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フィリア

「好きです!」



ブラックドラゴンから学園を守る戦いを終えたばかりの青年が、勇者を名乗る金髪の女性『ジエル』に突如、愛の告白をした…


「え!?」


突然の青年の告白に、頬を赤らめながら動揺するジエル。


「…えーーーー!?」


何故か、告白されたジエルよりも動揺を見せる青年。


「えーと……つい…あの〜ごめんな…さ…い…」


『ビリ…ビリビリ…』


『バッタン!』


唐突なジエルへの告白を謝罪する途中…青年は突然その場に倒れ、意識を無くしてしまった。


「やだ!私ったら、雷を纏っている事忘れて彼に握手をしてしまったわ!」


雷を纏い、白く発光しているジエルが青年の意識を喪失させた自身の握手すぐさま解除した。ドラゴンを倒した時の凛としていた態度から一変、自身が犯してしまった失態を悔やむように、その場で慌てふためいていた…




ー 時間は流れ…次の日。



「……う…体中が痛い…筋肉痛かな?」


青年は、寝返りを打った時の体の痛みでふと目が覚めた。


「朝か?ん?こ…ここは?」


突如目覚めた青年は、ゆっくりとベットから起き上がると…高価そうなインテイリアが随所に置かれていた見知らぬ部屋で、自身の体力を回復していた。


『スヤスヤ…』


『!?』


この部屋から自分以外の人間の気配を感じた青年は、気配がある右側に視線を移すとそこには…椅子に座りながら居眠りをしているジエルの姿があった。


(ハッ!?彼女は昨日、俺を助けてくれた女性?よく分からないが記憶が断片的だ…彼女と出会った後のことが全く思い出せない…)


青年が自身の記憶を思い出そうと、体をくねらせながら記憶を振り絞ろうとしていると…椅子に座りながら寝ていたジエルが目を覚ました。


『…パッ!』


「私ったら、座ったまま寝てしまっていたのね…『!?』…よかった…やって目が覚めてくれた…」


ジエルは突如、目を覚ました青年の手を握り、青年の両手を上下に振り回しながら青年が目覚めた喜びの大きさを手の動きで表現した。


『ブンブンブン』


「あの…俺は一体?」


「ふふふ…ごめんなさい! 私ったら嬉しさのあまり、また暴走してしまったわ」


ジエルは掴んでいた青年の腕を一旦離し、恥ずかしそうに小さく笑った。


「すみません…俺、あなたと握手をした後から記憶が無いんです! 俺に一体何が起きたんですか? それと貴方は何者なんですか?」


「…」


青年の問いかけに対してジエルと青年の間に少しの沈黙が流れると、少し照れながらジエルの方から青年にこれまでの経緯が語られた。




「記憶が曖昧…なるほど!そっか…それは悪い事をしたわね…ゴホン!それでは説明させて貰うわね!改めまして、私の名前はジエル・インへリット!この間までこの学園の生徒だったの!今現在は、学園長からの特別任務の命を受け1週間ほどこの地域とは別の場所で任務をこなしていたの!」



「偶然、任務の帰り道にマイルストーン鉱山から現れたブラックドラゴンを発見し、ドラゴンの後を追う内にドラゴンの目的がエスペランス学園であると睨んだの!その事実を学園長に伝え、私自身も1日掛けこの学園に戻ってきたの!結果、この学園でブラックドラゴンと戦う貴方と出会うの」



「私は、ドラゴンの弱点の一つである雷属性の技を取得していたから、貴方がドラゴンを弱らしてくれた事も相まって、何とか一撃でドラゴンを討伐する事に成功した!その後、私のせいで意識を失った貴方をこの部屋に連れて帰ったの…」



「それと!貴方がが寝ている間に昨日の戦いに参加した学生や教師達が貴方のお見舞いに大勢駆けつけてくれたの!その中の学生の一人が私に教えてくれたわ。貴方がたった一人でこの学園を守ってくれた事…冷魔の結晶を使ってドラゴンに致命傷を負わしてくれた事!そのお陰で私の一撃が奴に届き、ブラックドラゴンを討伐する事が出来たのだと」



