してきた!!
青年は驚きの余り、足を滑らし後方に勢い良くすっ転んでしまった…
『ツッルン』
『ごっちん!』
『スン…』
青年は運悪く、地面に転がる自身の丸い石に頭をぶつけ、その場で意識を無くしてしまった……。
「…俺って…いっ…た…い…うっ」
『……』
ー 次の日の朝…
「イテテテ…こ…ここは?俺は一体?」
青年は、見知ら無ベット上で自身の後頭部の痛みで目が覚めた。
咄嗟に自身の右手をベットの床に添えた青年は、ゆっくり起きあがろうとした時…『むにゅ!』っとした触覚に遭遇した。
「え?…むにゅ?」
青年が感じ取った”暖かいそれ”を確認する為に青年は”それ”が存在する自身の右側を覗き込んだ…
「ん〜?君か?…やっと目が覚めたのかい?」
何と青年が掴み取った”それ”は、寝巻き姿のジエルの豊満なバストであった!
「わわわぁぁ…ジ…ジエルさん?ここは一体?俺に何が起きていたんだ?」
事故的に掴んでしまった穂満なジエルの魔石?から青年は咄嗟に手を離した。青年は驚いた勢いそのままに、今度は自身の左手を自身が寝そべるベットの床に添えて見せた…
『むにゅ!!』
「…へ?また?今度は誰だ?」
『!?!?』
仰け反る青年の目に飛び込んで来た人物は…これまたジエルとお揃いのセクシーな寝巻き姿のイノリスであった。
「お…お前もか〜!?!?」
右手にはジエルの魔石?左手にはイノリスの魔石?…セクシー過ぎるハプニングの連続に、現実世界では人生経験豊富な方に分類されるべき人間であった青年も、漫画の様なラッキースケベの連続に頭が真っ白になってしまっていた…
(オイオイ!何だこのラッキースケベは? 俺は深夜アニメの世界にでも転生したのか?)
ベットの上で必要以上にあたふたする青年の挙動に、青年左側で寝ていたイノリスが突如目を覚ました!
「お…おはようございます。ジエル様…」
「ん?」
「ジエル様?……ん?」
『!?!?』
イノリスは、青年に鷲掴みにされている自身の姿を凝視すると、眠気まなこだった表情が一瞬のうちに鬼の形相に変貌した…
「…は?はぁぁぁあ?」
「………い…いやーーー」
『ボッコ!!』
気づいた頃には青年の顔面にイノリスの鉄拳が深くめり込んでいた…
『メリリリ……』
『ダメだ…一瞬で意識が飛びそうだ…』
『……』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『……』
『イテテ………』
ー 最高と最悪がひしめき合った、あの事件から1時間後…あろう事か、一度で二度の目覚めを繰り返した青年が朧げな記憶を頼りに、意図し無かった睡魔の正体を頭に思い描いていた…
「またベットの上…これデジャヴじゃないよな…?」
目覚めた青年は、無意識に自身の顔面を手で押さえながら、ゆっくりベットの上から起き上がった。
「ここは?…」
「やっと起きたわね…体、大丈夫!?」
深い眠りから目覚めた青年の前に、寝巻き姿ではないジエルが心配そうに青年の顔を覗き込んだ。
「ジエルさん?俺は一体?この世界は何周目の世界ですか?」
「ハハッは…面白い表現をするのね君わ!まぁいいわ!…記憶はある!?どこまで覚えているの?」
