曝け出す勇気
「さあ!一緒にココから飛び出そう!」
勇者ジエルは旅立ちの決意を固めた青年と、不安と喜びを同時に抱くクロコの女性に手を差し伸べ、二人はその期待に応えるようにジエルの勇敢なその手をしっかりと掴んでみせた。
「では早速、任務に出発するわよ…」
「ワーム!」
ジエルの言葉に反応するように、ジエルが身に付けていた左耳のイヤリングがその場で粉々になった…
その後、ジエルと彼女と手を繋ぐ2人の周りに黒い結界が出現した。
「学園長先生!任務はしっかり達成させますから、今日の所は帰ります!!先輩もお元気で!」
ジエルはそう言い残して、クロコの二人と共に結界に吸い込まれる様にエスペランス学園から旅立っていった!
「転移アイテム…希少なものをよくも簡単に使い捨てるわね!言いたいこと言われる前に帰っちゃいましたね!学園長先生…」
「まぁ済んだことはしょうがないさ!大丈夫…彼らとはすぐに会えるさ…」
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小高い山の麓に一軒の平屋がどっしりと構えていた。その平家の玄関の前にジエルを含む3人が学園から転送されてきた。
「よし、着いたわよ!我が家へようこそ!」
両手を広げ、青年達を自身の拠点へ歓迎するジエル。
「この家が今日から貴方達の家よ!気にせず上がって頂戴!」
「じゃあ!お邪魔しま〜す」
家の中に素直に入ろうとする青年とは対照的に、女性のクロコは足取りが重かった。
『!?』
「貴方の意見を聞かずに外へ連れ出した事、悪かったと思っているわ!けど…貴方は私の手を握ってくれた…貴方の選択が間違っていなかったと、これから私が証明するわ!だから私を信じて付いて来てくれる?」
「…はい!ジエル様」
「これからは畏まらなくてもいいわよ!だって貴方と私は同じパーティーなのだから!だって、仲間に上も下もないのだから!!」
「はい!出来る限り努力します」
ジエルの深い愛情に感化されたクロコの女性は、心に残った蟠りを飲み込む様に自身が進むべき道を確信した。
ー 何はともあれ、3人は激動のドラゴン討伐を終え、改めて新たな門出を迎える事になった。そして、青年の新たな拠点である『ジエルの家』でドタバタな共同生活が始まろうとしていた…
「早速だけど私、やる事があるから二人はココで会話でもしながら休んでおいてね」
ジエルの誘導により二人はリビングのソファーに腰掛けると、お互いに話しかける素振りも無いままに無言で30分間ソファーに座り続けていた。
(オイオイ、コイツ全然俺と目を合わせようとしないぞ!明らかに俺には心を開いてくれていないぞ!どうなってんだ!)
気まずそうな青年を他所に、顔色と姿勢を一切崩さずにソファーに座り続けるクロコの女性がそこにはいた…
そんな重い雰囲気のリビングに半袖半ズボン姿で髪の毛を結んだ部屋着姿のジエルが姿を現した。
「二人ともお待たせ!お風呂の準備だできたわよ!君から先には行ってらっしゃい!」
「は…はぃー?お風呂ですか?」
何の脈絡も無く突如青年にお風呂を進めるジエルの姿に青年は、ある不安材料が頭をよぎった…
「俺ってそんなに臭かったですか?」
青年はこの世界に降り立ってから一度も体を洗っていなかった事を思い出した…そして、自分の汚れた体に鼻を近づかせ『クンクン』と匂いを嗅いで見せた。
「違う違う!そういう意味でお風呂を沸かしたわけじゃないのよ!私がお風呂に入りたかっただけなの!」
ジエルは自身の言動によって疑心暗鬼になってしまった青年に対して明らかな動揺をジエルは隠せずにいた。
「す…すみません。困らすつもりで言った訳じゃありませんよ!」
『ソワソワ…』
青年はこの場の気まずい雰囲気に耐えられず、指示された脱衣所へ小走りで向かった。
『……』
青年は脱衣所で自分の汚れた洋服を颯爽と脱ぎ捨て、浴室に備え付けられた丸いミラーに映る自分自身の顔を初めて目の当たりにした…
(俺ってこんな顔のキャラだったのか?意外と現実とか変わらないかも…?)