「昨日の私は、偉そうに学園を代表してお礼を言わしてもらったけど、本当の意味で学園関係者全員貴方に感謝していたわ!改めて学園を…皆の命を守ってくれてありがとう!!」


ジエルは昨日と同じ凛とした表情で、学園を救った青年に深々と敬意を込めたお辞儀をした。



「それと、もう一つ貴方に謝らないといけない事があるの…怒らずに聞いてほしい…」


「戦闘終了後、私が使用した雷魔法の影響もあり、私自身に雷が付与されていることをすっかり忘れていたの。そして、貴方対して突飛に握手を強要してしまったの…その結果、雷が弱まっていたとは言え、貴方は私の雷で感電してしまったの…その後の貴方は、私の握手の影響でその場で意識を失い倒れ込んでしまったの…」



青年は、彼女の誠意ある説明により今の状況を素直に飲み込む事ができた。


「偉そうだなんて思ってません…貴方が急いで駆けつけてくれなければ、この学園は崩壊してました!それに、握手を返したのは俺の意志です…結果的に俺は感電はしましたが、貴方が助けに来なければ、もちろん俺自身もこの学園にいる全ての人間が死んでいました…感謝をしなくてはいけないのは俺の方です!!」


「…グッスン」


『ポタポタ…」


「え?なんで?」


青年の心の籠った感謝の言葉を聞いたジエルは突然泣き出してしまった。


「うえーん!! そんな事言ってくれるなんて、逆に感謝だよ〜」


感極まるジエルを何故か命介抱する青年…青年はこの時、改めてドラゴンとの戦いを生き抜いた喜びを初めて実感出来た。


(なんて天真爛漫な女性なんだ…初めて会ったのに何故か懐かしい感覚だ…)





ー ジエルの精神状態がひと段落した頃…青年とジエルが休息していた部屋へ、とある女性が訪ねてきた…




『コンコン!!』


「失礼します!目覚めて直ぐで申し訳ないのですが、学園長がお二人をお呼びです」


クロコらしき一人の女性が、学園長の名により目覚めたばかりのジエルと青年を呼びに室内へ入ってきた。


「早速お呼び出しね!…彼も私も気持ちの整理が出来た事だし学園長に挨拶に行くには丁度いいかもね」


青年は軽い身支度を済ませクロコの女性の案内の元、学園長が待つ学園長室へ足を運んだ…


『コンコン!!』


「学園長様!ジエル様と例の青年をお連れしました!」


「…入ってくれて構わないよ」



学園長室から渋い男性の声が聞こえて来た…ジエル一行は男性の声に導かれると、豪華な木製の椅子にどっしりと座るメッシュが入ったオールバックの男性が笑顔でジエル達を出迎えてくれた。


「No.291号!昨日のそなたの活躍によりこのエスペランス城…いやこの学園に関わる全ての命が救われた!この城の王であり、学園の長でもある私からも礼を言わして貰よ!この度の活躍、見事であった!!」


「そして、この学園のエース!勇者ジエル!そなたもその名にふさわしい活躍であった!改めて、命を救われた一人の人間として本当に感謝している!ありがとう!」



学園長が椅子から立ち上がり二人に対して深く頭を下げる姿に、無性に清々しい気持ちになった青年であった。


学園長からブラックドラゴン討伐に対する青年達への賞賛が終わると、学園長が今世界で起きている現象について話し始めた…





「1ヶ月前、勇者ラッシュ・クロスロードが帝国軍による世界征服の危機から救ってくれた…しかしその後、一部の魔物が凶暴化している事例が報告された…そんな中、勇者ラッシュが攻略した筈のダンジョンに、新たなダンジョンマスターが出現したとの報告も出ている!そんな混乱の渦中にあるこの世界に、新たなる悲劇が生まれている…それが未確認の新たなダンジョンの出現である…」



(思い出したぞ…勇者が世界征服の危機を救う物語がゲームで言う所の一周目…そして、俺が今体験している出来事は『その後世界』…いわゆる二周目に当たるのか…)