ジエルの問いかけに朝から意気消沈気味の青年は、身体中の痛みに耐えながら、自身が憶えている最後の記憶をジエルに説明した。
「夜に、自主練のため練習場で特訓をしていたんです…ですが、突如三つ目のクマに襲われて…そこから記憶が無いんです…」
「…なるほどね!そこまで憶えているのなら十分ね!…ちょっと〜!イノリス〜?入って来なさい?」
『…ヒュ〜…パタン』
ジエルの呼びかけに部屋の外で待機していたイノリスが神妙な面持ちで、意識を失っていた青年を待機させていたジエルの寝室へと入ってきた。
「さっきは、急にぶん殴って悪かったよ…けど…魔グマから助けてあげた事を踏まえたら、チャラだよ」
「ちょっと!イノリス!?もっと愛想良く出来ないの?」
「…まぁいいわ!昨日の夜、就寝する前に私の口から『深夜に一人で出歩いては行けない…』『夜中に行動範囲を広げ、活発に行動を開始する魔物も多く存在する…』と、私は釘を刺していたはずよ!」
「それなのに君は、私の忠告を無視して自主練を開始していた。君が一人で自主練を考え、行動を起こした事は、とても素晴らしい事よ!…けど…私の助言を聞かずに深夜に出歩いた事は決して褒められた事ではないわ…今考えると『赤い本』を手にしてからの君は、ずっと上の空だった…それも貴方の注意力を低下させた要因の一つだったと私は考えるわ!」
「…はい。全てジエルさんの言う通りです。すみませんでした…」
ジエルの指摘通り、青年は裏技が載っている『赤い本』の事で頭がいっぱいであった…その為、ジエルの助言を話半分に聞いていた事は紛れもない事実であった。
全ての罪を認め、仲間の輪を乱した自身の行動を深く反省し、青年は、迷惑を掛けたジエルとイノリスに頭を下げ謝罪をした。
青年の謝罪を聞き終えたジエルは、敵に襲われた青年を助けたイノリスに、青年が1回目の意識を失ったあとの出来事を青年に説明する様に促した。
「イノリス!貴方が魔物から彼を助けた経緯を彼に説明してあげて!」
ジエルも昨晩からゴタゴタで、イノリスが青年を助けた経緯の擦り合わせを行はずに今日に至っていたのだった…
「僕はずっと奴を監視していました!理由は、奴がこの家を抜け出すんじゃ無いかと考えたからです!」
「え?どうしてそんな事を?」
「奴は僕との組手で、僕にボコボコされた事により戦意喪失をしたんじゃ無いかと考えました。その後、奴が外出したその時に、僕の脳裏に自分の保身の為にジエル様を裏切ってこの家から逃げ出す奴のイメージが脳内に浮かんで為、奴を尾行する事にしたんです」
(…戦意喪失したのバレていたのか…はははぁ!それにしても、全く信用されていないだな俺…)
青年は、イノリスがジエルに対する忠誠心から自身を監視するといった行動をとった事に、感服すると同時にイノリスが自分に抱いているであろう強い疑念を肌で痛感していた…
しかし、青年に対するイノリスの感情にとある変化が芽生えていた…
「ですが、尾行した事によって分かった事もあります!」
「奴は自分の為じゃなくて、イノリス様のために強くなろうとしていました…奴は、特訓中に幾度となく『ジエルさんは俺が助ける』と自分に言い聞かせながら、特訓を繰り返していました…」
(やべー!声出してたのバレてた!?)