鏡映る青年は、ツンツンヘアーの黒髪でブラウンの瞳が目を引く凛々しい青年であった!
青年は自身の顔を確認した後、自身の体に刻まれたとある遺物を認識した…
「…何なんだこれ?こんな模様が俺の体に彫られていたのか?」
青年は自身の体に無数の不思議な模様が刻まれていることに初めて気がついた…青年は自分の身に起きていた事実に動揺しつつも、きっとこの世界の人間には当たり前の事なのだと自分に言い聞かせ、一旦この事実を飲み込む事にした。
その後青年は、浴場に移動し石鹸で全身を細かく洗い、ドラゴンとの死闘で付着した汚れを全て水に流した。
体の汚れを全て洗い流す事に成功した青年は、湯気が立ち込める広めの浴槽に身を委ね、これまでの苦労を思い出しながら一人物思いにふけていた…
(やっぱり風呂はいいな〜辛い事の方が多いけど、暖かい風呂に浸かるだけで気分がリセットされるだよな…俺はまだ、この世界の秩序に順応出来ていないけれども、ジエルさんが居てくれるのであれば何とか乗り越えられそうだ…)
青年が湯船で疲れ切った体を癒していると、脱衣所から思いも寄らぬ人影が映し出された。
『ガラガラ〜』
『!?!?』
何とそこには、バスタオルを巻いたジエルとクロコの女性の姿があった。
ジエルは青年の存在を認識していないかの様に、徐に体を洗い出した。
「ちょ…ちょっとジエルさん!? お…俺出ます!」
現実世界ではあり得ないシチュエーションに青年は、その場から逃げ出そうと試みてみたが…
「ん!?何でそんなに照れているの?だって私達は家族なのよ!見られて恥ずかしい物なんて、この家には無いわよ!特にお風呂場は裸を見せてナンボの場所よ!」
青年は、ジエルの純一無雑な考えに何故か納得させられてしまった。その後、ジエル達が体を洗い終えるとゆっくりと青年が浸かる湯船に足を踏み入れて来た。
(ど…どうしよう?俺の人生35年…初めての混浴だよ!き…緊張する〜)
精神年齢35歳の青年も流石に、ゲームの世界の女性だと理解しつつも完成された美貌を持つ彼女らとの混浴にたじろいでしまっていた。
「はぁ〜やっぱり我が家のお風呂は最高だわ」
リラックスムードのジエルに対して、クロコの女性はまだ緊張の表情が拭えずにいた。
「お…風呂好きなんですね?」
青年は目線を下方に向けたまま、自身の存在がこの風呂場で一番の違和感を醸し出している事を理解しつつも、まずは当たり障りのない会話でこの場の空気を変えようと試みていた。
「勿論大好きだよ!お風呂に浸かれば、その日の心と体の汚れを洗い流せやしないかい?何と言って私達は今日から家族なんだ!家族とは全てを曝け出して、初めて家族と呼べる存在になれると私は考えているんだ」
ジエルなりの芯の通った考えに、何回も頷く青年であった。
「所で…貴方達の自己紹介はまだだったわね」
そんな中、全てを曝け出したジエルとは対照的にタオルで体を隠したまま浴槽に浸かるクロコの女性にジエルは気さくに声を掛けた。
「最初は貴方!…あなたのお名前は?」
「私の名前は…No.37…」
「違う!違う!…本当の名前!」
「……」
「…イノリス……イノリスと言います。歳は、17歳です」
イノリスと名乗ったクロコの女性は、黒髪で銀色の瞳を持ちそばかすが印象的で、落ち着いた雰囲気醸し出している17歳の女性であった。
「イノリスっていうのね!素敵な名前ね!よろしく!イノリス! あと、17歳って事は私の一個したね!」
「それじゃあ!次は君ね!」
今度は青年が自己紹介をする番になった。
「ちなみに名前を番号で言うのは反則よ!」
終始和かなジエルの姿に、彼女の問いかけに対しての回答に頭を悩ませる青年は、とりあえず本当の事を話そうと決断したが…
「名前は…こ…」
(いや…やっぱりやめておこう…)
「名前はありません…実は、ドラゴンとの戦いの前から記憶が無いんです」
青年は、変にオリジナルの名前を考えたり、この世界にダイブする前の自分自身の事を話す事を諦めた。何故なら…大好きであったこのゲームの世界の世界観を壊したくなかったからだ。青年はギリギリ罪にならない程度の嘘を付き、自身がこの世界の異物では無く一つの歯車として生きて行こうとこの時、心に決めたのであった。
「なるほど…だから時折、噛み合わない事が多かったのね」
(…そんな事思ってたのか?ちょっと傷ずつくな〜はは!)