青年は何の手違いか、自身が体験しているゲームの内容が、二周目の世界線である事に気付かされた…そんな青年は、一度プレイした事のある筈のこのゲームに関する自身の曖昧な記憶を整理する為に、一旦学園長の話の続きを聞く事にした。




「我々は、勇者ラッシュと帝国軍の大神官『デスペル』の戦いを惑星聖戦と呼び。惑星聖戦以降の世界異変を、『フェノフェロウ』と呼ぶ事にした。そして、このフェノフェロウの一環と位置付けられた新たなダンジョンの調査を私が1ヶ月前からジエルに依頼していたのだ」



フェノフェロウについて語る学園長に、ジエルが自身の依頼主である学園長に補足説明をし始めた。


「学園長先生からの依頼であった、エンプ湖に出現した新たなダンジョンの調査ですが… 攻略難易度は最高ランクのSSで間違いないと思われます!そんな新たなダンジョンには強力な敵が多く、私一人で調査できたのは一層のみが限界でした…」


「勇者である君が一階層で手こずるとは珍しい…どんな強力な魔物が出現したんだい?」



一般的にダンジョンの一階層に出現する魔物と言ったら、低レベル且つ力の弱い種族が大半を占めるはずが、ステータスの高いはずの勇者ジエルが苦戦した事に学園長は驚きを隠せなかった…


そんな中、ダンジョンの危険性を肌で体感したジエルが、自身を手こずらせた魔物の正体を学園長に解説した。



「私の行手を阻んだのは、1匹のゴブリンでした」


「!?…何だって?あの貧弱で有名なゴブリンに勇者が手こずっただと…」


勇者を苦しめた魔物の正体に驚いた表情を見せる学園長にジエルは、そのゴブリンの特徴を自身が知り得る限りの特徴を学園長に報告した。



「そのゴブリンの見た目は普通のゴブリンと何ら変わりはありませんでしたが、初めて見る技や本来覚えるはずの無い魔法を繰り出して来ました…私は何とかそのゴブリンの討伐には成功したものの、この先に待ち受けるダンジョンの恐ろしさに恐怖し、この場からの撤退を余儀なくされました…」


「その後、エンプ湖の攻略に失敗した私はダンジョンの帰り道に立ち寄ったマイルストーン鉱山にて、ブラックドラゴンが出現するのを目撃したのです。私は、驚異的な力を持ったブラックドラゴンをこのまま野放しにしてはいけないと思い立ち、ドラゴンの後を追う事にしました…ドラゴンを追ううちに奴の目的地が学園である事に気づいたんです…私は直ぐに学園にドラゴン襲来の報告する事にしました…」


「その後は、皆が知るように青年と私がブラックドラゴンを討伐するに至るのですが…私はそんなブラックドラゴンに関する重大な事実を知る事になのです…その事実とはドラゴンの瞳の色です!!そう…エンプ湖に出現した特殊なゴブリン…そして凶暴化したブラックドラゴン…とも共通して瞳が赤く変色していました…」



「瞳の色が赤く変色した?…なるほど…それが凶暴化の特徴なのか?…ジエル君!よくやった!君のおかげで謎だった魔物の凶暴化についての情報が一つ進展する事が出来た!感謝する!」


「校長先生…」


「………」


ジエルの解説を聞いた上で、学園長はフェノフェロウの現象の詳細について大きな一歩を踏み出した事を確信した。


適度にジエルと雑談を済ませた学園長は、まだまだ謎の多いフェノフェロウについての詳細をより明らかにする為に、新たなる指令をジエルに下した。



「ジエル君…早速だが君に新たな指令を与える事にする…それは…君とそこに居るクロコの二人と共にマイルストーン鉱山の調査を行って来て欲しいんだ!」


「………3人ですって?」


「ん?何か不満でもあるのかい?」


学園長が進める3人でのマイルストーン鉱山の調査を依頼されたジエルは学園長の指示に難色を示した。



「学園長先生…お言葉ですが、彼らにはまだ謎が多いフェノフェロウ後のダンジョン攻略は二が重すぎると思われます…」


ジエルは、学園長に凶暴化した魔物の恐ろしさを伝えた上でクロコ達の様な非力な者達を戦いに巻き込む事に異を唱えた。


「未知の敵との戦いには、やはり戦いのプロを導入するしか無いと私は考えます…そうだ!学園にはもう一人勇者がいるじゃありませんか?本当は今日、彼の歓迎パーティーが行われるはずではありませんでしたか!?偶然にも彼が戻ってくることのタイミングで彼に事の経緯を説明しましょう!きっと彼なら私達に協力してくれる筈です!!」