青年はイノリスの暴露により顔が真っ赤に染まっていた。
「だから…僕はお前を認める!!」
(イノリス…お前…)
「…でも、認めたのはその’ジエル様への愛’だけだ!肉体面では一切お前を認めない!僕は懸念している…弱いお前をダンジョンに連れて行く事により、お前がジエル様の足を引っ張り、その結果我ら新エース・ハインドが未熟なお前のせいで全滅を余儀なくされる最悪の未来を…」
「…だから僕は、今のお前を連れて行くことは反対だ!」
青年は、イノリスが自分に対する気持ちの変化を正直に話してくれた事により、ダンジョン攻略への心構えが『ジエルの力になりたい』から『大切な仲間を守りたい』へと心境の変化を意識的に行った。
「おい!イノリス!俺はその発言を叱咤激励として受け取る事にしたよ!最終判断まで、あと2日ある!俺はそれまでに、必ずみんなを認めさせてやる…いいか!必ずだ!!!」
ジエルは、正直で素直な心の持ち主である青年に大和魂に近い感情を感じていた。
『ジーン』
「私の知らない所で、そんな事件が起きていたのね…イノリスが血相を変えて君を抱き抱え、自宅へ戻って来た時は、さすがの私も動揺したわ!結果、イノリスの素早い判断のお陰で、早急に君の怪我を手当てする事が出来た!まあ、傷ついた君に動揺した影響もあって何の躊躇いも無く君を私の寝室へ運び入れて貰ったの!そして色々あって…3人で同じベットに寝る事になったの!」
「最初は私の隣で寝ていたイノリスが気づいたら君の隣で寝ていたのは正直驚かされたわ!」
「すみません…僕、寝相がとても悪いんです…」
「そうだったね…まぁこんな事も一緒に暮らしてみないと分からないものよね!これからもっとお互いを知る機会が増えるし、色々な発見は私にとってもみんなにとってもプラスになると私は考えるわ!今すぐ仲良くなれとは言わないけど、近い将来に私たちは今以上により良い家族になれるはずよ!勇者である私が保証するわ!」
今この場にいる3人は、それぞれの熱い思いをお互いに共有認識し、確認する事が出来た。短い時間ではあるが、3人は目には見えない家族の絆を感じた瞬間でもあった。
『グ〜〜』
「!?!?」「お腹の音?」
「ご…ごめんなさい。これ…俺です」
突如、部屋中に響き渡った大きなグル音に青年以外の二人は思わず笑ってしまった。
「はははは!!ごめん!ごめん!突然過ぎてツイ」
大胆に笑うジエル。口を手で押さえ笑うのを必死に押さえ込むイノリス。照れながらも自分自身でも笑ってしまう青年。
三者三様の捉え方をする新生エース・ハインドの面々は、繋がりと言う名の絆が芽生えた事が何よりも嬉しかった。
「うん!ご飯にしましょう!私がメインで朝食を作るから、君たちは私のサポートをしてくれるかしら!?」
「はい!喜んで」
ジエルの掛け声で3人は朝食の準備に取り掛かった…
ー 30分後…
「ご馳走様でした!っと」
「じゃあ!この後は、訓練場で2対1の戦闘訓練を行うわ!もちろん私が1で、君達が2ね!今回は君達のチームプレイを見せてもらうわよ」
3人はみんなで作った朝食を堪能し、その後ジエルの指示の元、いつもの訓練場で前回と違った形式の戦闘訓練を実施していた…
「はぁはぁ…やっぱりジエルさんは半端ないな!さすが勇者だな…」
二人がかりでジエルに挑んでいる青年とイノリスだが、常に余裕の表情のジエルには指一本も触る事が出来ずに、体力だけが無常に減少してゆくのだけだった。
「二人ともどんどん動きが良くなってるわよ!特にイノリス!貴方の戦闘センスはピカイチね!」
「有難うございます…でも、まだまだですね」
ジエルの発言に対して謙遜するイノリスであったが、戦いの素人である青年であってもイノリスの身体能力の高さは直ぐに理解出来た。
「準備運動はこれぐらいでいいわね!今度は二人とも武器を使っても構わないわよ!最終的には私に一撃を喰らわせることが出来れば合格よ」
「はい!」「よし!」
ジエルは、青年達とのウォーミングアップの組み手を終了させ、本番さながら実践練習に切り替えた。
二人は各々事前に準備しておいた武器を取り出した。イノリスは腰に常備してあるナイフを。青年は鞄からパチンコと複数のアイテムが入った小袋を腰に縛りつけた…
「君が使う武器は…パチンコかい?まさか、あのパチンコを武器として用いるなんて考えたわね!」
ー この世界でのパチンコの使い道は、ダンジョン攻略に用いられる補助アイテムの一つに過ぎない品物であった。そんなパチンコの必要性は少なく、使用しなくてもこのゲームのエンディングは迎えられるように計算されていた。実際は、ゲームの完全攻略には必要不可欠なアイテムなのである。
青年はそんなパチンコを自身の柔軟な発想を駆使して再利用する事に成功させた。そんな青年はパチンコの新たな使い道を開拓し、『魔石を効率よく相手にぶつける道具』として昇華させたのであった!