「…あの!ちょっと質問いいですか?」
「ん!?いいわよ!イノリス!何でも聞いて」
突如、これまで沈黙を続けていたイノリスが神妙な面持ちでジエルに質問を投げかけた。
「どうして私たちの契約書を破棄してくれたんですか?特に僕とジエル様には、何の接点もないのに?…確かにジエル様の言葉で僕は心を動かされた…そして今、こうして貴方の隣に僕がいる!…だけど、本当に理由を知りたい。どうして僕を選んだんですか?…他のクロコでも良かったんじゃないの?」
思い詰め、卑屈になるイノリスに対して当のジエルは、慈愛の眼差しでイノリスに対する自身が胸の内に秘めていた本当の思いをイノリスに伝えた。
「実は…私、昔からイノリスの事を知っていたの!」
「…え?…ウソ」
「そう…私がエスペランス学園に入学した時から貴方を知っていたわ」
ジエルはイノリスに対して穏やかな眼差しで、自身とイノリスの出会について語り出した…
「嘘ではないわ!6年前…あなたはこの学園で迷子になっている私に優しく声を掛けてくれた…そんなあなたの優しさに私は救われたの…」
『!?!?』
「でも、私と貴方には越えられない壁があった。 それは、あの学園に存在する暗黙の了解の事…」
「当時のは私は何も知らなかった。あの学園の地下でひっそりと暮らし、学園を陰で支えるクロコ達と学園関係者との間に見えない壁かある事を…クロコ達は、私たち生徒が見ていない所で様々な作業をこなしてくれていた…私たちの食事の世話・学園の教室や図書館などの清掃…」
「そのほとんどが私達と接触しない様に、神経を削りながら完全なる裏方として学園を守ってくれている事を!私はそんな事情を知らずに、私はあなたに助けを求めた。それに応える様にあなたは私に救いの手を差し伸べてくれた!イノリスと別れた後、私はあなたにお礼が言いたくて学園中を探したわ!けれど、あなたは見つからず、学園関係者も誰も私の問いに応えてくれなかった」
(なるほど!だから俺達はクロコと呼ばれているんだな…もしかして『暗黙の了解』ってゲームあるあるなんじゃないか?まぁ!プログラムって言っちゃえばそれまでだけど…例えば壊れた家が次の日には完全に修復されてたり、割った壺の代わりにすぐに新しい壺が出現したりする’アレ’って全てクロコのお陰なんじゃ?ゲームの世界が現実に存在していたのなら、あり得ない設定では無いな!)
青年は、リアルの様でリアルじゃないこの世界の仕組みに改めて考えさせられていた。
「月日が経ち、私はあの学園の闇に直面した…それがクロコと呼ばれている人々の正体が、奴隷である事を…彼らは奴隷としてこの学園に買われ、身を潜めながら長年この学園を支えて来た事を私は知ってしまった…学園では奴隷の人々をクロコと呼び、『彼らの人権を尊重した上で仕事を提供している』『彼らとは利害が一致している』と世間的には公表はしているの…けれど、クロコ達は許可なく学園の生徒や職員に接触する事・会話をする事を禁止させているという噂をいくつも耳にしたわ」
「私はその情報の真意を探る為、学園中の関係者に聞き込みをしたは… 結局の所、これは学園だけの問題では無く、奴隷に関する世界のルールを改変しなくてはこの問題の解決に至らないのだとは理解できたわ…力のない私は奴隷達を解放するために、世界を動かす力=勇者の力を得ようと私はこの学園で努力を重ねたの」
「そんな私にチャンスが巡ってきたの」
「一年前…我がエスペランス学園に勇者候補生が存在していると、神からのお告げがあったの!校長先生は、女子生徒の主席=エースである私と男子生徒のエースであるラッシュとを戦わせて、勝った方が勇者候補生に相応しい存在なのだと私たちに伝えた…そして、戦いの結果…私は学園内で行われた勇者候補生を決める戦いに敗れてしまった… そして見事、勇者候補生になったラッシュは真の勇者に成るべく、神聖なる試練の洞窟で勇者になる為の修行を開始したの…その後、見事ラッシュは試験を乗り越え、名実共に勇者を名乗ることになったわ」