「ジエル君…その事なんだが…」


ジエルの問いかけに学園長は俯き、沈んだ表情で何かを語る素振りを見せたその時…





『バッタン!』



「その話は私に生き継がせてもらうわ!」



突如開からた扉の前には、黒髪が際立つ長身の女性が、堂々とした面持ちで青年達の目の前に現れた。


『!?!?』


目の前に現れた謎の女性に対してジエルは目を輝かせて、黒髪の女性に勢いよく飛び付いていった。



「ルビィ先輩お久しぶりです〜お変わりなさそうで安心しました!」



ルビィと呼ばれる謎の女性に、体を密着させながら抱きつくジエルの姿を目の当たりにした青年とクロコの女性は、この場で何が起きているのか理解出来ずにいた。


「ちょっとジエル?皆さんの困惑した眼差しが気にならないの?」


「あら、私ったらいけない…つい愛する先輩を目の当たりにして、我を忘れてしまったわ」



「ゴッホン!ジエル君もう落ち着いたかね?感動の再会は後でして貰うとして、彼らにルビィ君の紹介をしてあげたらどうだい?」


ルビィに再会できた喜びを、スキンシップという形で表現したジエルに対して流石の学園長の目のやり場に困ったのか、興奮するジエルを一旦落ち着かせ、ルビィの素性を全く知らない青年に彼女の説明をするように促した。



「すみません…もう落ち着きました!では、僭越ながらこの私が彼女を紹介させてもらいます」



「彼女の名前は、ルビリー・デュアリス」



「彼女は私が大尊敬するこの学園の一つ上の学年の先輩であり、希少な赤魔道士でもあります!何と言っても彼女は、ラッシュ・クロスロード率いる勇者パーティー’エースハインド’と元帝国軍の大神官・デスペルと戦い『惑星聖戦』を戦いに抜き、見事悪の大神官デスペルの野望を打ち破った英雄の一人であらせられます」


「はい!拍手〜」


『パチパチパチー』


ジエルによって拍手を強要された青年は、ルビィと呼ばれる大人の女性の事をしっかりと思い出していた。



(彼女の事は覚えてるぞ!主人公の最初の仲間だ!俺の知る初期の彼女より経験を積み大人の女性に変化した印象だな…実際に生で見てみると印象が違う物だな…彼女から妖艶な大人の色気を感じる…何より見た目はまだ若いが、大義を果たした自負からか彼女から自信に満ち溢れたオーラが放たれている…)


青年がルビィに対して関心を寄せていると、ルビィの口から思いも寄らぬ言葉が返ってきた…


「私はそんなに偉い人間ではありません…ただの非力な一人の人間なのですから…」


「そんな事ないわ!先輩は私の…いや全生徒の憧れであり、この学園の誇りよ」


敬意と尊敬を込めたジエルの言葉も、今のルビィには全て裏目に聞こえてしまっていた…その後。ルビィの表情はみるみる内に曇ってゆき、思い詰めるルビィから謝罪と思われる言葉が彼女の口から語られた…


「…」


「まずは、私の口から惑星聖戦の経緯から説明させて貰います…そもそも私達、勇者パーティーはこの世界の秩序の均衡を守るために誕生しました!その秩序を破ろうとしたのが帝国軍でした」


「不穏の始まりは、帝国軍の王であるジョルジュ四世が謎の死を遂げた事がきっかけでした…そんなジョルジュ四世の死を裏で操っていたのが、帝国軍の直属の大神官『デスペル』だったのです」