一方のイノリスはというと…入念に手入れを済ませた愛用のナイフを無表情で握り締めていた。そんなイノリスの表情に青年はイノリスの孤独を垣間見ていた…そんな中、青年は徐に素振り始めたイノリスにそっと近付いていった。
「おい!このままじゃダメだぞ」
「はあ?なんだよいきなり?」
イノリスは青年の突飛な発言に、明らかな嫌悪感を青年に向けた。
「武器を手にしても、結果は変わらないぞ!」
「何で素人のお前にそんな事言われなきゃいけないんだ! しかも、まだ武器を使ってジエル様に挑んでもいなんだぞ!弱いお前が諦めるなら分かる…なのに何故、弱くて体力のないお前に詰め寄られなくちゃいけないんだ!そんなの僕の汚点でしかないよ」
青年の発言に対して明らかな嫌悪で青年に威嚇を向けるイノリスであったが、当の本人である青年は、どこ吹く風の如く表情を一切変えずイノリスにとっておきの相談を持ち掛けた。
「俺は戦いに関しては、全くの素人だ。正直に認めるよ…でも、無計画のままジエルさんに挑んでも状況は変わらない事は俺だって分かる…」
「なんでそんな事お前に分かるんだよ」
「いや…もう結果は出てるんだ…けど、負けを認めた訳じゃないんだ…そう!一旦俺の話を聞いてくれ…」
青年の発言はゲームの”決まり事”を理解した上での発言であった。その”決まり事”というのは、自身のステータスの事である…
青年は自分のステータスを自身のメニュー画面で事前に確認していた。メニューとは、青年が目を閉じると確認する事が出来る精神世界の事で、自身のステータスや自身が身に付けているアイテムの詳細なのを確認する事が出来る特殊な空間の事を指す。
青年は、そんなメニュー画面でブラックドラゴンを討伐したあとの自身のレベルは9であり、ジエル達と行っている戦闘訓練後のレベルに変化がない事に気付いていた…
青年はこの数日間で、相手を討伐しない訓練だけでは経験値を上げることが出来ないと理解していた。そう、経験値とは敵を倒さないと取得出来ないのであった…
(この世界の住人は、自分達に課せられた’縛り’を認識していないんだ!その’縛り’を俺の口から彼女らに伝える行為はこの世界の秩序を乱す行為に繋がりかねない…そんな事は俺のプライドが許さない…だから本当は、今すぐにでもこの地域の魔物を倒してレベルアップしたほうが確実に強くなれるし効率がいいのは明白だ。だが、せっかく俺たちの為に時間を割いてくれているジエルさんのメンツを俺は潰したくは無い!)
(だから、ステータスが関係ない魔石を使った俺たちの戦いをジエルさんに見せつけるしか無い!!)