「勇者とは、この世界で最も希少な職業であり、限られた人間のみが試験を受ける事が許された特別な存在…そんな憧れの職業であった勇者に、私はなる事が出来なかった…そんな時、奇跡が起きたの!」
「なんと!ラッシュが受けた勇者の試験に私も挑む事が許されたの…そしてあの日…私は夢だった勇者に成る事が出来たの!そんな勇者になった私は、今日というこの日に勇者の特権を使いあなた達二人を解放する事ができた…私のやった事なんて、人によっては偽善にしか過ぎないのかも知れない!たった二人のクロコを解放しただけじゃ何も変わらないのかも知れない…でも私は…私を助けてくれたイノリスや誰よりも勇敢にドラゴンに挑んだ君に、恩返しをしたかった…」
「う…うぅ」
なんとイノリスがジエルの告白を聞き、その場で泣き出してしまった…
「覚えていてくれたんですね…」
初めて感情を露わにしたイノリスの姿に感銘を受け、自ずとジエルもその場で泣き出してしまった…
「うぇーーん」
風呂場で感動を分かち合い、抱き合う二人の女性の姿を必死で見ない様に我慢する青年もそこにはいた…
その後、お風呂を満喫していた3人はそれぞれのタイミングで風呂場から上がっていった…
青年とイノリスの二人はジエルの指示で、ジエルが用意した衣装に着替え、リビングでジエルが戻ってくるのを待っていた…
「お待たせ〜」
「!?」
「二人とものその衣装お似合いね!服のサイズも同じで良かったわ」
「ありがとうございます!でも…僕には少し派手かもしれません…」
「そんな事ないわ!イノリスは本来とても可愛らしい容姿をしているのだから、これぐらい派手でもその衣装に負けないポテンシャルを秘めているのだから大丈夫よ!ちなみに…イノリスの衣装は私のお下がりね!…で!君の衣装は、ラッシュの衣装よ!」
「やった〜」「ゲェ」
ジエルのお下がりを受け取り喜びを表現するイノリスと、苦虫を噛み潰したような表情を無意識に声に出してしまった青年の表情はとても対照的であった。
「イノリスと私は、体型がとても似ていたから、もしかしたらと思ったら、やっぱりピッタリね!…あら!君の衣装のサイズもピッタリじゃない!?その衣装は、ラッシュが旅に出かけた後、彼が自分部屋に置き忘れていった荷物の一部を私が預かっていた物よ!貴方がこの家へ来てすぐに、もしかして昔のラッシュの衣装が似合うんじゃないかなって思って、部屋の奥から引っ張り出してきたの!良かった!貴方もその衣装とても似合っているわよ」
『…………』
ジエルは直感で、不満そうな態度を取る青年の真意を深掘りする事は諦め、今後の活動予定を二人に報告した。
「…取り敢えず、衣装の話はこれぐらいにしましょう!ところで私達、新生エースハインドの最初の任務を私の口から通告させてもらうわ」
今までの明るい表情とは違い、ジエルが醸し出す緊張感を二人はすぐさま感じ取った。
「私達の直近の任務は、マイルストーン鉱山にあるチムニー洞窟の攻略よ!」
「マイルストーン鉱山って?ブラックドラゴンが出現した場所じゃ?」
「そうよ!あの場所は、エスペランス学園から約60キロ離れた場所に存在する”珍しい魔石”が採掘できる有名な鉱山なの!そんなマイルストーン鉱山で強力な魔物が出現したってことは、きっとマイルストーン鉱山で唯一魔物が住みつくチムニー洞窟で何かが起きていると私は睨んでいるの!」
「きっとチムニー洞窟をこのまま放置し続ければ、前回と同じ様な事例が学園へ降り注がれる恐れがあるの!もちろん他の地域にもね!そこで私は、そんな事態が2度と訪れないように、チムニー洞窟の調査と魔物の凶暴化の原因究明を我らエースハインドの最優先案件に設定したの!」
ジエルの決断にイノリスだけは不穏な表情を隠せずにいた…
「…あんな学園、本当は無くなって良かったんだ!学園長が亡くなれば学園で暮らす他のクロコ達も自由になれた筈…」
「イノリス…」