「デスペルは己の欲望のためにジョルジュ四世を殺害し、帝国を引き継いだ息子のジョニーを言葉巧みに操り帝国軍を実質我が物にしてしまいました!帝国軍を我がものにしたデスペルは、新たに手に入れた帝国軍という名の力を使い各国々に対して戦争を仕掛けます」


「その結果、帝国軍によって発生した無意味な戦争を止める為に我々勇者パーティーが立ち上がったのです!その後の我々は、帝国軍の刺客と戦いながら帝国軍…いやデスペルの真の目的を掴む事に成功したのです…」



「それはセカンドムーンとの一体化です」



『!?』


(思い出した…この世界には月が二つあるんだ!一つは白い月…ファーストムーン!もう一つは黒い月のセカンドムーン…そう言えば、今現在は黒い月は見当たらないな?)


青年はルビィの話からこの世界の決まり事をまた一つ思い出していた。


「セカンドムーンとは一体何なんですか?ただの小惑星じゃなかったんですか?」


疑心暗鬼のジエルは、自身が知る由もなかったセカンドムーンの正体をルビィに問いかけた…そしてルビィは、神妙の面持ちでセカンドムーンの正体をこの場にいる全員に説明し始めた…




「セカンドムーンの正体は…巨大な魔石よ!」



『!?!?』


「一部の一族にだけ開示されていた古文書によると古代文明が栄えていた時代に地上で誕生した一つの特殊な鉱石が、地上のマナを吸い上げ巨大な一つの魔石に姿を変えたの!その魔石は年を重ねるごとに、どんどんその質量を増やしていった…ある時、巨大な魔石は月の引力に導かれるように地上から空へ吸い込まれるように宇宙へ消えていった…」


「大神官デスペルの正体は、なんと古代の時代に魔石を守っていた古代文明の一族の末裔だったの!彼は一族の伝承によりセカンドムーンの正体やその力の大きさを既に知っていたの!そして、自分自身の素性を隠し虎視眈々とセカンドムーンを手に入れるタイミングを見計らっていたの」


「デスペルは帝国軍が手にしていた最先端のテクノロジーに目をつけた…その後自身が帝国軍で権力が備わった事を認識すると、自身の権限を利用しセカンドムーンに接近する為のロケット開発を促したの」


「デスペルはロケット開発だけではなく、独自の研究により魔石の仕組みを解明し、機械の力と魔力の力を融合した人工魔石を作ることに成功したの!その後デスペルは、セカンドムーンの性質に近い特殊な人工魔石を作ることに成功したの!その人工魔石を自身の体に移植しセカンドムーンとの融合に備えたの」


「彼はセカンドムーンと一体化して何を成し遂げようとしていたの?」



ジエルは自分の知らない所で起きていた巨大な陰謀の全容を聞き、得体の知れない恐怖を覚えていた。



「彼の真の目的は…全知全能の神になる事」



「全知全能の神ですって……」


「セカンドムーンはこの星のマナから出来ていて、セカンドムーンの本来の力を呼び起こし制御する事で、この星で起こり得るすべての出来事に干渉できる存在になろうとしていたの!!」



『……』


(既に最終回を向けえてる気分だぜ…)



青年は子供の頃、漢字がとても苦手だった…このゲームに出てくる全ての漢字のセリフには、フリガナが振れていなかった…その為、漢字が苦手だった青年はプレイ中に出てくる難しい漢字を全て流しながらプレイしていた事を思い出していた。


(俺がこのゲームの内容を『覚えいる』・『覚えていない』の差は、ゲーム内のセリフや説明文に漢字が多かったか・少なかったかの差だったんだ…)



青年が改めて自身の記憶が欠落していた理由を見出していた時…ルビィの説明が佳境を迎えていた…



「デスペルは私達より先にセンドムーンに到着し、魔石との融合に備えて深い眠りについてしまった…私達は限られた時間の中で新たなロケット手に入れた…そして、新しいロケットに乗りこみ、最終決戦の地であるファーストムーンまでやって来たの…そして、私達勇者パーティーはセカンドムーンと一体化したデスペルを見事倒し、もう一度ロケットに乗り込み、地上に帰ろうとした…だけど、私たちの狙いは大きく外れてしまったわ…」