「イノリス!!」
「俺に良い作戦がある!俺を信じてくれ。そして、その先の成功を俺たちの手で掴もう!そう…合格を勝ち取るためにお前のチカラと俺の力を掛け合わしてくれないか?」
青年は自身の低ステータスを把握した上で、弱い自分達を最大限に活かした戦闘方法を思い付いていた。
「…」
イノリスは青年の魂が宿る言葉と、青年が昨日行った努力ある行動を加味し、彼に委ねる事を決断した。
「…分かったよ!取り敢えず、作戦教えろよ! もしヘンテコな作戦だったら、速攻で却下するからな!」
『ニッコ』
「もちろん構わないよ」
青年は、イノリスの返答に思わず笑顔が漏れ出してしまった。
『ゴニョゴニョ…』
青年はイノリスに軽く耳打ちを済ますと、イノリスは青年の作戦に対して軽く頷いた。
「よし!俺たちなら出来る」
青年は自身とイノリスを鼓舞し、ジエルへの戦闘体制を整えた。
「…ん?準備出来たみたいね?おや?早速フォーメーションを組んできたのね?」
青年とイノリスのコンビは勝利を勝ち取る為の陣形を整えた。
「ナイフを装備したイノリスが前衛!後衛の青年は、パチンコによる中距離からの援護射撃!さぁ!何処まで私を追い込んでくれるのかしら!?」
『シュッツ』
まずはイノリスが素早い身のこなしで、ジエルとの距離を詰めてきた。
イノリスはダッシュからの連続で突き攻撃を見舞った。しかし、ジエルは難なくイノリスの攻撃を全て避け切り、攻撃が止んだ瞬間に逆にジエルがイノリスへ素手による連続パンチを見舞った。
「…そういえば、彼の姿が見当たらないわね?」
ジエルはイノリスと戦いながら、姿をくらました青年を目で追っていた…
(…やっぱり姿が見えない?てっきり彼が後衛で、イノリスを援護するものだと勘違いしていたわ…そうか!?本当はイノリスが囮で、彼がトリガーだった!…でも彼は何処にいるの?)
『!?』
ジエルは何かの気配を感じとり、すぐさま後ろを振り返った…
『フワフワフワ〜』
なんと!何も存在しなかった景色に徐々に色味が付き、先ほどまで姿をくらましていた青年が何とジエルの背後から姿を現したのであった。
「喰らえ!魔石攻撃だ!」
青年は迅速にパチンコから謎の魔石を勢いよくジエル目掛けて発射した。
『パッチーーン』
『!?』
「よし!この距離なら!」
『……』
『…スッカ』
せっかくの不意をついた青年の攻撃も、間一髪!ジエルが驚異的なハイジャンプで青年の至近距離攻撃をかわして見せた。
「さすがね!君!ジャンク屋で手に入れた、迷彩パウダーを使ったのね」
ー 迷彩パウダーとは、読んで字の如く。自分の体に吹きかける事で数分だけ、敵に感知されずに済むという品物である。主に戦闘を回避するために使われてきた。何と青年はこのアイテムをこの世界で初めて戦闘に応用して見せた。
「本当君って人は、私が考え付か無い様なアイテムの使用方法を思い付くのね!流石に、私じゃなかったら今の至近距離攻撃はかわせなかったでしょうね?でも残念!君が飛ばした魔石のカケラは相手に着弾しないと効果が発揮されないわ!どんな魔石を飛ばしたか知らないけれど、当たらなかったら意味ないわよ…」
(よし!そろそろ地面に着地するわよ…)
『…!?』
「…いや?まずいわ!!」
『ドドド…』
ジエルが青年の攻撃をハイジャンプでかわした同じタイミングで、イノリスはとある行動を開始していた…
「ごめんない!ジエル様!でも…勝たしてもらいます!」
なんと!イノリスは青年からこっそりあるものを受け取っていたのだった…
「喰らえ!アース!!」
イノリスは、ジエルの着地地点に土魔のカケラを投げつけた。すると!土魔のカケラが地面にぶつかり、土魔のカケラが粉々に砕け散った。
次の瞬間、粉々になった魔石の破片と地面の一部が融合し、大量の土を生成し始めた…そして、魔力を帯びた大量の土が無防備なジエルに一気に襲いかかった。
『ガッシッリ』
イノリスが発生させた土魔法が空中で身動きの取れない無防備なジエルを捕獲したのであった。
「…やった!捕獲に成功したわ?」
捕獲に成功したイノリスは、安堵の表情を浮かべ、一瞬に気を抜いてしまった…
「イノリス!まだだ!一瞬、捕獲しただけで、まだ一撃を喰らわしてないぞ!そのまま攻撃を繰り出すんだ」
土魔法の影響でジエルの手足が土で固められ、身動きが取れるのは口だけであった。しかし、その動かせる”口”が魔法を扱える人物にとっては最大のウィークポイントなのであった!