「イノリス、あなた達クロコが学園を憎むのは無理はない!…けれであの学園に真の悪は存在しないと思うし、そう信じたい!」
「たとえ学園に暮らす全てのクロコの権限を握る学園長先生が亡くなっても、クロコ達は、自由には成れないの」
『!?』
「実は私…学園長先生が保持している契約書の内容を知っているの…その契約書にはこう書かれていた…」
<この学園では奴隷と言う概念は存在せず、其方に新たにクロコと言う名の役職を与え、契約主の生死に関係なくエスペランス城の守護者として最後まで責務を全うすべし。 契約主 エスペランス・グリーンウッド>
『………』
「…学園長先生は契約書に書かれた二人の責務を放棄させ、貴方達の足枷を解いてくれた…その結果、晴れて貴方達は学園の守護の任から外れる事になったの!…あと、学園長先生に直接聞いた話では学園関係者とクロコ達の会話を禁止するとは、学園長先生の口からは一切発言した記憶はないそうよ」
ジエルの話を聞いた上で、イノリスは学園長に対する認識を改め直していた…
「契約書にその様な内容が記してあったなんて知らなかったです…何より学園内での僕達には行動の制限は存在していなかったんだ…でも、確かに僕達クロコと学園関係者には見えない壁が存在していた…初めてジエル様と喋った後、僕はクロコの先輩に現場を見られ、こっぴどく怒られた…けれど、学園からは特に処罰は無かったんだ」
「クロコ達は、学園にいる事で逆に学園から守られている所も少なからず存在したと私は感じているわ!今回のブラックドラゴンの強さは想定外ではあったけど、本来は並の魔物ではエスペランス学園に近付く事はおろか、エスペランス城を陥落させる事は出来ない…だって、学園には戦闘力の高い職員やクロコ達も多く在籍しているのだから…」
「結果、何が正しいて何が間違っているのかは、今はまだ決めかねないけれど!私は『私の魂を信じて行動する』と心に決めていたの!」
(ジエルさんが抱く感情はゲームのプログラムの一つなのか、そうじゃないのかは、この先考えない様にしよう…確かな事は、今この世界にジエル・インクリットは生きている。 彼女の思い・願いに心動かされる人間は多く存在するはず…俺はそんな彼女のためにも、彼女を守る力と手に入れたい…)
ー 青年はこの世界に確かに存在する『目に見えないプログラム』について度々考えさせられていた…尊敬するジエルの言葉一つ一つやイノリスが抱いていた歯痒さ…その全てが本当に人工的な物なのか…青年は一旦このゲームをただのゲームとして考える事を辞める事にした…青年は改めて、ジエル達この世界の住人の命を本当に存在する命として扱う事を…
「ゴッホん!」
「話を戻すわね!私達はチムニー洞窟を攻略するためにまずは、装備品や各種アイテムをグシップの街で調達しなくてはならない!」
イノリスが学園長に対する蟠りをほんの少し払拭した後、ジエルはこの先自分達がダンジョン攻略の前にしなくてはならない要件を説明していた…
「装備品やアイテムが揃った後、私は貴方達二人に修行をつけるわ!本来のチムニー洞窟の難易度は低いとされているの!けれど現在発生しているフェノフェロウにより、この世界の魔物の強さ基準が乱れてしまっている…その為、二人にはある程度の強さを身につけて貰うわ!そして、最終的に強さを認められた者のみチムニー洞窟へ連れて行くわ」
「もし認められなかったら…」
青年が不安そうな声でジエルに問いかけた。
「もちろん連れていかないわ…お家でお留守番よ」
「猶予は今日から3日間…元々君たちは、学園長先生に強さを認められて私のパーティーに選出せれた、いわばクロコのエリート!きっと私の試験をクリア出来るはずよ」
笑顔の無いジエルの発言により妙な緊張感がこの場に走った。
「そうと決まれば、早速グシップの町へ出掛けましょう!」
急遽決まったダンジョンへ同行する為の試験…果たして、青年はジエルが課す試験に合格することは出来るのか?
チムニー洞窟攻略作戦まであと2日…