「デスペルは、死に際に自身の最後の力を振り絞り、自爆を試みたの…デスペルの自爆によって発生した黒い光が私以外の3人を包み込み、ファーストムーンの半分と仲間3人を包み込み姿を消してしまったの…」


「ラッシュ達は残しておいた全ての力を使い、私だけを地上に帰してくれた…その後、地上に舞い戻った私は学園長と連絡を取り月で起きた出来事の経緯を伝えたの…」



『ガッツん』



青年は何かと何かがぶつかる音を耳にした…そう、それはジエルが膝から崩れ落ち、地面に膝をぶつけた時の音であった…


ジエルは、ルビィ以外の勇者パーティーの消息不明を聞かされたショックから両膝を突き地面に崩れ落ちてしまった…


「…本当にごめんなさい…ラッシュが消息不明になった事、伝えないように学園長に指示したのは私なの…ジエルが悲しむのをが見たくなかったから…」




ショックを隠しきれずに崩れ落ちるジエルにそっと寄り添うルビィは、行方不明の仲間たちに関する最新の情報を落ち込むジエルに報告した。



「ジエル!肩を落とすのはまだ早いわ!ラッシュ達はまだ死んだとは限らないわ!」



「!?…それは本当ですか?」



「えぇ…本当よ!彼らの生死に大きく関わるのが、彼らを包み込んだ黒い光なの!その黒い光の正体というのが『ブラックホール』なの…」


「ブラックホール?」


「えぇ…でもただのブラックホールではないの!魔力の籠った人工的なブラックホールよ!そんなブラックホールを発生させた原因となったのが、セカンドムーンの原型となった『Gストーン』と呼ばれる特殊な鉱石にあるの!」


「Gストーン?初めて耳にします」


「そんな世にも珍しいGストーンを見つけ出す事が、ブラックホールに飲み込まれたラッシュ達を救う手がかりになるの!」


『!?』


「Gストーンとはこの世界で唯一、重力魔法を生み出す事の出来る幻のアイテムなの!そんなGストーンを見つけ出す事が出来ればラッシュ達を吸い込んだブラックホールをもう一度発生させる事が可能なの!」


「なるほど…ブラックホールにはブラックホールという事ですね」


「そうよ!ブラックホールに閉じ込められたラッシュ達を救うには、こちらもブラックホールを出現させて、彼らを閉じ込めている扉を開く事が彼らを救う鍵になるの!」




ルビィ達の会話から、このゲームの2周目に関わるイベントの詳細を青年は読み解いていた。


(2周目に関わる大きなイベントが発生したようだな…セカンドムーンが消滅した事で新たな物語が進んでいく仕組みのようだ… 何より、2周目で一番重要なイベントは主人達の消息不明の手がかりになるGストーンを見つけ出すイベントのようだ!)



(そう…改めて俺が体験しているシナリオは2周目の世界だ!何故、1周目ではなく2周目から俺の冒険がスタートしてしまったのかは疑問に残るままだ…まだ問題は山積みだが、やっと自分の立ち位置が理解出来た…何より俺に心のゆとりが出来た事は確かだ…)



青年が自身の心の中でこのゲームに関する情報を整理している間に、またしても学園長とジエルがクロコである自分達の立ち位置について口論していた…




「改めてジエル君に特別任務を命ずる!それは、今この場にいる二人のクロコと共に、Gストーンの確保・凶暴化した魔物の討伐・新たに出現したダンジョンの攻略を君達にいや…新たな勇者パーティーに手伝ってもらいたい!」


『!?』


「ですから学園長!この任務には彼らは関係ありません! 今回はたまたま、うまく敵を退けたから良かったものの、また同じような奇跡は起こりませんよ」



ジエルは学園長の発言に声を荒げ反発した。


「君はこの度の291号の戦いを目撃していないはず!彼は本来、戦闘タイプのクロコではないのに関わらず、驚異的な適応能力でこの度の戦いで素晴らしい功績を残してくれた。そんな彼の勇気ある行動はきっとこれからの君の力になるはずだよ」