「まずいぞ!魔法を詠唱している…」
「でも大丈夫!ジエルさんが使えるのは雷魔法だ!土魔法は雷に強いから、そう簡単には土魔法の拘束を解除出来ないはずだ!?」
青年の的確な判断と魔法の知識に、拘束せれているジエルは思わず感心と恐怖心を青年に抱いていた。
「…君ってやっぱり面白いね?知ってる情報と知らない情報に差がありすぎないかい?…君?一体何者…」
「…まぁいいわ!でも、もう遅いわ!悪いけど手加減できないわ…」
「はーー。ハッ!!!」
イノリスが拘束されたジエルに襲い掛かろうとした瞬間、ジエルは赤白く発光し…気づいた時には、ジエルの拘束はとかれ、近くにいたイノリスは衝撃で腰を抜かしていた。
「…一体何が起きたんだ?」
驚いた青年は近くを見渡してみると、地面の一部がうっすら燃えていた。
「地面が燃えている?…もしかしてジエルさんって、火の魔法も扱えるんですか?」
「その通り!でも今使ったのは、火魔法とはちょっと違うの!厳密に言うと、勇者だけが扱える魔法って感じかな!」
ジエルの圧巻の立ち振る舞いによって青年とイノリスの共闘作戦は失敗に終わった…
今回の戦闘によって生まれた新たな疑問を解消する為に、青年は魔法についての素朴な疑問を師匠であるジエルに問いかけた。
「そうだジエルさん!?ジエルさんに聞きたい事があったんです!勇者の事とか魔法の事とか…とりあえず、俺は何時になったら魔法を覚えるんですか?」
「…」
何気ない青年の問いかけに、一瞬表情が暗くなったジエルだったが、すぐに気持ちを切り替え一瞬で笑顔を取り戻した…そして、穏やかな表情で青年に語りかけた。
「せっかくだから、またお風呂でお喋りしながらその質問に答えるんじゃダメかしら?」
「いやあ…流石にお風呂は緊張しますよ」
「そう言わずに!ね!お願い」
「…分かりました!恥ずかしいですけど、ジエルさんにお願いされちゃうと、断れないですよ」
「よし!じゃあ決まりね」
「…」
ジエルは、ジエルなりに青年の質問をはぐらかす理由があった…
一方のイノリスはというと、ジエルを追い詰めた事によって生まれた自信を絶やさない様に、ジエルとの戦闘訓練と続きを行うように直訴した。
「ちょっと待ってください!もう一回僕たちと戦ってください!もう一回やれば、きっと合格できます」
イノリスが先程の勢いそのままに、一度失敗した訓練の再挑戦をジエルに促した。
「何言ってるのイノリス?二人とも第一試験合格よ!厳密に言うと、私を拘束した時点であなた達の勝ちよ!おめでとう」
「本当ですか?これでダンジョンに連れてって貰えるんですね?」
「ごめんね?それはまだ決めかねてるの?最終決断は、明日の試験で決定するわ」
ジエルの判断にイノリスはガックリ肩を落として落ち込んでしまった。
「ちゃんと説明しないで、ごめんなさいね!最終試験は、彼とイノリスで一対一で戦ってもらって、合格者を決めさせてもらうわ」
ジエルの『一対一』と言う発言に、青年とイノリスの間に妙な緊張感が走った。
「そんな事はいいから、早くお家へ帰りましょう!私達にはお風呂が待ってるのだから…ね!」
ジエルの帰宅宣言をきっかけに、3人は戦闘訓練を行なった場所から一旦帰還した。
そんな自宅に帰ってきた3人は、この先に待ち受ける各々が直面する問題に否応無しに向き合おう事になるのであった。