「…」


学園長の説得により、ジエルは少し冷静さを取り戻した。


「…そうだ!彼らではなくルビィ先輩と私でその任務を務め上げましょうよ!先輩となら私も心置きなく任務をこなせます!ねぇ先輩?」




学園長の説得をジエルは上手くはぐらかそうとしたが、ルビィが放った言葉にこの場いる全員が納得せざるをえなかった…



「…申し訳ない…今の私は、ただの人間なのです…」


「え!?」


「惑星聖戦時に全ての魔力と引き替えに、禁忌魔法である『アカシックレコード』を使用した反動で、今現在は魔力が生成できない体になってしまったのだ…」


「…何ですって!?あのアカシックレコードを!!」


「…」


「そうでしたか…事情も知らず、感情的になって申し訳なかったです」


ルビィはジエルの人間性を理解した上で、そっと彼女を抱きしめた


「良いのです、ジエル!あなたはとても慈悲深い女性で、この場にいる誰よりも弱者の味方であれる人間なのです!それも全てクロコ達の身を案じた行動だった事は周知の事実であり、それは貴方がアナタである最大の理由だと私を思うわ」


「けれど…それはアナタ一人の意見…アナタを守りたいと願う人間の声を聞いてみてから答えを出すのはどうかしら?」


「私を救いたいと願う人?…」


ルビィはそっとジエルの目の前に佇む青年に自身の人差し指を突き出した。



『!?』


青年はルビィに指をさされ一瞬動揺を見せたが、ジエルに対する素直な思いをジエル本人にぶつける事にした。




「俺の命はジエルさんに救われた!ジエルさんとまだ出会ったばかりだけど、彼女の力になりたいと願うのに出会った日数は関係ないと思う…だから今度は俺がジエルさんを救う番だ!」


ルビィは、青年のジエルに対する純粋な想いは、必ずジエルの力になると確信した。


「聴いていたかしらジエル?彼は決して弱い人間ではないわ!きっとアナタの力になってくれるはずだわ!私が保証する」


「…」


ジエルは頬を赤く染めながら『コクリ』と首を傾け、青年が自身の冒険に同行する事をやっと認めた。


「分かりました。けど…条件があります…学園長先生!二人の”契約書”を破棄させてください」


「君って人は…」


ジエルが放った”契約書”という言葉に幾多の修羅場を潜り抜けて来たであろう学園長を動揺させていた。


「契約書の破棄が私が彼らと行動を共にする条件です!私の意見が受理されたのであれば、学園長先生の命令通り私は喜んで彼らと共に旅に出かけましょう」


ジエルは明鏡止水の心で学園長に訴えた。


「…」

「…………」


「学園長先生!アナタの負けよ!」


「…分かった…」


学園長はジエルの心の強さと覚悟に負け、金庫から2枚の書類を取り出し、その書類に特殊な魔法を加えた…



「…ジエル君!これで彼らは君のものだよ」


『カッチン!』


「校長先生!失礼ですが、彼らは物でありません!!私達と同じ人間なのです…そして彼らはもう自由なのです」


「失礼…言葉が過ぎたよ…」



ジエルは、学園長からの詫びの言葉を噛み締めると青年とクロコの女性に向けて、とある約束を掲げた。



「二人とも!これから、もしも自分自身に危険が迫ったのなら、迷わず逃げなさい!」


『!?』



「誰のためでもなく自分のために逃げない!決して逃げる事は決して間違った行為ではありません! ソレは、私ではなく貴方達の命なのだから…何よりこれからは、誰かの為ではなく自分の為に生きてください!

これから貴方達の命は私が守ります!…さあ!私と共にフィリアな冒険に出かけましょう!!」


威風堂々と立ち振る舞うジエルの姿に、青年とクロコの女性は彼女の姿が女神に思えた。


「はぁ〜」



頭を抱える学園長を他所に、一際輝く笑顔を青年とクロコの女性に向けるジエルがこの場にいた!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 昔やったゲームの世界へダイブ……いいですね! 裏技の活用や、少年時代にやったゲームだからこそのうろ覚えな感じ……見ていてなんだか昔プレイしたゲームをやりたくなります( ´ω` )/ [一言…
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